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第7話 最高の景色の見つけ方


 ハンサムと別れた後、俺たちはひとまず宿屋を探すことにした。何をするにしても、ひとまずは落ち着ける場所を見つけたかったのだ。

 しばらく歩いていると、レンガ造りの宿屋を見つけた。街の上のほうに位置する、小さな宿屋だ。よく言えば古風だが、素直にいえばなんだかボロッちい。だがまあ宿屋であることには変わりないだろう。

 だって看板に「休憩」、「宿泊」って書いてあるし。


 …ラブホテルじゃないだろうな。

 

 中に入ると、親切そうなばあさんが受付をしていた。


「3人で泊まりたいんだが、部屋に空きはあるか?」


「同じお部屋ですか?」


「え? うーん、そうだなあ…」

 

 俺とエリゼは顔を見合わせた。

 たしかに、この問題は考えていなかった。

 メルルならどちらと寝ても大丈夫だろうが、問題は俺とエリゼだ。

 

…うむ、これは難問だな。俺の方から一緒の部屋に寝よう、とはとてもじゃないが言えない。なぜなら俺はチキンだからな。さて困ったどうしよう。

 などと俺がくだらないことで頭をうんうん唸らせていると、エリゼがはあとため息をついて会話に割って入った。


「同じ部屋で構いません」

 

 すると、受付のばあさんがニヤリと笑った。


「でしたら、とびきりの部屋がございます」


「とびきりの部屋?」と俺。


「ええ。ぶっ飛ぶようなとびきりの部屋です」


「どうぶっ飛ぶんだ?」


「そりゃあもう。ありえないくらいです」


「へえ…」

 

 やっぱりラブホテルなのか? とばあさんに尋ねそうになったが、もしそうだった場合になんだか恥ずかしい思いをしそうなのでやめることにした。

 

 それに、なんだかさっきからエリゼの視線が冷たかったからな。


 部屋に入ると、俺とメルルは思わず「おお!」と驚きの声をもらした。外装のボロっちい感じからは想像できないくらいに、部屋の内装が綺麗だったからだ。

 地球ではなかなか見られないようなウッドむきだしの壁に、板張りの床。ベッドは二つしかなかったが、ソファが一つ置いてあった。まあ、ここで寝るのは俺だろうな。

 だが、そんなことはどうでもいい。俺はとにかく、やっと屋根がある部屋でくつろげることがうれしかった。ので…


「きゃほう!」

 

 宿屋に泊ったら、最初にやることはまず一つしかない。俺は思いっきりソファにダイブした。

 はじめはベッドにダイブしようか迷ったが、そういえば昨日から風呂に入っていないことを思い出してやめた。

 後で寝るエリゼにぶっ飛ばされそうだからな。


「きゃほう!」

 

 といってメルルもベッドにダイブした。身体が軽いからなのか、ベッドの上で楽しそうにポンポン跳ねている。


「はしたないですよ、お嬢さま」


 コホン、と咳ばらいをしてたしなめるエリゼ。


「ガハハ! エリゼもやるのじゃ!」


「やりません」


 俺たちがダイブしたせいで部屋にまった埃を換気するために、エリゼは部屋の壁に備え付けられた大きな窓を開け放った。


「まあ…」


 エリゼは窓を開けたまま、しばらく動かなかった。


「どうしたんだ?」


「見てください、お嬢さま」


 俺のことは無視かよ、と文句を言おうとしたが、どうせ相手してくれなさそうなので言うのをやめた。


「なんじゃエリゼ」


 ベッドから飛び降りたメルルは、とてててっとエリゼのそばまで走り寄った。

 がしかし、背が小さいので窓の下枠まで頭が届いていない。


「うぬぬ。ワシをだっこするのじゃ奴隷!」


「はいはい、分かったよ」


 めんどくさいなあ、と思いながらも断ったら後が怖いので、俺はソファからやっとこさ起き上がって、メルルを抱っこしてやった。


「お、おおおお! これはすごいのぉエリゼ!」


 はしゃぐメルル。


「おいメルル。お前のピンク色の頭が邪魔で見えねえよ」


「ふん。貴様は見んでいいわ」


「いやそこは見せてくれよ、抱っこしてやったんだから」


「ったく、仕方ないのう」


 メルルは抱っこしている俺を振りほどいてエリゼに手を伸ばし、代わりに抱いてもらうように合図した。

 ようやく窓の外が見れると思った俺は、思い切って窓の外に顔を突き出した。


「お、おおお! こりゃすごいな。エリゼ、メルル!」


 視界に映ったのは、この街を見下ろせる美しい眺めだった。

 ここラスビレグは街全体が坂のような構造になっており、中心に向かうほど標高が高くなる。そして、この宿屋はその最上段に位置している。

 そこから段々と下るように家や店が並んでおり、巨大な街壁の向こうには雄大な渓谷が見える。


「なんて美しい眺めなんだ…」


 昨日までの疲れや、門扉でのトラブルや、そんなぜんぶを忘れて俺は見とれてしまう。

 美しい青空には雲一つなく、真っ赤な太陽が俺たちの頭上で煌々ときらめいている。


「ぷ、ぷくくく。こやつ言葉も忘れて見とれておるのお」


「そうですね、お嬢さま」


 ふと横をみると、エリゼに抱きかかえられたメルルが必死で声を出すのを我慢しながら、ニヤニヤした顔でこちらを見つめていた。


「う、うるせえよ!」


 恥ずかしくなった俺は、赤くなった顔をごまかすために頭を掻くふりをした。

 しかし、本当にすごい。地球にいたころは、こんな美しい景色があるなんて想像すらしていなかった。


「あのばあさんが言っていたのはこの景色のことだったんだな」


 俺たちはしばらく景色を堪能したあと、窓をしめ、これからのことについて話し合うことにした。



 この宿屋の名前は分からなかったし、またばあさんに聞きにいくのも面倒なのでとりあえず「ラブ―ホ」と呼ぶことにした。


「ラブ―ホとはなんじゃ?」とメルルに聞かれたが、なんとか俺の必殺渾身ギャグで話をごまかすことに成功した。


 俺たち三人は、ラブ―ホの一室でこれからの身の振り方について話し合っていた。


「まあ、とりあえずの問題は金だな」


「うむ」とメルルが頷く。


 そう、何をするにもまず金が要る。飯を食うにも金が必要だし、この宿屋の代金だって支払わなければいけない。そして俺たちは、一銭の金も持っていなかった。


「とりあえず職探しだな。エリゼ、何かいい職知ってないか?」


「ふむ。まあ、手っ取り早いのは冒険者だろうな。私は魔法も使えるし、難易度の低い依頼なら問題なくこなせるだろう」


「ふーん、冒険者ねえ」


 エリゼのいうことはもっともだ。

 職を探すにしてもすぐに働き口は見つからないだろうし、すぐに金のいる俺たちには冒険者はぴったりの仕事のように思える。


「よし、そうしよう。俺たち三人で冒険者になるんだ」


「おお! 冒険者、いいひびきじゃのう」とメルルもベッドの上ではしゃいでいる。

「…で、冒険者になるにはどうすればいいんだよ」


 いきおいよく啖呵を切ったはいいものの、何をしたらいいのかはまったく分からないので、俺はとりあえずエリゼに聞いてみることにした。

 エリゼはハア、とため息をつきながらもしぶしぶ答えてくれた。


「冒険者になるには魔法狩猟協会の認可が必要だそうだ。私も詳しくは知らんが、ギルドに行けば掛け合ってくれるだろう」


「ありがとうエリゼ。よし、善は急げだ。すぐにいこう!」


「おおー!」


 ソファの上でガッツポーズをした俺に合わせて、メルルも同じようにポーズを決めた。

 かくして、当座の目標は決まった。

 俺とメルル、エリゼの三人は、冒険者になるためにギルドに向かった。

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