第5話 最高の街の見つけ方
異世界生活二日目。
「きゅるぽー。きゅるぽー。」
「う、うるさい…」
いつ寝たのかも覚えてないくらいに眠ってしまった俺は、この「きゅるぽー。」というよくわからん鳥の鳴き声とともに目覚めた。
「うっ、痛ぇ」
起きた拍子に伸びをしようとしたが、全身が痛む。
それもそのはず。昨日、俺はくたくたになるまで火おこしをし、枕も布団も何もないかったい地面で眠ったのだ。
「そりゃ筋肉痛にもなるよなあ…」
もともと俺はただの大学生。ろくに授業にも行かず、引きこもってゲームばかりしていた俺の軟弱な身体は、とっくに悲鳴をあげていたのだ。
しかし、今にして思えば、昨日一日でいろいろなことが起こった。いや、起こりすぎた。
トラックに突っ込まれて死亡し、わけのわからん幼女をおしつけられ、おだてられるまま異世界へ転生させられたのだ。
「はあ、俺この先どうなるんだろ」
ふと横をみると、桃色の髪を携えたタンクトップショーパンの幼女が、朝日に照らされながらすやすやと眠っている。
「黙っていればただのかわいい子供なんだけどなあ…」
そう、こいつは見た目だけはたしかにかわいい。
こいつの寝顔を見ていると、なんだか自然に笑みがこぼれてしまう。
しかし、いやまてまて泥一、その表現はまずい。このかわいいは親戚の子供とかに向けるかわいいであって、決してロリコン的なあれではないぞ。
などと俺が脳内セルフ弁護をしていると、
「この、ペドクズが」
いつのまにか横にたっていたエリゼが、まるでペドフィリアのクズでも見るかのような目で俺を睨みつけているのだった。
「い、いや待て待てエリゼ。これは決してそういう意味ではないぞ」
「ふっ、どうだかな。先ほど気持ちの悪い顔で呟いていたではないか。こんなかわいい幼女ははじめて見た、襲ってやろう、と」
「そこまでは言ってねえよ!」
「そこまでは、ということは少しは卑しい気持ちがあったということだな」
「くっ、こいつシンプルにレスバが強い」
何も言い返せないでいる俺を鼻で笑ったエリゼは、その美しい金髪をサッと横にはらい、俺のほうへ指差しした。
「お嬢さまが起きる前に朝食を採ってくる。分かっていると思うが、お嬢さまには手を出すなよペドクズ」
「だすわけねえだろ…」
「ふっ、口ではなんとでも言えるがな」
さんざん罵倒したあげく、俺にペドクズという新たな蔑称を授けたエリゼは、それだけ言ってしまうと森のなかへと消えてしまった。
焚火は、いつの間にか消えていた。
「一応、火おこしとくか…」
手持ちぶさたな俺は、エリゼが採ってくるであろう山菜を焼くために火をおこしておくことにした。
*
二回目ということもあって、火は思ったより早くついた。
人間というのは何にでも慣れてしまうものだ。
火をおこすために枝をコスコスしている俺の姿があまりに美しすぎたのだろう。
途中で起きてきたメルルが眠たい目をこすりながら、
「洗練されすぎててきもいのう…」といった。
俺は、ほんのちょっとだけ泣きそうになった。
時間はいくらでもあるとはいえ、いつまでも山にいるわけにもいかない。朝食を食べて元気になった俺たちは、さっそく旅立つことにした。
エリゼは、メルルのお目付け役になるにあたってこの世界のことはだいたい把握しているらしい。
そのエリゼによれば、この森の近くに大きな街があるのだそうだ。そこは裕福な貴族が統治している町で、インフラもかなり行き届いているらしい。
…といっても、この世界のインフラがどの程度のものか分からないのであまり期待はしていないが。
そもそも、俺が期待しているのはそんなことではない。
なんと、その町には「ギルド」なるものが存在しているというのだ!
どうにも、この世界には「魔法狩猟協会」というすべての冒険者を束ねる組織があって、「ギルド」とはその支部のような存在にあたるそうだ。
ああ、ギルド。なんとも心躍る響き。ゲームやアニメのなかだけに存在する世界が、現実にあるのだ!
あまりの嬉しさに、思わず「ふっ、ふっ」と笑みがこぼれてしまう。
「あの男を見てくださいお嬢さま。気持ちの悪い笑い方ですよ」
「そうじゃのう、たしかにちとキツイのう…」
エリゼとメルルは耳打ちしながらひそひそと話しているが、森は静かだし、二人の声が思ったより大きいので、会話の内容がすべて筒抜けになっている。
「こいつら好き勝手いいやがって…」
こんな二人にいちいちツッコんでいたらきりがないので、すっかり諦めてしまった俺は、さっさと先へ進むことにした。
半日ほど歩いただろうか。やっとの思いで森を抜けると、遠くのほうに街が見えた。町は巨大な白い壁に囲まれていて、そのすぐ横には深さ数十メートルはありそうな巨大な渓谷を携えている。
「あれが…街……?」
それは、街というにはあまりに巨大すぎた。むしろ、一つの国と言ったほうが表現としては適切なくらいだ。
もっと現代的で簡素な街を想像していた俺は、そのあまりのスケールに圧倒されてしまう。
「おいおいなんだよこれ、東京ドーム何個分なんて話じゃ済まないぞ」
あまりの衝撃に開いた口のふさがらない俺を横目に、エリゼはふっと笑った。
「貴様が驚くのも無理はあるまい。ここはビアムントのなかでもかなり巨大な街のひとつだからな。といっても、私も直接見るのは初めてだが」
「の、一つってことは、これくらいの大きさの街が他にもあるってことか!?」
「ああ。ビアムントは比較的平地が多く、地震も少ない。だからビアムントではあらゆる場所でこのように巨大な建造物が数多く存在するんだ」
「す、すげえよエリゼ! 俺本当に異世界にきたんだな!」
「何をいまさら」
そうはいいながらも、ふっと微笑むエリゼの表情はとても穏やかだった。
「ガハハハ、街じゃあ!」
俺のテンションに触発されたのか、あるいは初めてみる街に興奮したのか、メルルは楽しそうな様子で街まで走っていった。
「お、お待ちくださいお嬢さま!」
追いかけるエリゼ。
速すぎてもう見えなくなっているメルル。
俺は二人を追いかけるようにして、駆け足で街まで向かうのだった。




