2話 魔王のたまご
トナカイ1号がソリを停めたのは、でっかいお屋敷の上だった。
雪の降る地方なので屋根は急勾配、屋上にソリを停めるのは危ない。
なので屋根より高い空中に待機させておく。
トナカイ1号は優秀なので、無音でホバリングができるのだ。
「んじゃ、ちょっと行ってくるわ」
プレゼントの袋を担いでソリから飛び降りる。
魔人である俺にとって空中移動など散歩も同然。
危なげなく屋根に降り立ち、良い子センサーで「魔王のたまご」くんの位置を確かめ、最寄りの窓からスルリと侵入。
これも俺の特技なのだが、厳重に戸締まりされたお屋敷でも、俺が念じればどこかに隙間が空いて、気づかれることなく侵入できる。
いや本当、転生神様のジョークじゃないけど、その気になれば一流の怪盗になれると思うぜ。
悪事に手を染める気はないけどな。
建物の外観は伝統的な地主階級の家といった様式で、大家族に多数の使用人も加えて暮らすための重厚感ある設計だ。
とにかく部屋数が多いのだが、夜半だからか人の気配が無い。
まるで空き家のような静けさだが、俺の良い子センサーによれば魔王のたまごくんはこの辺にいるはず。
どこかな〜…と探しながら歩いていると、見つけた。
灯りが漏れている部屋がある。
きっとあそこだ。
ご対面〜。
「魔人サンダー・クロス、ただいま参上! 良い子の願いを叶えに来たぜ!」
勢い良くドアを開けて飛び込んでみたら。
「ヒック、グスッ……誰?」
そこに居たのは声を殺して涙に濡れる、小さな男の子だった。
魔王のたまごくん、めちゃくちゃ悲しそうやんけ…。
何が君をそこまで悲しませている?
そりゃ小さい子って泣くのも遊ぶのも全力だけどさ。
他に誰もいない一人きりの部屋で声を殺して泣く子どもって、悲しすぎるぜ。
保護者はどこ行った。
とりあえずしゃがんで目線を低くして、できるだけ優しく話しかけてみる。
「えーと、ともだち欲しいって願っただろ? ともだちになりに来たぜ。サンダー・クロスってんだ。よろしくな」
「サンタクロース?」
「いやサンダー・クロス……ってお前、サンタクロース知ってんの!?」
「う、えと、あの、し、知ってる…赤い服着たおじいさん…ソリに乗ってくる…」
魔王のたまごくんはつっかえつっかえ答えてくれた。
答え、合ってるけど!
正解だけども!
「なんで? なんで知ってるの?」
「えと、あの、前、地球で、本とかテレビとかで見て」
「マジ!? 地球の転生者!? 記憶あんの!?」
魔王のたまごくんはおずおずと頷いた。
マジか!
「スゲー、奇跡じゃん! 俺も俺も、地球の記憶持ち!」
「え……」
魔王のたまごくんの涙が引っ込んだ。
びっくりだよなー、俺もテンションアゲアゲだよ。
俺以外の転生者に初めて会っちまったぜ!