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8話 魔王

 モリー情報によれば魔王は降伏した魔人も例外なく殺しているという。

 オセくんも今頃は殺害されているだろう。

 あのフザケたメッセージは『犯人は魔王』という彼なりのダイイングメッセージでもある。


 オセくんの根城は俺の拠点からそう遠くない。

 メッセージが届けられた時間から逆算すると、オセくん殺害直後に魔王がこっちへ向かって移動開始したとして、今から俺が出動すれば中間地点で出くわすはず。

 戦うなら、地の利がある所を選びたい。

 ちょうど良い場所に心当たりがある。

 オセくん宅と俺んちのほぼ真ん中、夏でも氷の溶けない高山地帯、グレートスレイマン山脈だ。

 偉そうな名前の割に標高は2000メートル級と日本の富士山より低めだが、雪と氷の精霊がたくさん棲み着いているため、頂上付近は一年中雪に覆われている。

 北部地域をこの山脈が東西に分断しており、俺の拠点がある側は冷涼、オセくん側は温暖と気候をきっぱり分けてくれている不思議山脈である。

 雪山大好きな俺としてはこの山脈を拠点にしたいくらいだが、魔人ならではの事情があって叶わなかった。

 現状、夏のレジャースポットとしてのみ活用している。

 寒さが厳しいため定住する者はいない。

 今の季節だと多少は人がいるかもしれないが、戦闘に巻き込む確率は低いと思われる。

 よって闘いの舞台はこのグレートスレイマン山脈とする。

 俺の装備もそれに合わせる。

 いつもの夏のお出かけスタイルでは雪山では闘いづらいからな。

 赤いスキーウェアにニット帽が俺の戦闘服だ。

 トナカイ1号の首にベル型のアミュレットを着けてやる。

 属性魔法の大半を弾く魔法防御のアミュレットだ。

 これを着けたトナカイ1号は炎の嵐にでも突っ込んで行ける。

 俺の戦闘服も似たような効果が付与されている。

 物理防御はちと薄いが、魔王なら剣より魔法で攻めてくるはずだ。

 魔法防御はいくら厚くしても厚すぎるという事はない。


「よし、行くぜトナカイ1号!」


 プレゼントの袋を肩にかけ、俺は空へと飛び出した。





 やってきました、グレートスレイマン山脈。

 頂上付近の岩場で待機していると、

「おーおー、感じる感じる。すげー妖気。髪の毛がピーンと立っちゃいそう。なんとかアンテナみたいに」

 禍々しい気配が接近してくるのを感知した。

 その気配、出力で言ったら先日出会ったモリーの軽く十倍はある。

 そんな異様な飛行物体、魔王以外にないだろう。

 近づいてきたその姿は人間型をしていた。

 黒いマントで身を隠しているが、体格から男だろう。

 俺がソリに乗って飛んだり、モリーがラクダに乗って飛んだりするのと違い、乗り物無しの体一つで飛んでいる。

 翼も無いのに器用なもんだ。


「久しぶりだな、トーリくん」

「……わかるんですか、私の事が」

 声は大人の声になってるけど、なんとなく伝わってくるものがある。

 トーリくんはトーリくんなんだよな、いくら雰囲気がダークになってても。

「俺は一度プレゼントをあげた子の事は忘れたりしないんだ」

「白々しい」

 吐き捨てるように言われたけれど、本当の事だ。

 プレゼント対象者のデータはちゃんと頭に入ってる。

 どの子も12歳時点から後はデータ更新されてないけどな。


「貴方のそういう偽善的な所が我慢ならないんですよ、サンダー・クロス」

 マントのフードを跳ね上げたその顔は……確かにトーリくんなんだが、しかし痛々しいほどに面変りしていた。

 年齢は22歳のはずだが、落ち窪んだ眼窩のせいでもっと年上に見える。

 あどけなかった輪郭はシャープに変わり、唇は薄く酷薄そうに、目つきは鋭く陰鬱になった。

 何よりも色彩が変わった。

 髪の毛が雪のように真っ白だ。

 元はそんな色じゃなかったよな?

 プラチナブロンドって言えば聞こえはいいが、ぶっちゃけ白髪だ。

 その若さでなんでそうなった?

 瞳が赤く光ってるのは魔物化した場合の定番として、頬の辺りにダークグリーンの金属的光沢のある鱗のようなものがびっしり生えてるのはどうして?

 やっぱドラゴンかなんか食った?

 どう見ても人間として真っ当な成長を遂げてはいないのだが、それはそれとして。


「大きくなったなあ」


 しみじみ述べたら、ギン! と睨まれた。


「親戚のおじさんみたいな事を言わないで下さい。赤の他人のくせに」

「いやいや、小さい時の姿知ってたら赤の他人でも言うだろうよ。近所のおじさんとかさ」

「貴方は近所のおじさんですらない!」


 トーリくんはマントの裾をバサッと翻した。

 そこに現れたのは何やら奇妙な形の装飾を施された片手剣。

 どう見ても実用性皆無なフォルムを描く刀身は血のように赤い。

「もしかして魔剣?」

 勇者のたまごくん、魔剣欲しがってたのに魔王に先越されちゃった?

「魔剣レーヴァテインですよ。元はこんな色ではなかったのですが、魔人の血を吸わせるうちに赤く染まってしまいました。洗っても落ちないのです。私と一緒ですね。変わってしまったものは元には戻らない」

 トーリくん、いや、魔王ヴィットーリオと呼ぶべきか、彼は薄い笑みを浮かべた。

「サンダー・クロス、私が何のためにここまで来たかわかりますか?」

「さあ? なんか魔人殺して食ってるって聞いたけど」

「ええ、食べましたよ。何人もの魔人を、その心臓を」

「心臓なー。あるやつと無いやつといただろ? あっても美味しくなかっただろ?」

「ええ、とても不味かったですよ。死ぬほどね。それでも頑張って飲み込みました。この時のためにね。サンダー・クロス、私は」


 いきなり斬り掛かってきやがった!

 血の色をした魔剣で!


「貴方の命をもらいに来たんです」

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