とある聖女候補の日記
結末、追加しました
四月一日
今日から聖女候補となった!頑張ってお国の役に立つ聖女様を目指すぞ!
四月五日
今日から貴族の子女も通う学園に入学した!平民の私だけど、聖女候補だから特待生制度で無料で通える!たくさんのことを学ぶぞ!
四月十七日
王子様に話しかけられた。思ったよりフランクな人だった。とってもかっこよくて、優しくて、惚れちゃいそう。
五月二十九日
王子様の婚約者だという、この国の筆頭公爵家の一人娘様に話しかけられた。学園での振る舞いについて色々注意を受けた。私は私なりに頑張って慣れようとしてるのに、意地悪な人だ。
六月三十日
王子様に思い切って婚約者さんについて相談したら、嫉妬で意地悪するなんて最低だと人前で注意をしてくれた。スカッとした。
七月七日
あの婚約者さん…元婚約者さんが、王子様と婚約を解消した。わたくしは王家の暗部はまだ知らないから、今なら間に合うだろうとかなんとか…。そして、何故か新たな婚約者に私を推薦してくださった。なんでだろう。実は優しい人なのかな。
七月二十七日
私は正式に聖女になり、また王子様の婚約者になった。異例の速さで決まったらしい。でも、教会曰く聖女になる実力は十分だとか。ただ、王子妃教育は大変だろうって。王子様の元婚約者さんは遠くの国に留学した。悪いことしちゃったかな。
かなり日付が飛ぶ
十二月二十九日
忙しくて日記もつけられなかった。聖女としての仕事は順調。聖魔力は多いのが自慢だから、国や国民への結界も祝福も加護も問題なく行えている。みんな私には感謝してくれる。
けれど、王子妃教育は大変だった。たくさん叱られる。これに元婚約者だったあの方は一人で耐え、そして乗り越えていたのだ。
意地悪なんてされていなかった。全部正論だった。今なら優しさから忠告してくださったのだとわかる。
あの方は、王子殿下から嫉妬されていたのだ。優秀な方だったから。それでも王子殿下を愛していた。
私はバカだ。王子殿下の劣等感を払拭するための都合のいいお人形遊びに利用されていただけ。
今私は聖女として感謝され愛され、叱られることも多いが王子妃教育がそれなりに形になっている。
王子殿下の次の嫉妬の対象になった。聖女としてはそれなりに有能だから、その嫉妬は苛烈だ。
…あの方は遠くの国に留学したが、正解だった。その国の第五王子に見初められたのだ。その第五王子はどうやら側室ですらない妾の子だからと婚約者もいなくて、すんなり婚約も認められたらしい。むしろ、第五王子と我が国の筆頭公爵家の一人娘の婚約によって国交が樹立され誰からも歓迎される婚約だとか。もちろん本人たちも深く愛し合い幸せらしい。
ああ、私は本気でバカだ。愚かだ。
けれど…あの方が解放され幸せを掴むきっかけになれただけ、まだマシだと自分を慰める。
それに、聖女としてはちゃんと役に立つし人々から感謝はされているから。
愚か者の末路としては。
まだ、マシなのだ。
妃の昔の日記の中身を見て、過去の自分自身に呆れ返る。
この頃の自分は本当にボンクラだった。優しく慈愛に溢れた妃にこうも書かれるくらいには。
遠く離れた、我が同盟国との国交を結ぶきっかけとなった…我が元婚約者。
アレも大変私に尽くしてくれた良い女で、その節は本当にお世話になっていたと思うし本当に申し訳ないと思っている。
が、私をここまで更生させてくれたのはやはり彼女が婚約者にと推薦してくれた我が妃だ。
「彼女は本当に聡明だから、それも見越して妃を推薦してくれたのだろうな」
…あるいは、最初は仕返しのつもりもあったかもしれないが。
ともあれ、彼女は夫とおしどり夫婦となり女公爵として幸せに堅実に暮らしている。
妃は聖女として、我が妃として。
数々の成功を収め、多くの人々が愛し感謝している。
息子たち娘たちも妃をとても愛している。
「そして、私自身も…妃を、愛している」
妃は、この日記の後本当に本当に聖女として頑張った。
そして我が妃となってからは、私が王子から王太子になるまでの間に私を更生させようとそれはもう頑張ってくれた。
ここまで傲慢なクズだった私を、賢君と言わしめるほどの男に変えてくれた。
いや、本当に大変だったと思う。
しまいには横っ面を張り倒されたレベルだし。
「それでも見捨てないでくれた」
そして、私は更生するに従って我が妃に本当に恋をした。
それはやがて愛に変わった。
妃は、一度私を軽蔑したはずなのにそれでも再び愛を返してくれた。
子まで産んで、その子たちも深く愛し。
その子たちも大きくなり、次世代の王として、あるいは聖女として…それ以外の子も、それぞれ国益のために身を尽くしている。
「国のため、国民のため、夫のため、子のため…十分すぎるほど頑張ってくれた」
だから、もういいのだと。
眠る妃の頬を撫でる。
妃はこんなどうしようもない男を、真に愛してくれていた。
だから、欲深い隣国の王が我が国を手中に収めんがため私にかけた呪いを代わりに一身に受けてしまった。
優しすぎる、愛が大きすぎる我が愛しの妃よ。
「もう、いいのだ」
お前は次世代の聖女は十分に育ったと王女を励ましたが、次世代の王となる王太子…息子も十分に育った。
私が受けるべき呪いは、私が受ける。
妻の眠るベッドの近くで、私は小指から血を流す。
すると妻を蝕む呪いは、本来の標的たる私の血の匂いに反応して私に襲いかかった。
聖女ではない私にはひとたまりもない。
「…国王、陛下?…国王陛下!………あなた!」
聖女である彼女は呪いから解放されれば、たちまち目を覚ます。
今際の際に、その顔を見られて良かった。
「いやっ…死なないで、あなたっ!」
泣いてくれるのが嬉しい。
「あいしてる」
最期に、ちゃんと言えてよかった。
宗教系の家庭に引き取られて特別視されてる義兄に気を遣ってたら、なんか執着されていました
という連載小説を始めました。よろしければご覧ください!