第20話 最高の困難のはじまり⑥
「やっぱりか…」
「ああ」
俺たちはテーブルの上に置かれた紙の束を眺めながら、互いの見聞きしてきた情報を確認し合っていた。
誘拐事件の犯人は魔力量の多い子どもたちをターゲットにしていると踏んだ俺たちは、二手に分かれてそれぞれの家へ確認に行ってきたのだが、やはりその読みは当たっていた。
「一人目の被害者、パン屋の息子は平民の出でありながら、かなり魔力量の多い子だったらしい。二人目の私兵長の娘、三人目の孤児院の男の子も同様だ」
「こちらも同じだ。残りの三人の被害者、とりわけ最後のアリアはかなり魔力量の多い子どもだったらしい。まあ、長老の娘だから当然と言えば当然だがな」
「ま、何はともあれこれで方針が立てやすくなったな」
「ああ」
そう、これで犯人の目的は分かった。
理由は分からないが、子ども誘拐事件の犯人は魔力量の多い子どもたちをターゲットにしている。
この情報さえあれば、俺たちとしても取れる手段は増えてくる。
「知りたいのは犯人の次のターゲットだな」
「うむ。私もそう思ったが、犯人は次も子どもを攫うだろうか?」
「どういうことだ?」
「いや、アリアを攫ったことで事件が街中に広まってしまった。そんな状況で犯人が次も子どもを攫うだろうか。とっくに街を脱出していると考えるほうが当然じゃないか?」
「うーん…」
たしかに、その考えはなかった。
ここ数カ月の間に連続して起こった誘拐事件。特に、俺たちがこの街に来てから立て続けに二件もの事件が起こった。
エリゼの言う通り、犯人が次も子どもをさらうとは考えずらい。むしろ、事件が大事化したことで逃げる算段をつけている可能性の方が高いくらいだ。
「そもそも、攫われた子どもたちはどこにいるんだ? 合計で6人、いくらラスビレグが広い街だとは言え、隠しておける場所もそんなにないだろう」
「ふむ、確かにそうだな。手掛かりのない犯人を捜すより、子供たちを捜索した方が手っ取り早くてすむ」
「よし、じゃあ犯人捜しはいったんやめにして、今後の方針は攫われた子どもたちの捜索としよう」
「ああ、そうだな」
エリゼがうなずく。
「しかし、気になることがある」
「なんだよ、エリゼ?」
「先ほどの話だが、この街で6人もの子どもを隠し通せている場所があるとは思えない。何か魔法をつかっているはずだ」
「それは…空間魔法か何かで隠してるんじゃないのか?」
「いや、私ですらそれだけの質量を常に異空間に保存しておけるわけではない。それが生きている人間ともなればなおさらだ」
「ふーん、そんなものなのか」
「ああ、しかしそれを可能にする方法が一つある」
「なんだよ、それ?」
「霊道だ。これはエリナに聞いた話だが、魔法のなかには土地のもつ力を利用して発動する魔法があるらしい。犯人はそれを利用して空間魔法で子どもたちを隠しているんじゃないか?」
「霊道ね…、それはどこにあるんだ?」
「通常、霊道は川の近くや森のなかにあると聞く」
「ねえよそんなところ、街のなかだぞ?」
「いや、もう一つ条件がある」
「なんだよ?」
「高いところ、つまりラスビレグの時計台だ」
エリゼの言葉をきいて、俺は頭のなかでラスビレグの風景を再現した。
時計台、たしかにそんなものがあった気がする。ラスビレグは丘のような斜面になっていて、中心に行けば行くほど標高が高くなる街だ。
その中でも、街の中心に位置する時計台。ちょうどラブ―ホの近くにでかい時計台があったはずだ。
「あったな、たしかに。そこに子供たちが隠されてるってことか」
「あくまで可能性の話だがな。探してみる価値はあるだろう」
俺たちはそこまで話したところで、すっかり窓の外が暗くなっていることに気が付いた。あんまり集中しすぎていたから、時間を忘れていたようだ。
そこで、明日の朝ラスビレグの時計台に向かうことを約束し、そこでお開きとなった。
*
夜。俺はベッドに寝転びながら、これまでの情報を頭のなかで整理していた。
まず、犯人の情報はほとんど分からない。分かっているのは、おそらく優れた空間魔法の使い手だろうということだけだ。
エリゼの情報からして、街を脱出したという可能性も高くない。そもそも、6人もの子供を異空間に閉じ込めたまま移動するのが不可能だからだ。
情報① 犯人は謎。
情報② 犯人は街にいる。
情報③ 時計台に潜伏している可能性アリ。
ふむ。ここまで分かれば上出来だろう。俺達の力だけでもこれだけ犯人に近づくことができたし、そもそも今ラスビレグでは私兵たちが昼夜を問わず子どもたちを探し回っている。犯人が捕まるのは時間の問題だろう。
「さて、寝るか…」
ここまで考えたところで、俺は眠ることにした。
朝から街を走り回って、すっかり体がクタクタに疲れていたからだ。
…しかし犯人はなぜこんなことをしたのだろうか。いったい子どもたちを攫って何になる。しかも、金や暴力が目的じゃない。とすれば犯人の目的は何だ?
犯人、犯人…
薄れゆく意識のなかで、ある一つの考えが頭に浮かんだ。
そもそも、犯人は単独犯なのか…?




