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第19話 最高の困難のはじまり⑤


 昼。突き抜けるようなビアムントの青空とは打ってかわり、街では多くの私兵が駆け巡り、街の民や労働者たちは一つの話、もとい事件の話で盛り上がっていた。


 『アリア様が誘拐された』


 連日、世間をにぎわせていた連続子ども誘拐事件の魔の手が、ついに街の象徴であるアイリス神殿の長老の孫にまで及んだのだ。

 ギュスターブの娘が誘拐されたときもそれなりに話題にはなったようだが、さすがに今回の事件に関してはそれ以上の注目を浴びたようで、待ち行く人みながその話をした。

 ビアムントの私兵たちが必死になって街中を探し回ってはいるものの、やれ怪しい男を見ただの、やれアリア様に似た子どもを見かけただの、この手の大きな事件にはありがちな、『厄介な善意』が事件の解決を遅らせていた。


 そんな街民たちをしり目に、俺は事件のいきさつをエリゼたちと共有するために、魔術学院へと戻ってきていた。

 俺がいくら考えても一人では解決策が浮かびそうになかったので、エリゼたちの知恵を借りようと思ったのだ。

 話を聞いたメレナは、こころよくメルルが魔法の練習をしていた教室を貸してくれた。が、刺激が強いから聞かせられないとのことで、3人の子どもたちを連れて部屋の外に出ていてくれた。


「…で、ここまでの話を聞いてどう思う?」


「ふむ。まずは情報を整理しよう」とエリゼ。


「ギュスターブ邸の犯人と、アリアとやらを誘拐した犯人は同じなのだろう?」


「ああ」


 実はここに来る前に、俺はアイリスの神殿に寄って、魔法の残滓を検出できる魔法使いを連れてギュスターブ邸を訪れていた。

 その結果、といっても予想通りではあったのだが、ギュスターブの娘の部屋からも同じ魔法の残滓が検出された。


「しかし気になるのは…」


「魔法の残滓が途切れていたこと、だろ?」


「ああ」


 話を聞くに、どうも魔法の残滓とは魔法を使った際に必ず発現するもので、もし何らかの魔法を使って部屋の外から侵入した場合、必ずそこに魔法の残滓が残るはずなのだ。例えば、窓から侵入した場合には窓の近くにあるはずだし、扉から侵入した場合は扉の近くに魔法の残滓があるはず。しかし、今回の事件に限ってはそうではなかった。


「部屋の中に突然現れた、か…」


 そう、魔法の残滓は確かに発見できたが、ギュスターブ邸とアリア嬢の部屋、そのどちらも()()()()()()()()発見されなかったのだ。

 つまり、犯人は何らかの魔法を使い部屋に突然現れて、子どもをさらい、また魔法を使って消えたということだ。


「エリゼ…」


「ああ」


 俺はエリゼのほうを見たが、同時にエリゼも同じ答えにたどり着いていたみたいだ。

 エリゼは深く俯き、ゆっくりとその答えを発した。


「空間魔法だ…」



 犯人の使った魔法が空間魔法であるところまで突き止めた俺たちは、次に、誘拐された被害者たちに共通点がないかを考えてみた。

「…誘拐された子どもたちの情報をギルドでもらってきたんだ。被害者は全部で6人。最初の被害者はパン屋の息子。二人目は私兵長の娘、3人目は孤児院の男の子。4人目は冒険者の娘。5人目がギュスターブの娘さんで、最後がアリア嬢だ」


「ふむ…」


 エリゼは俺が手渡した資料に目を通しているが、反応から察するに被害者たちの共通点は思いついていないらしい。


「年齢、性別、名前のイニシャル、趣味、住んでる場所、そのどれもがバラバラで共通点がない」


 その言葉にエリゼもうなずく。


「ああ、さらに言えば金が目的という訳でもなさそうだな。であれば孤児院の子を攫う理由がない」


「うーん、やっぱそうだよなあ…。じゃあ、ランダムにターゲットを選んでた、とか?」


「それも違うな。誰でもいいのなら、わざわざ長老の孫やギュスターブの娘をさらう理由がない。大事になるだけだ」


「それもそうだよなあ…」


 一応言ってはみたものの、そんなことは俺にだって分かっている。

 俺は頭の後ろで手を組んで、ぼおーっと天井を見上げた。

 すると…


「ばあっ!」


 すっかり飛んでいた意識の外から、急にメルルが飛び出してきた。


「うわっ! お前びっくりするだろうが!」


「ガハハ! 騙されおったのぅ、泥一よ!」


「ったく、俺たちはムズかしい話をしてるんだからお子さまはどっか行ってないさい。ほれ、しっしっ」


 俺が掌をひらひらさせると、「ムキーッ!」っと怒り出したメルルが俺の腕に噛みついてきた。


「バカにするな泥一よ! 暇じゃからワシと遊べ!」


「い、いててて! 放せメルル、腕ちぎれるって!」


 噛みついたメルルをやっとこさ話した俺は、二度と暴れないようにメルルを後ろからがっちりホールドした状態で、また椅子に座りなおした。


「…まったく、俺が犯人ならお前みたいな暴れん坊だけは誘拐しねえな」


「クハハ! ワシは誘拐されるようなヘマはせん」


「へっ、どうだか」


 …ん、待てよ。今なにか言ったか?

 今何か、会話の中に大切な情報が眠っていた気がする。

 思い出せ、思い出せ…。

 俺はメルルの後頭部をジッと見つめながら、いま話した内容を必死に頭のなかでぐるぐると繰り返していた。


「…魔力だ!」


 俺は、思わず叫んでしまった。


「ん?」と振り返るメルル。


「ほう…」と何やら合点がいった様子のエリゼ。


「魔力量だよ、どうして気が付かなかったんだ。犯人は魔力量の多い子供を攫っていたんだ」


「ふむ…。確かにその可能性は高そうだな、調べてみる価値はある」


「だろ? お前のおかげだよ、メルル」


 俺はヒントを与えてくれたこのちっこい子ども、もといメルルの頭をわしゃわしゃ撫でてやった。


「うっ、やめるのじゃ!」


「ハハッ、まあそういうなよ」


 そうと決まれば話ははやい。

 俺は椅子から立ち上がって、エリゼたちに向かって言った。


「攫われた子どもたちの家に確認にいこう、俺は最初に攫われた3人を担当するから、エリゼとメルルは残りの3にんのところへ向かってくれ」


「ああ」とエリゼ。


「うむ!」とメルル。


 俺たちは夜に魔術学院でおちあうことを約束し、部屋を出た。

 …しかし、何か胸騒ぎがする。

 なんだか、とてつもなく嫌なことに気が付いてしまったような。そんな胸騒ぎだった。

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