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第3話 最高の移住先の見つけ方

 

 さて。かくして俺はよく分からん神サマの妹、もといヴォルフガング・メルルという幼女を連れて異世界を旅することになった。

 

 いろいろ話が飛躍したが、フィウスがいうにはこういうことらしい。

 要約すると、フィウスたちはいろいろな世界を管理する、いわば神サマのような存在で、俺がもといた地球もその一つなんだそうだ。

 メルルもあと何年かすればその管理者にならなければいけないらしいが、その前に実地体験として異世界でいろいろ勉強させたいというフィウスの親心だそうだ。

 

 そんなことをする必要があるのか? と俺が尋ねると、


「名ばかりの管理職よりも現場のたたき上げの人間のほうが優秀、なんてことは君の世界でもよくあることだろう?」という理屈らしい。

 

 よく分からんがずいぶん俗物的な神サマもいたもんだ。

 

 しかし、いくら神サマとはいえメルルはまだ子供、そのお目付け役が必要だとのことで、俺が選ばれたんだそうだ。


「…ところでフィウス。なんで俺を選んだんだ? 自慢じゃないが俺はそれほど優秀な人間じゃない。お目付け役なら他にいくらでもいるだろう。それこそ、エリゼさんでも問題ないはずだ」

「エリゼはもちろん同行させる。メルルの親友だからね。しかし、彼女はすこしメルルに甘すぎるきらいがあってね。時にはメルルをしかれる役割も必要だろう」

「…人間を同行させる理由は分かった。だが質問の答えになってないぜ、フィウス。なんで俺なんだ?」

 

 フィウスはふっと微笑み、振り向きながら答えた。


「それはね、僕が君のことを気に入っているからだよ」

「はあ?」

 

 この神サマは何を言ってるんだ、と思ったが、口には出さないことにした。

 これ以上何をきいても答えてくれそうになかったからだ。


「さて!」といってフィウスは両手をパンと叩いた。

「君にはメルルの旅に帯同してもらうわけだが、もちろんすべてを任せっきりにするわけじゃない。これは勝手なお願いだからね。だからメルルの身の回りの世話はエリゼにまかせてある」


 フィウスがおーい、と呼びかけると、そういえばさっきから見かけていなかったエリゼさんが、


「お呼びですか、フィウスさま」

 

 と、どこからともなく現れやがった。


「ああ。これから君と旅する泥一くんだ。挨拶してくれ」

 

 俺の方をちらっと見たエリゼさんは、表面上うやうやしい態度ではあるものの、まったく笑っていない目で睨みつけながら挨拶をした。


「エリゼと申します。よろしくお願いいたします泥一様」

「あ、ああ。よろしく…」

 

 はっきり言ってこわい。

 絶対この人俺のこと嫌いだ!


「ところで泥一くん。ものは相談なんだが、君はどこの世界に転生したいんだい?」

「え、それって選べるのか?」

「もちろんさ。元はといえば無理なお願いだからね。君の好きなように選ぶと良い」

 

 

 ほう。そいつは耳寄りな情報だ。

 どうせこのまま地球で生き続けてもたいした人生は送れなかったんだ。だったら、異世界で人生やり直すってのも案外悪い話じゃないのかもしれない。


「あ、でも地球以外でたのむよ。いちおう君、地球では死人だしね」

「もちろんだ」

 

 もう一度地球に戻るって? 冗談じゃない。就職、労働、面倒なだけの恋愛。

 あんなクソみたいな環境に戻るくらいなら。死んだ方がマシだね。

 

 …いや、というか俺死んだのか。


「でも、そういえば俺の死因聞いてなかったな。なんで死んだんだ?」

「うーんとね。何だったかな」

 

 フィウスは人差し指でこめかみをトントン叩き出した。


「おいおい、他人(ひと)の死因くらいちゃんと覚えておいてくれよ」

「いやあ、地球だけでも毎日10万人くらいは死んでるからね。いちいち死因なんて覚えては…あ、そうだ。トラックだ!」

「トラック?」

「そうそう、君の家に4Tトラックが衝突してね。角部屋の君は即死だ。一軒家なのが仇になったねえ。ま、苦しんで死ぬよりはマシじゃないかな」

 

 何がマシだこの野郎。

 ていうか俺トラックに突っ込まれて死んだの? 

 道路でトラックに跳ねられて異世界転生はよく聞くが、家にトラックごとつっこまれて異世界転生は俺がはじめてではないだろうか。


「ま、落ち込む必要はないさ。人はいつか死ぬんだ」

「別に落ち込んでないけどさ…」

「そうか、それならいい」

 

 フィウスはにかっと笑った。

 まったく、子供みたいに無邪気に笑うやつだ。


「話を戻そう。それで君はどこの世界に転生したいんだい?」

「うーん。どんな異世界があるんだ?」

「いろいろあるけど、そうだな。文明レベルでいうと地球より発達しているのは2つだけだね」

「へえ。それってすごいのか?」

「そりゃすごいよ。そもそも知的生命体が存在すること自体が稀だからね」

 

 うーん、俺はアホアホ大学生だからそのへんはよく分からないが、まあ、生まれ故郷を褒められて悪い気はしない。


「とはいえ、誰もいない世界に転生させられてサバイバル生活! なんてのも困るな。俺、そういう能力は皆無だぞ」

「そんなことは見ればわかるよ」

 

 おい、この神サマときどき失礼だな。

 と、俺がつっこもうとした瞬間…


「ガハハ! 剣じゃ! 魔法じゃ!」

 

 フィウスの手前、じっとおとなしくしていたメルルもついに我慢の限界らしく、起き上がってドタドタと暴れまわりはじめた。


「はあ、まったく…」

 

 こめかみに手をやってため息をつくフィウス。

 …だが、待てよ。悪くない。

 案外、あの幼女はまとを射たことを言っているのかもしれない。


「そうだ、剣だ…」

 

 俺は思い出していた。

 大人になるにつれ、いつしか忘れてしまっていた童心。

 それを取り戻すチャンスじゃないか。


「そうだ、剣だよフィウス。どうせ転生するんなら、剣と魔法の世界なんだよ!」


 興奮した俺は、いつの間にかフィウスの肩をつかんで前後に揺らしていた。

 俺のあまりの熱量にじゃっかん引いているフィウス。


「わ、わかったよ泥一くん。君の望みなら、そういう世界に転生させよう」

「そういう世界があるのか!?」

「ああ、任せてくれ」

 

 とりあえず離してくれよ、と言わんばかりにすまなそうに俺の手をどけ、またしてもこめかみをトントンと叩くフィウス。


「うーん、どこがいいかな…。あそこは泥一くんの生きていける環境じゃないしなあ。うーん、こっちは…あ、だめだ。いま世界規模の戦争中だった」

 

 おいおい、どこの世界もやることは一緒だな…と、俺が世の無常を嘆いていると、


「ここだ!」とフィウスが大きな声をだした。

「「ほんとか!?」」

 

 俺とメルルが同時に叫んだ。


「ああ。君とメルルにぴったりの世界だよ。名はビアムント。広大な自然と海洋がそのほとんどを占める惑星さ。おまけに、ビアムントではすべての人間が魔法を行使することができる。まあ、科学の代わりに魔法が発展した世界の典型だね」


「ビアムント、剣と魔法の世界…!」

 

 俺の胸のなかに、熱い何かがこみ上げてくる。

 地球ではもんなしの大学生だった俺が、何やかやで異世界転生。

 人生なにがあるか分かったものじゃないというが、まさか死んだ後でこんな幸運にめぐりあうこともそうそうあるまい。


「では行ってきたまえ泥一くん。時は金なり、とは君の世界の言葉だろう?」

 

 フィウスはニヤリと笑い、指をパチンとならした。

 すると、何もなかった空間にいきなりワープゲートのようなものがあらわれた。


「これはワープゲートだ。入ればビアムントにワープできる」

「そのまんまだな…」

 

 俺がワープゲートに入るのを躊躇していると、フィウスがメルルに歩み寄って、ぎゅっと抱きしめているのが見えた。


「行っておいでメルル。しばらく君はこの世界で、エリゼと泥一くんから多くのことを学ぶだろう。しっかり勉強しておいで」

「お兄さま…」

 

 さっきまでうるさかったメルルも、さすがにこの時ばかりは目に涙を浮かべている。


「さて、エリゼも。僕は基本的に世界に干渉することはできない。向こうでのメルルのこと、任せたよ」

 

 そういってフィウスに抱きしめられたエリゼは、恥ずかしそうにはい、と頷いた。


「さて、最後に泥一くん」

「なんだよ。俺はもう行く気まんまんだぜ」

「ははっ、それはいい」といってフィウスは笑った。

 

 しかし、俺の手をぎゅっと握り、真面目な声で呟いた。


「妹のこと、頼んだよ」


 その時のフィウスの顔は、神サマのものでもなく、俺に向けるものでもなく、間違いなく、一人の兄としての顔だった。


「ああ、任せとけ!」

 

 メルル、エリゼ、そして俺。

 俺たちは今、ワープゲートの前に立っている。その先に待ち構えているのは、剣と魔法の世界ビアムント。

 何が起こるのかは誰にも分からない。

 けれど、せっかくの異世界だ。最高に楽しんでやる。


「いくぞ、エリゼ。メルル!」

「もちろんだ」とエリゼ。

「おう!」とメルル。


 俺たちは、三人同時にワープゲートへ飛び込んだ。

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