第12話 最高の魔法の使い方②
話し合い。もとい民主主義の暴力の結果、まず俺が最初に魔法測定器の実験台になることになった。
俺は公平にじゃんけんで順番を決めようと提案したが、二人は頑として聞き入れなかった。そしてあろうことか、多数決で決めようといいだした。
三人しかいないのに何が多数決だよと思ったのだが、どのみち意見を飲むしかないので言うのはやめにした。
…そして多数決の結果、みごと俺が最初に実験台になるにいたったというわけだ。
「ということで、お願いします…」
身体がありえないくらいガクガク震えている。
俺は、正直なところ死を覚悟していた。
さっきの爆発みたいに、この魔法測定器なるものが爆発してもおかしくないのだ。
エリゼとメルルにいたっては、部屋の端っこまで移動してテーブルで前方を防御している始末だ。
「お前たち、自分から来ておいて失礼なやつじゃのう…」
じいさんはブツブツ文句を言いながらも、手に持っていた魔法測定器を俺の手に巻き付けた。
「よし、これで準備完了じゃ」
「なんだ、これだけでいいのか?」
「うむ。こいつはただ魔法の質と量を測定するだけの魔法具じゃからな。肝心なのはこっちじゃ」
じいさんはそういうと、何やら怪しげな色のポーションを取り出した。
「…なんだこれ?」
「魔力活性液じゃ。こいつでお前さんの魔力を一時的に引き出し、それを手首に着けた魔法測定器で計るって寸法じゃな」
「…なるほどな」
このままビビっていてもしょうがない。
俺は、覚悟を決めてその魔力活性液とやらを一息に飲み込んだ。
「くッ!」
熱い。
飲んだ瞬間、激しい運動をした後のように、身体の底から熱がこみ上げてきた。
「大丈夫かの?」
部屋のすみからメルルの心配そうな声が聞こえる。
「だ、大丈夫だ…」
意識が朦朧としてきた。
俺は、途切れそうな意識のなかでなんとか返事をする。
「おおげさなやつじゃな」
博士があきれ顔で俺の顔をペシペシと叩いているが、返事をする余裕もない。
「くっ、ほんとにこれ大丈夫なんだろうな…?」
「ああ、はじめて魔力を使ったんで身体が拒否反応を起こしとるだけじゃ。大丈夫、死にはせん」
じいさんは俺の手に付けられた魔法測定器をじっと見た。
そしてしばらくすると、
「よし、計れたぞ」
といって俺にまた謎の液体を手渡した。
「魔力抑制剤じゃ。そいつを飲んでおとなしくしていろ」
「あ、ああ…」
俺はじいさんから液体を受け取ると、そいつを一気に喉奥に流し込んだ。
「ふう…」
しばらくじっとしていると、何とか俺の身体も落ち着いてきた。
ようやく話す余裕もできてので、魔法測定の結果をじいさんに聞いてみることにした。
「で、結果はどうだったんだ?」
「ま、普通だな」
「なんだよ、普通って」
「魔力量は普通。多くも少なくもないごく一般的な数値じゃ。一応、水の魔法が得意らしいぞ」
「…そうか」
「なんじゃ、落ちこんでおらんのか?」
「落ち込むって? まさか」
そう、俺は落ち込んでなんかいない。むしろうれしいくらいだ。
正直、俺がこの魔法測定の実験をためらっていた理由は、じいさんの魔法測定器が爆発しないか不安だったからだけではない。むしろ、恐れていたのだ。
自分に、魔法の才能がないと告げられることを。
しかし結果は上々。魔力量も人並みにはあるらしい。
…まあ、得意な魔法が土じゃないのは残念だが、このさい水というのもなかなか悪くない。
「ふっ、変なやつじゃな」
じいさんはそういって笑った。
「結構多いんじゃよ。魔法の才能があると勝手に期待して、いざ測定すると人並みの才能ばかり。勝手に期待して、勝手に失望する。そんな大バカ者がたくさんな」
じいさんは俺の肩をポンと叩いた。
「お主は違うようじゃな」
「ああ」
俺は腕に着けていた魔法測定器をはずし、メルルたちの隠れていたほうに振り返った。
「終わったぞメルル、エリゼ」
俺が笑顔を見せるも、まだ不安が残っているのか、メルルはおそるおそる机の影から出てきた。
「だ、大丈夫かの…?」
いちおう気にはなっているのか、メルルは俺のほうへ近づいてきた。
「ああ、大丈夫だよ」
興味深そうに魔法測定器を覗き込んむメルルの頭を、俺はポンポンと叩いてやった。
「さて」とじいさんが手を叩く。
「次はどちらにするんじゃ?」
じいさんはエリゼとメルルを交互に見た。
「私がいきましょう」とエリゼ。
「え、でもエリゼ。もう得意な魔法は分かってるんだろ?」
「ああ。だが正確に計っておくに越したことはない。それに、魔力量がどの程度のものかは分からないしな」
「たしかに、それはそうだ」
エリゼは俺が手渡した魔法測定器を手に装着し、はやくしろと言わんばかりにじいさんに目で合図した。
「う、うむ…」
エリゼの高圧的な視線にビビりながらも、じいさんは魔力活性液をエリゼに手渡した。
エリゼはそれを受け取ると、なんの躊躇もなくそいつを一息に飲み込んだ。
「お前なあ、すこしは怖いって感情はないのか」
「そんなものは持ち合わせておらん。さっさと終わらせるぞ」
しばらくすると、魔法の測定が終了した。
すでに魔法を使った経験があるからか、特にこれといった問題もなく魔法の測定は終了した。
「おお、こいつはすごい」じいさんが目を輝かせた。
「どうしたんだ?」と聞いてみる。
「魔力量が桁違いじゃ。熟練の魔法使いと比べてもそん色ないくらいじゃろう。しかも闇魔法に適性がある。鍛錬すれば、偉大な魔法使いになるじゃろう」
「ふん」
分かっていたこととは言え褒められて悪い気はしないのか、いつも高慢なエリゼも、このときばかりは照れくさそうに顔を赤らめた。
「…出来レースおんな」
「なんだ下僕。才能の差に嫉妬したか?」
エリゼは腕組みをし、俺を見下すようにドヤ顔をした。
こいつのドヤ顔は妙に腹立たしい。
「次はワシじゃ!」
装置が安全だとわかると我慢できなくなったのか、メルルはぴょんぴょん跳ねながらエリゼにはやくしろとせがんだ。
「どうぞ、お嬢さま」
エリゼが魔法測定装置を手渡す。
「うむ!」
メルルは、そのちっこい腕に魔法測定器を装着し、椅子にドカッと座り込んだ。
「はやくするんじゃ、下僕」
ドン引きした顔のじいさんが、俺に耳打ちする。
「なあ君、なにこの態度がいじょうに大きい子…?」
「まあ許してやってください。いつものことです」
まったく最近の子どもは…などとブツブツいいながらも、じいさんはメルルに魔力活性液の入ったビンを手渡した。
「ほれ、気をつけてゆっくり飲むんじゃぞ」
「ふん、分かっておる」
とは言ったものの、ビンを受け取ったメルルは一杯目のビールでも飲むみたいに、ちゅうちょなくグイッと流し込んだ。
「あっ、こら!」
じいさんが止めようとしたが時すでにおそし。メルルはすでにビンの中に入った魔力活性液をすべてのみほした後だった。
「おっ、身体が熱くなってきたのう」
しばらくすると、メルルの身体が異常に発光しだした。
「なんじゃ、これは」
メルルは自分の身体を見つめながら、不思議そうな顔をした。
「なあじいさん。これ大丈夫なのか? 俺やエリゼのときはこんなことにはならなかったぞ」
「う、ううむ。魔力の巡りが異様にいいんじゃろうか」
こんなことは初めてなのか、じいさんも少し困り顔だ。
さらに時間が経つと、メルルの身体から放たれる光がさらに勢いを強めた。
「お、おい大丈夫かメルル」
メルルは首を横に振った。
「すこしだけ…身体がアツいのう…」
「ま、マズい!」
じいさんが叫んだ。
「魔力暴走だ、このままじゃと身体が爆発する!」
「はあ!?」
俺も叫ぶ。
「お、お嬢さま大丈夫ですか!」
メルルに駆け寄ったエリゼが、ぎゅっとその身体を抱きしめる。
「いかん離れろ、怪我をするぞ!」
「構わん。死するときは私も一緒だ」
じいさんが必死に引き離そうとするも、メルルから離れないエリゼ。
「か、身体がアツい…」
メルルの身体から大量の汗が流れ出ている。とても苦しそうな顔だ。
どうやら、すでに意識を失いかけているらしい。
「おいじいさん、何とかしてくれ!」
俺はじいさんの肩を掴んでぐわんぐわん揺らした。
じいさんはムムムッと唸った後で、そうだ! と何かを閃いたように叫んだ。
「魔力放出じゃ! 何か魔法を唱えて魔力を放出するんじゃ!」
「ど、どうやるのじゃそれは…」
「炎球と叫べ!」
メルルは消えかける意識のなか、じいさんに教えられた言葉を発した。
「い、イグニス…」
瞬間。
俺の視界は、真紅の炎に包まれた。
メルルの前方に、直径2メートルはあろうかという巨大な炎の玉が出現したのだ。
「いかん、こいつを消さねば研究室ごと燃えてなくなるぞ!」
じいさんが叫ぶ。
「あ!? こいつを消すって、そんな…」
俺は部屋のなかを見渡す。
当然のことながらこの世界に消火器なんてものはない。そもそも、あったとしてもこんなでかい炎の球を消せるわけがない。
「考えろ考えろ…この炎の球を消せるもの…」
部屋の温度が急上昇したせいだろう。呼吸がしずらい。肺がやけるようだ。
肌もジリジリと焼ける。
…肌。そうだ、服!
俺は、その真意を伝えるべくエリゼに向かって叫んでいた。
「エリゼ! 魔法だ!」
とっさのことだったから、そのすべてを伝えることはできなかった。
しかし、エリゼにとってはその一言だけで十分だった。
エリゼは右手を炎の球に向かって突き出し、力をこめた。
「はあっ!」
エリゼの右手が発光する。
すると、空中に真っ黒い次元の裂け目のようなものが現れた。
エリゼがさらに力をこめると、巨大な炎の球はあっというまにその中に吸い込まれていった。
「ふう…」とため息をつくエリゼ。
「は、ハハ。なんじゃこいつらは…」
じいさんはへなへなとその場に座り込んだ。
「なんだじゃないぞ。あやうく死ぬところだった。ま、とにかくナイスだエリゼ」
俺はエリゼにハイタッチしようと右手を差し出したが、エリゼは当たり前だといった様子でそれには応じなかった。
「お嬢さまのためだ。当然だろう」
「ははっ、素直じゃないな」
メルルの身体の発光はすでにおさまっていた。
いまの魔法で、すっかり魔力をはきだしてしまったのだろう。メルルは床に倒れ込んでいたのだが、近づいて確認すると意識はあるようだった。
「で、じいさん。いったい今のは何だったんだ?」
じいさんは俺の手を借りてなんとか起き上がり、メルルの手に着けていた魔法測定器を確認した。
「なるほどのう…」
「なにか分かったのか?」
「ああ。本来イグニスとは掌程度の小さな火球を出す魔法じゃ。しかし、魔法測定機にっよればこの子の最も得意な魔法は火の魔法。だからあんなにも大きな火球が現れたのじゃ」
「それだけであんなことになるのか?」
「いや、普通はならん」
俺は首を傾げた。
「じゃあなんで?」
「この子の魔力量が桁違いなんじゃ。文字通り、桁違い。そこのお嬢さんも大概多い方じゃが、この子の魔力量はそれをはるかにしのぐじゃろう」
「ふん、当然だ」
エリゼは、メルルが褒められているのをまるで自分のことであるかのようにドヤ顔をした。
「とにかく、こんなやつらには初めてあったわい。もしかしてお主らは由緒ある魔法使いの家系だったりするのか?」
「いや違う。ただの冒険者だ」
「ふうむ。ますます変なやつらじゃのう」
じいさんは首を傾げた。
「ま、いいわ。とりあえずそこの嬢ちゃんを運ぼう」
じいさんはそういうと床に倒れていたメルルを持ち上げ、診療用のベッドに寝かせてやった。
「嬢ちゃんが起きるまで時間がかかる。それまで少し話そう」
じいさんはどこからか椅子をひっぱってきて、俺たちを座らせてくれた。




