第28話 最高の街ラスビレグへ。
瞼の上が真紅の炎で包まれた後で、また、もとの暗闇に戻った。
俺にできることはもう何もない。
もういちど目を開けて、そのときスタンが立っていれば俺たちの負けだ。
俺はそっと目を開けた。
そこに立っていたのは…
「クハハ! 何を寝ておるのじゃ泥一よ!」
ちっこい身体でふんっと腕組みし、俺を見下ろしている子ども。
ピンク頭の神の妹、もといメルルだった。
「メルル!」
俺は起き上がってメルルに抱き着こうとしたが、身体が言うことを聞いてくれない。
先ほどの戦いで、いくつか骨が折れたみたいだった。
「くっ…痛ぇ…」
「クハハ! 情けないのぅ」
そういうと、メルルは俺の近くまでよってきて、しゃがみこんでくれた。
俺はメルルのちっこい肩を借り、なんとか地面から起き上がることに成功した。
そして、俺のすぐそばには、メルルの魔法をくらって黒焦げになって横たわっているスタン。
「ど、どうして…あなたが……」
「げっ。お前まだ生きてるのかよ」
…いや、死んでたらそれはそれで困るんだが。
俺はスタンの生命力に驚きつつ、仕方なく答えてやることにした。
「ここに来る前に、メルルにかかった空間魔法を解いておいたんだよ。まあ、完全に解けるまでに時間はかかったけどな」
「どうやって、そんなことを…」
「まあ、企業秘密ってやつだ」
本当はエリゼが神の力を使って解いたんだが、まあ、そこまでこいつに教えてやる義理はない。あとはすべて終わるまでそのへんで気絶しておいてくれ。
俺はそのへんから手ごろな石を持ってきて、ゴン! とスタンの頭をぶっ叩いた。
妙なうめき声をあげた後で、スタンはばったりと気絶した。
「貴様、けっこうムゴいことするのう…」
メルルはドン引きしているが、そんなことは知らん。
「うるせえ、俺はこいつに殺されかけたんだ。文句言われる筋合いはない」
俺は手に持っていた石を放り投げ、どっかりと地面に座り込んだ。
もう身体が動かない。これで完全に終了だ。
あとはエリゼが、勝って帰ってくるのを待つだけだ。
「すまないがメルル、エリゼを助けてやってくれないか? 主人に助けられるのは癪だろうが、あいつの命のほうが大事だ」
しかしメルルはジッと遠くを見つめたあと、ブンブンと首を左右に振った。
「馬鹿じゃのう、貴様は。そんな必要はないわい。ほれ、見てみい」
そういうとメルルは、エリゼとハンサムが消えていった森のほうを指さした。
俺がそちらの方に首を傾げると、視界の先には、月明りに照らされたエリゼが、ハンサムの首根っこをつかんでズルズル引きずりながらこっちに向かって歩いてくるところだった。
(なんだあれ、怖っ!)
見れば、ハンサムは意識を失っている。完全に気絶しているようだった。
「なっ、お前それどうしたんだよ」
「うん? どうもこうもない。死の一歩手前まで追い詰めただけだ」
「ハンサムの状態のことは聞いてねえよ。…いや、少しは気になるけど。いったいどうやって勝ったんだよ」
「ああ、なかなか隙のないやつだったのでな。私の空間魔法で辺りを包んで闇を作り出したのだ。あとはもう私の一方的な虐殺だな。…いや、鏖殺か?」
「どっちも一緒だよ…」
ふう。ま、これですべて解決したわけだ。
すべてが終わった。
あとはラスビレグに帰り、ゆっくりと休もう。そしてその後は…うん? 何か忘れてるような気がするな。何か大切なことのような、どうでもいい事のような…
ズザッ!
「死ねえええええ!」
急に大きな物音がしたかと思った瞬間、倒れた木の陰から、俺めがけてナイフが飛んできた。
シュッ!
刃渡り20センチはあろうそいつは、俺の股の間に深く突き刺さった。
「うわぉ!」
あぶねえ。危うく死ぬところだった。
物音のしたほうを見ると、フウフウと肩で息をしながら興奮したノッポの男が、木の陰に立っているのだった。
「なんだ貴様、殺されたいのか?」
せっかくの休息を邪魔されて、怒り顔のエリゼ。
「いや、なんだというかダールだよ。ハンサムたちの仲間の」
「おお! そういえばいたのう、そんなやつが」
「お前ら冷てえな…」
そこからはもう虐殺だった。いや、鏖殺だった。
メルルの炎球でまるっと焼かれた後で、エリゼの斬撃によってぐちゃぐちゃに切り裂かれてしまった。
俺はその無慈悲な光景を前にして、もう一度目を閉じるのだった。
*
ダールをさくっと倒した後で、まずはエリゼの用意した紐でハンサムたち三人を縛り上げた。
メルルとともに解放されたメレナの教え子たち、もといミネア、ガウス、クランたちは意識こそ失っていたものの、みんな命に別状はなかった。
…というか、メルルが異常に元気なだけだった。
「さて、これで全部解決したな」
「ああ」
「おう!」
俺は私兵に借りていた合図用の魔法具を取り出し、空に向かって打ちあげた。
真っ赤な火花のような魔力が、空に向かって放たれた。
「これで私兵たちもここに気づくだろ。あとはこいつらを引き渡して終了だ」
「ふっ、長い戦いでしたが、ひとまずお嬢さまが無事で安心しました」
「クハハ! お前は心配性だのうエリゼよ」
「いえ、当然のことでございます」
エリゼとメルルはふっ、と笑い、それから互いに抱きしめあった。
はたから見るとそれは主人と従者ではなく、ただの姉妹のようにしか見えなかった。
「でもエリゼ、お前…」
「今はいい、泥一よ」
「なんのことじゃ、エリゼよ?」
エリゼはニッコリと笑い、メルルのちっこいピンク頭を撫でた。
「いえ。大したことではありません、お嬢さま。街に帰ったらすべて話します。だから今は帰りましょう、私たちの街へ」
メルルはきょとんとした表情を見せながらも、エリゼのいうことに頷いた。
「おう! 帰るぞ、ワシらの住む街へ!」
ラスビレグへ。




