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第15話 最高の困難のはじまり

 アウロの部屋を出た俺たちは、メレナの後に続いて魔法学術院のなかを案内してもらっていた。

 魔法学術院のなかはとんでもなく広く、メレナいわく一度迷ったら抜け出せない広さ、なのだそうだ。


「なあ、メレナ。なんで地下なのに太陽光が射し込んでいるんだ?」


「ふふっ。それはですね、ここが地下じゃないからですよ。あの空き地の扉からの長い階段は魔法の抜け道になっていて、ラスビレグとは別の世界に繋がっています」


「なるほど、つまりこの地上のどこかにある魔法学術院に俺たちはワープしたってわけか」


「その通りです」


「へえ、魔法ってのはなんでもできるんだな」


「修行次第ですけどね。この魔術学院にかけられているような、大規模な空間魔法を使えるのはごくわずかな魔法使いだけです」


 魔術学院の話をメレナにしてもらっていると、いつのまにか窓の外が暗くなっていた。どうやら、話に興じすぎて時間を忘れていたみたいだ。

 俺たちがそろそろ帰るというと、メレナはもう遅いから魔術学院に泊っていかないかと提案してくれた。

 その申し出に断る理由もないので、俺たちはありがたく了承した。


「ここが来客用の宿泊部屋です。坂田さんはこちらに泊ってください。エリゼさんとメルルさんは別の部屋にご案内いたします」


 メレナはそういうと、二人を連れてどこかへ行ってしまった。俺は二人を見送ったあと、部屋の中にあったベッドにどっかりと座り込んだ。


「ふう…、久しぶりのベッドだ」


 俺は目をつむって、そのままベッドに倒れ込んだ。

 そういえば、異世界にきてからまともな場所で眠っていない。つまり異世界初ベッドってわけだ。


「はあ、やっぱりベッドで寝るのは最高だな」


 一日中歩き回って疲労がピークに達していた俺は、風呂に入るのもやめてそのまま眠ることにした。

 俺は目をつむり、眠ってしまうまでのあいだにこれまでの状況を整理した。

 俺たちの当座の目標は、誘拐されたギュスターブの娘を探すことである。その理由は金だ。この依頼を解決すれば、しばらく金には困らないだろう。

 しかし、その過程で魔法を教わるためにボドじいのもとを訪れ、いまは魔術学院にいる。明日からはメレナに魔法を教わることになるだろう。つまり俺たちは、今後メレナに魔法を教わりながらギュスターブの娘捜索を同時並行して進めなければならない。そのために必要なのは…


「バラけて行動する必要があるな…」


 俺たちには時間がない。ハンサムに借りた金もいずれは底をつきる。つまり、魔法を練習する係と、娘を捜索する係で役割を分担しなければならない。


「ま、難しいことは明日考えるか」


 どうやら体力が限界らしい。そこまで考えたところで、俺は深い眠りに落ちた。


 翌朝。


「起きろおおぉぉぉぉぉぉ!」


「ぐはっ!」


 ベッドで寝ていたはずの俺の腹に、何かが落下してきた衝撃で目が覚めた。

 …よく見るとメルルだった。


「なんでいるんだよ…。部屋に鍵かけてたよな」


 俺は寝ぼけた目をこすりながら、腹の上のメルルをどかせてなんとか起き上がった。


「おう、かかっておったぞ」


「じゃあなんで部屋に入れたんだよ」


「グハハ! メレナが開けてくれたのじゃ」


 扉のほうを見ると、明らかにイライラした顔のエリゼと、困ったような表情で苦笑いをしているメレナが見えた。

 俺は、エリゼの表情をみてすべてを察した。


「メルル、いま何時だ…?」


「うん? 分からんが昼前ってところじゃのう」


 メルルの言葉に促されるように窓のほうを見ると、すっかり頂点に達したお天道様の光が元気に部屋のなかに射し込んでいた。…完全に寝坊だった。


「…すぐ用意します」


「ああ、早くしろ。私が貴様を殺してしまわんうちにな」

 朝からエリゼに殺されたくはないので、俺は爆速で着替えて部屋を飛び出すのだった。


 メレナに案内された魔術学院の食堂で、俺たちは遅めの朝食(もとい昼飯)を食べていた。ここの食堂は魔術学院の生徒なら誰でも無料で食べられるらしく、俺たちもゲスト扱いということで無料で食べさせてもらえることになった。

 食事の最中、俺たちは今後の予定について話し合った。


「なあ、考えたんだが俺たちは別れて行動するべきだと思うんだ」


 俺はオマール海老をほおばりながらそう言った。


「ほう、貴様にしては珍しくまともなことを言う。私もそれについて考えていた」


「だろ?」


「分かれて、とはどういうことじゃ?」


 メルルも飯をほおばりながらフガフガと喋る。


「ギュスターブの娘捜索の依頼はこなさないといけない。でも俺たちは魔法の練習もしないといけない。なら、別れて行動したほうが効率的だと思うんだよ」


「なるほどのう…」


「とりあえず今日はギュスターブの屋敷にいって話を聞いてくるから、お前たちはメレナに魔法の練習を見てもらってくれ。それでいいか、メレナ?」


「ええ、かまいません」


 メレナはにっこりとほほ笑んだ。


「じゃあそういうことで。食べ終わったから俺は行ってくるよ」


 3人と別れた俺は、またあの馬鹿みたいにながい永久の階段を上り、ラスビレグまで戻ってきた。扉を開けると、昨日見たあの町はずれの空き地に立っていた。


「さて、いくか…」


 考えてみれば、異世界に来てはじめての単独行動である。しかし、うかうかはしていられない。やることはすでに決まっている。俺は、メレナに書いてもらったギュスターブ邸への地図を頼りに、ラスビレグの中心へと向かった。



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