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第2話 最高の神サマとの出会い方


 どれくらい歩いただろうか。先の見えない真っ白い空間が、ただただずっと続いている。ここでは、どうにも時間の感覚があいまいだ。

 

 それに、その理由はこの空間だけではない。


「ね、ねえエリゼ…さん…? 俺たちは一体どこに向かってるんですかねえ…?」


「……」

 

 何も答えてくれないし、目も合わせてくれない。

 さっきからずっとこの調子だ。

 ずっと家に引きこもってたコミュ障の俺には、少々この雰囲気は荷が重い。


「せめて何か答えてくださいよ…」

 

 俺が半ばあきらめ気味で呟いたところ、


「着いたぞ」と、エリゼさんが前方を指さした。

「フィウスさまの館だ」


 それは、まるで砂漠に突如として現れた宮殿のようなものだった。とにかく、異様な光景だった。何もない真っ白な空間に、アジアとも、ヨーロッパとも、あるいは古代ギリシャとも、何とも判別のつかない、様々な要素を足して割ったような、変てこな館が急に現れたのだ。


「な、なんだこれは…」


 俺たちが館の前につくと、数十メートルはありそうな巨大な扉がギギッと自動で開いた。


「入れ」

 

 そういうとエリゼさんは、開いた扉の先に向かってつかつかと一人で歩き出した。


「ま、待ってくれ!」

 

 俺は急いでエリゼさんの後を追った。



 館のなかはなかで、これまた変てこな様相を呈している。俺は恐る恐る歩き出した。

 あの人たちは誰だろうか…? 

 真っ白い無地のドレスに黄色の仮面をつけた召使のような女性たちが、せっせと館のなかを掃除して回っている。


「あ、あのエリゼさん。あの人たちは誰でしょう…?」

 

 エリゼは歩いている足を止めず、横目でちらっと俺のほうを見た。


「…はあ、貴様は疑問ばかりで、自分で考えるということを知らんようだな」

 

 この野郎、好き勝手に言いやがって。と、俺が内心イラついていると、


「あれは下界で罪を犯した者たちだ。この館で罪を清算し、また新たな生命として生まれ変わる」

 

 と、やれやれと言った様子で答えてくれた。

 しかし答えてはくれたものの、それが何を意味するのかはまったく分からない。

 下界…? 罪…? 

 いったい何のことやら分からないが、とりあえずこれ以上詮索するのはやめよう。

 俺も考えすぎて頭が痛くなってきた。

 そんなことを思いながら館を歩いていると、突然目の前に、これまた巨大な扉が現れた。


「フィウス様、ただいま戻りました」

 

 エリゼがそう言うと、巨大な扉がこれまたギギッと自動で開きだした。


 真っ白い空間。さっきまではただの、変てこな屋敷といった様子だったのに、扉の向こうに続いていたのは館の外と同じような真っ白い空間だった。


 (おいおい、一体ここはどうなってるんだ…。物理法則とかそういうのはないのかよ)

 

 と、俺がアホなことを考えていると、どこからか声が聞こえてきた。 


「やあ、よくきたね。愛しい僕の子供よ」 

 

 真っ白い空間のどこかから、あるいは、頭のなかに直接語り掛けられているような、不思議な感覚だった。しかしその声は、どこまでも優しく、慈愛に満ちているような、そんな声をしていた。


 「だ、誰なんだいったい」

 

 俺が声の主を探そうとすると、また声が聞こえてくる。


 「こっちだよ、そのまま真っすぐ進んでおいで」

 

 声の言うとおりに俺が部屋の中心に向かって進んでいくと、薄ぼんやりとだが、何やら柱のようなものが見えてきた。

 

 その柱の頂上で、誰かが鎮座している。


「やあ。はじめまして、坂田泥一(さかたでいいち)くん」


 (あれは…少年……?)


 柱の頂上にあぐらをかいて座っているのは、頭にオリーブの冠を被った、銀髪の少年だった。


「あんたは誰だ?」

「僕の名はフィウス。君たちの世界を管理しているものだよ。まあ便宜上、神とでも呼んでくれればいい」

「へえ。で、その神サマとやらが俺になんのようだ」

「ほう。君はこの状況に驚かないんだね」


 わけの分からんことの連続で驚き疲れてるんだよ、と言おうとしたが、話がややこしくなりそうでやめた。


「ま、とにかく座ってくれ。おーい、紅茶を持ってきてくれ!」

 

 フィウスが両手を叩くと、何もない空間にテーブルと椅子がポンと現れた。

 そして、先ほどの黄色い仮面をした召使? がどこからともなく現れ、ティーカップに紅茶を注いでくれた。

 俺があっけにとられていると、いつの間にか柱から降り、席に座っていたフィウスは優雅に紅茶を楽しんでいた。


「ふう、やっぱり紅茶は美味しいね。僕はね、君たちの世界で産まれたもののなかでも特にこれが好きなんだよ」

 

 どうした、座りなよ。とフィウスが目で合図をするので、俺はおとなしく着席することにした。


「それで、どこから聞きたい?」

「最初から説明してくれ、俺はもう何が何だか分からないんだ」

「ふむ…」と言って微笑みながら、フィウスと呼ばれる少年は語り出した。

「まずはじめに、これは重要なことだから驚かないで聞いてくれ。坂田泥一くん、君は一度死んだんだ」

「…そうか」

「これも驚かないんだね」

「まあな」

 

 まあ、なんとなく予想はしていたことだ。

 この真っ白い空間や、このバカげた光景が、普通であるはずがない。さっきフィウスが言っていたことと照らし合わせると…。


「俺は地球で死んで、ここはあの世ってことになるのか」

「君の世界の言葉でいうと、そうなるね」

 

 なんてことだクソったれ。現代の科学者たちが聞いたら卒倒ものだぞ。


「地球で死んだ人たちは、みんなここに来るってことか?」

「多くのものはそうではないね。うーんと、どこから話そうか。僕の管理している世界はいくつもあってね、地球もその一つだ。そして、これが重要なポイントだが、僕の管理する世界の命の総量は決まっている。僕の仕事はそれを適切に振り分けてやることだ。といっても、まっとうな人生を送ったものはどこか適当な世界に放り込むだけ。むしろ、そうでない子供たちをここで働かせることが、僕の本当の仕事だともいえるね」

「つまり、罪を犯した人たちってことか」

「そうなるね」

「おいおい待ってくれよ、じゃあ俺はどうしてここに呼ばれたんだ? そりゃ人様に誇れるような人生は送ってきてないが、迷惑かけるようなことは何もしてないぜ」

「はやまってはいけないよ、坂田泥一くん。ものごとには順序がある」

 

 フィウスは紅茶をすすりながら、掌を俺の方にむけて制止した。


「君は確かに罪を犯していない。本来なら、どこか適当な世界へ魂が転送されるはずだった」

「はずだった、ってことは違うんだな」

「その通り、僕が君の魂を拾い上げたんだ」

「なんでだ?」

「その理由なんだけどね…」

 フィウスは突然暗い表情を見せた。

 と、その瞬間…


「お兄様あぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」


 どこからともなく声が聞こえてきたかと思うと、


「わぶっ!」


 (グリグリグリグリ!)

 

 視界が突然真っ暗になった。

 間違いない。このぷにぷにした感触はさっきのガキだ。

 俺は怒りにまかせて「コラァ!」とそいつを振り払おうとしたが、幼女はひらりと身をかわし、スタッと地面に降り立って、


「ガハハハハ!」


 と笑っているのだった。


「誰かと思えばさっきのガキ! よくもやってくれたな!」

「ガハハハハ!」

「何がおかしい、無許可で人の顔に陰部をこすりつけてはいけないんだぞ!」

 

 幼女は腕を組み、むっとした表情で俺をにらみつけた。


「うるさいやつじゃのう。神の股に挟まれたのじゃ、むしろ感謝せんかい」

「どんな暴論だよ。ていうかお前神なの!?」

「そうじゃ。ガハハハハ!」

 

 (まったく、さっきから何なんだこいつは…)

 

 俺が困り顔でいると、フィウスがつかつかと歩み寄ってきた。


「すまないね泥一くん。この子に悪気はないんだ、ちょっと元気すぎるだけでね」

 

 そして、フィウスは幼女のほうを振り返った。


「メルルもやめるんだ。この人に迷惑をかけてはいけないよ、なんと言っても、君の親代わりになるんだからね」


「むう…。ごめんなさい…です」

「分かればいいんだ」

 

 フィウスはにっこりと笑って幼女の頭をポンポンと叩いた。


「いや、ポンポンじゃないよフィウスさん。俺がこいつの親になるって?」

「こいつじゃないメルルじゃ。ヴォルフガング・メルルという立派な名があろう」

「いや知らねえよ。ていうか俺はフィウスに聞いてるの」

「すまないがその通りだ泥一くん。説明するまえにメルルがきてしまってね」

「嘘…だろ…」

 

 ガクッと俺が膝から崩れ落ちていると、フィウスは両手をひろげ、まばゆいばかりの微笑みを見せた。

 それはまるで、エンターテイメントのショーマンのような態度だった。


「さて泥一くん、これは僕からのお願いだ。これから妹は異世界を旅しなければならない。君にはそのお目付け役になってもらいたい」


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