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第11話 最高の魔法の使い方①


「はい、これで受注依頼を完了しました」


 受付のお姉さんは、すばやい動きでさっさと手続きを終わらせてくれた。

 これまでのトラブル続きが嘘のように、受注依頼はあっけなく完了してしまった。


「これで後は、クエストをクリアするだけだな」


 そう、俺たちは何としてもこのクエストをクリアしなければならない。

 その理由は、なんといっても金のためだ。

 いま受注したクエストは、豪商人ギュスターヴ氏による娘の捜索依頼。クリアすれば、最低でも十万ドール(日本円で一千万ほど)の報酬が手に入るのだ。

 人助けもできて金も貰えるとなればやらない手はないだろう。

 それに、狩猟系のクエストと違って危険も少ないだろうからな。


「さて、これからどうしようか」


 とりあえずクエストは受注した。だが問題ここからどうするかだ。依頼書には、特にこれといった注文は書かれていなかった。どんな方法を使ってでも早く娘を見つけてくれってことだろう。

 そのとき、俺は足元でぼーっとつったっているメルルをチラッとみた。


「うん、なんじゃ?」


「ふっ、なんでもねえよ」

 …まあ、その気持ちは分からないでもない。

 しかしメルルは、


「なんじゃと聞いておろうこのペドクズが! そんなにワシがかわいいか!」


 適当にはぐらされたのが不満だったのか、半ギレで俺に足蹴りを入れてきた。

 前言撤回だ、こいつが誘拐されたら鼻で笑ってやろう。


「何かお困りでしょうか?」


 クエストを受注したはいいものの、何をするでもなく困っている様子の俺たちに、受付のお姉さんが話しかけてくれた。


「ああ、何からはじめようか迷っていたんですよ。冒険者っていってもまだ何も知らないので」


 受付のお姉さんは顎に手を当ててしばらく考え込んだ後、何かを閃いたようにピンッと人差し指を上に向けた。かわいかった。


「でしたら、アイリスの神殿に行かれてはどうでしょうか」


「アイリスの神殿?」


「ええ、時の神アイリスを祭っている神殿です。そこでは様々な魔法の研究も行っていて、魔法使いとしての適性や潜在能力なんかも見てくれるそうですよ」


「へえ、そいつは便利だな」


「ええ。今回のクエストに役立つかはわかりませんが、魔法をつかえると何かと便利ですよ」


「ならそこに行ってみます、ありがとうございます」


 話をきいた俺たちは娘探しはいったん置いておき、まずはアイリスの神殿とやらに向かうことにした。


「魔法かあ、ワクワクするのう」


「ふっ、そうだな」


 道中、どんな魔法が使えたらカッコいいかの話で、俺とメルルは盛り上がっていた。


「ワシは火がいいのう。火は強くてカッコいいからのう」


「ふっ、メルル。お前はまだまだ子どもだな。こういうのは土とかのほうがいいんだよ、渋いからな」


「ええ? ずいぶんジジくさいのう」


「お前にはまだ土のカッコよさはわからん」


「そんなもの分からんでもええわ」


 などと下らない話をしていると、俺はあることを思い出した。


「そういえばエリゼ、このまえ魔法使ってたよな?」


「この前?」


「ああ、山の中でだよ」


 エリゼはしばらく考えた後、何かを思い出したようにポンと手を叩いた。


「ああ、貴様が全裸で卑猥なポーズをとっていたときのことだな」


「そうだけどそうじゃねえよ」


 しまった、余計なことを思い出させてしまった。


「うむ、あれは汚かったな。それに粗末だったな」


 俺のは粗末でもねえ。


「何が粗末だったのじゃ?」


「いえ、とてもお嬢さまにはお聞かせできません。あまりに粗末な話なので」


「話がずれてるぞ…。で、あの魔法何だったんだよ」


 俺が言った魔法とは、エリゼが空間から服をだしてくれたときのことだ。

 そして俺が今着ている服も、そのときのものである。


「ああ、あれは空間魔法だ」


「空間魔法? なんだよそれ、よく分からないけどすごいんじゃないか」


「私は空間と闇の魔法に優れている、らしい」


「らしいってなんだよ、自分のことだろ」


「フィウスさまに授かった能力だからな。私も詳しいことまでは知らん。お嬢さまをお守りするための最低限の力ということだろう。服もそのときにいただいたものだ」


「ふーん、なるほどな」


 こっちの世界のことは自分たちで頑張れというスタンスなのかと思っていたが、フィウスのやつも案外親バカというか、兄バカなところがあるらしい。


「お、ついたのお!」


 メルルがうれしそうに叫ぶ。

 どうやら、話をしながら歩いているうちに到着してしまったようだ。


「あれがアイリスの神殿か…」


 目に飛び込んできたのは、白い円柱に囲まれた巨大な建物だった。その巨大な建物は、太陽の光を反射して、悠然と光り輝いている。

 入口の扉は開かれていて、中をよく見ると、真っ黒いローブのようなものをまとった人たちが、せっせと働いているようだった。


「ま、とりあえず入るか」


 その荘厳な雰囲気に圧倒はされたものの、メルルの豪胆さが俺にもうつってしまったのか、俺は特に臆することなく神殿の中に入ることにした。

 中に入ると、椅子に座った受付のような人が話しかけてきた。

 すっきりとした短髪に眼鏡を掛けた、まさに好青年って感じだ。


「ようこそアイリスの神殿へ。本日はご見学でしょうか?」


「あ、いえ。俺たちは冒険者なんです。ここで魔法の適性を見てもらえるってきいたのでやってきました」


「ああ、そうでしたか」


 受付のお兄さんはにっこりと微笑み、席をたって俺たちを手招きした。


「ではこちらへどうぞ。中へご案内いたします」


 俺たちは促されるまま、お兄さんの後についていった。

 神殿のなかは外見と同じくらい美しく、俺は思わず見惚れてしまった。

 白を基調とした内装で、デスクや椅子はすべてアンティークで統一されている。

 色とりどりのステンドグラスからは太陽の光が射し込んでいて、それが壁に描かれた絵を不思議に浮かび上がらせていた。


「おお、お兄さまのところを思い出すのう」


 メルルは、この雰囲気になにか懐かしい思いを感じたようだ。


「それは素晴らしい。あなたはずいぶん高貴なお生まれのようだ」


「ガハハ! そうじゃろう」


「ええ」


 神殿のなかを通るあいだ、受付の青年がアイリス神殿について一通り説明してくれた。

 なんでも、時の神アイリスとやらを祭っているそうで、3000年以上前からここに存在しているらしい。

 で、今から約1000年ほど前に勇者ラスビレグの一行がこの地に永住したことで、このアイリス神殿を中心に街が発展していったそうだ。


 …しかし、壁の絵を見ていてひとつ気になったことがある。


 時の神アイリスと思われる女性の絵がいくつも描かれているのだが、俺の知る神はフィウスただひとりなのだ。

 つまり、この人たちはいもしない神を崇めていることになる。


「…なあ、メルル。時の神アイリスってほんとにいんのか?」


 気になった俺は、メルルに小声で耳打ちした。


「おらんじゃろ、神と呼べるのはワシを除いてお兄さまただ一人じゃ」


「ふーん、まあそうだよな」


 俺は地球にいたころは宗教を信仰していなかったし、君たちの信じる神サマは本当はいなくて、フィウスというシスコンの兄ちゃんがひとりで管理しているんだよ、と言われても少しもショックじゃない。


…まあ、神なんてそんなものか。


「ふふっ。何を話しているんですか?」


「あ、いや別に…ははっ」


 あせった俺は、適当な愛想笑いでその場をやり過ごした。

 あぶねえ、今の話なんて聞かれたら間違いなくぶっ飛ばされるところだった。

 しばらくして、


「さあ、つきましたよ」と青年がいった。


 見ると、青年の目の前に茶色の扉がひとつあった。


「ふーん、ここが」


 魔法の適性を見るというので、もっと大掛かりな部屋に通されるものと思っていたのだが、そうではないらしい。特にこれと言った特徴のない普通の扉だ。


「鍵は開けてあります、あとは中の人に話を聞いてください」


「親切にどうもありがとうございます」


 俺は青年に礼を言った。


 青年は後ろを振り返って帰ろうとした。が、しかし途中で何かを思い出したように足を止めて戻ってきた。


「一つ言い忘れていました。中にいる人には気をつけてください」


「気をつける?」


 なんだ、モンスターでも入ってるのか?


「ええ。まあ何というか悪い人ではないのですが、無類の魔法好きで…」


「よく分からないが、それの何が問題なんだ?」


「いえ、問題というか…まあ、ご自分でお確かめください…」


 それだけ言ってしまうと、青年はそそくさと逃げるように去っていった。


「なんだったんだ、いまの」


「さあの…」


 俺とメルルは顔を見合わせたが、よく分からないのでひとまず中に入ることにした。

 しかし、俺が扉の取っ手に手をかけた瞬間…


「ふおおおおおおおおおおおお!」


 というおじさんの絶叫が、部屋の中から聞こえてきた。


「な、なんだ!?」


 俺は慌てて扉を開け、中に入った。すると…。


 ブワオォォォォォォ!


 耳をつんざくような轟音と共に、部屋に入った俺を襲うように真っ黒い煙が目に飛び込んできた。


「い、痛えぇぇ!」


 俺は目をおさえ、その場にうずくまってしまった。


「何をしとるんじゃお前は…」


 しばらくして煙がおさまった後で、のたうち回る俺を横目に何もなかったかのような態度でメルルとエリゼが部屋に入ってくるのが聞こえた。


「お、お前らなあ。大丈夫? とかないのかよ」


 俺が文句をいうと、


「ないな、貴様がどうなろうと知らん」


 相変わらず冷たいエリゼだった。

 少しして、ようやく目の痛みがおさまってきた俺は、起き上がって部屋の中を見渡した。


 (なんだこの部屋は…)


 まさしく、マッドサイエンティストの実験室とでもいえば適切だろう。

 部屋のいたるところにビン詰めされた禍々しい色の液体や、怪しげな資料などが散乱している。そして、恐ろしいことにところどころ血のようなものが部屋の壁紙に付着していた。

 しばらくあたりを見渡していると、メルルが何か発見した。


「なんじゃこいつは。死んでおるのか?」

 

 それは、横たわったじいさんだった。


「ふむ、死んでいるようですね」とエリゼ。


「いや待て待て、死んでたらマズいだろ」


 適当なことをいうガールズをしりめに、俺はじいさんのそばへ近寄って、身体をゆさぶった。


「おい、あんた大丈夫か?」


 すると…


「ふおおおおおおおおおおおお!」


 謎の奇声とともに、倒れていたじいさんがムクリと起き上がった。


「んぎゃあ!」


 驚いた俺は、変な声を出しながら思わず腰を抜かしてしまった。


「なさけない声じゃのう」と冷たいメルル。


「な、何なんだよあんた。急に大きい声出しやがって」


 じいさんは起き上がったあとに首をコキコキ鳴らして、俺たちのほうを見てニカッと笑った。


「フハハ! いやあ、すまんかったのう。実験失敗じゃわい」


「実験?」


「ああ。魔法粒子の拡散実験をしておったんじゃが、ポーションの配合を間違えてし

まったんじゃ」


「よくわからんが気をつけてくれよ…」


「フハハ! すまなかったな、ボウズ!」


 じいさんは豪快に笑い飛ばすと、俺に手を差し伸べた。

 俺はじいさんの手をかりて、ゆっくりと起き上がった。


「で、何のようじゃ?」とじいさん。


「ああ、魔法の適性を見てもらいにきたんだ。そしたら受付の兄さんにここに案内されたんだよ」


「ほー。なるほど、そういうわけじゃったか」


 じいさんはポンと手を打つと、近くのテーブルに散乱していた紙束やら何やらを床にまき散らした。


 その様子からして、何かを探しているのだろうか。


「まったくゴネルのやつ、ワシの実験中は誰もいれるなと言っておるのに…」

 などとブツブツ言っている。


 しばらく俺たちが様子を見守っていると、「あった!」といって何かを手に持って俺たちのところに戻ってきた。

 よく見ると、バングルのような形をしている。


「なんだ、それ?」


「こいつは魔法測定器じゃ。こいつを腕につけることで、だいたいの魔力量と魔法適正を見ることができる」


「へえ、そいつは便利だな」


 魔法測定器。なんとも安直な名前だがいまはツッコまないことにした。

 すると、じいさんは俺たちのほうにズズズッと近寄った。


「誰から調べたい?」


 俺たち三人は顔を見合わせた。

 俺とメルルはともかく、エリゼまでもが不安げな顔をしている。


 さて、誰からいこうか…。

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