恋、四季。
近しい人に春が来た。
眩しく笑う貴方を見た時。
それから、ほんとうに、ほんとうに。
私は、どうしようもなくなってしまった。
-立てば芍薬-
-座れば牡丹-
-歩く姿は百合の花-
そんな言葉が似合う美しい貴方。
ずっと傍にいたのに、私、知らなかった。
隣にいると、長く、しなやかな、睫毛に、目が吸われる。
そんな私に、貴方の深みと強さの混ざる瞳を向けてほしい。
窓際に憂鬱に腰掛けてどこを見ているの。
-知りたい-
-知りたくない-
どうしようない心はすぐに矛盾する。
春雨が、貴方の肩を濡らしている。
地面に落ちた逆さの傘に留まった。
桜花が流れ流れる道に。
貴方の白くかぼそい足が洗われる。
貴方の美しさがわからないなんて、その人はおかしい。
-私は、貴方に涙を流させない-
-でも、貴方に泣かれるほど思われたい-
また、矛盾した。
ほんと、どうしようない。
春雷が遠くで光った。
街を蝉時雨が包み込む。
音に降られて酔う。
サイダーが二本ぶらぶらと別々に揺れている。
まだ一緒にいられる。
蜃気楼になってしまいそうな暑い日にただ集まれる。
ただ、少しだけ。
-揺れがシンクロしてほしいなと思う-
-そう願えば一本だけになる-
今度は矛盾しなかった。
悲しい結果。
私を構うことなくサイダーを飲んでいる貴方は恨めしい。
濡れた艷やかな唇から目が離せない。
鰯が泳いでいる空の下。
貴方は私の手を取る。
私を季節外れの海に連れ出した。
電車に並んで揺られる。
息遣いと香水に心臓が痛くなる。
ドアが開くと潮の匂いが鼻をくすぐる。
貴方の白くたおやかな手に引かれて、潮騒のもとへいく。
陽光に照らされて、波が青白く。
堤防の上、潮風に髪が靡く。
灰色の砂と水平線を見つめる貴方。
立ち姿は儚げで、とても、とても、美しい。
その日の出来事はただそれだけ。
でも、私はこの日を一生わすれない。
寒空と、枯桜に、赤いマフラー。
今、私にあるもの。
夏のサイダーは一本になってしまった。
冷たい炭酸が喉を突き刺す。
ただ、それだけのこと。
そう割り切れたらいいのに。
-貴方が幸せならそれでいい-
-ただ私も幸せになりたい-
矛盾はしない。
でも、解決もしない。
もう、親友じゃない。
歩けば横が寂しい。
蝉の声を聞きながら一本のサイダーを飲む。
海はもういかない。
今は、ただ、貴方が恋しい。
桜吹雪の先に貴方を見た。
笑った横顔だけ見えた。
私を置いて去っていく。
ただ、それだけ。