落ちる鏡
アラハバキは手に持った白銅の剣を、アマテラスに突き付け言う。
「お前は迷っているのだアマテラス。自らの武装が相手にあれば負けるかもしれないと…… 貴様は負ける理由を欲しているのだ。さぁ願え、私に貴様の願いを!」
そして……
ブオン
そのまま白銅の剣で攻撃を行い、アマテラスはその攻撃を自らの白銅の剣で受け止めた。
カッキーン
ガチャ ガチャ
鍔迫り合いながら、アマテラスはアラハバキに向かって言う。
「黙りなさい! 高天ヶ原の主たる私が、貴女に望むのはただ一つ…………」
ガチャ ガチャ
アマテラスは鍔迫り合いの中、そう言いながらアラハバキに少しずつ体を近付けて行き、更に力強く言葉を続ける。
「……貴女が常世に返る事!」
「気が強いのは嫌いではないが、もう少し素直になったら如何だ?」
笑顔でそう言い返したアラハバキの剣を、アマテラスは剣で斬り払い、後ろに飛び退き怒鳴る様に……
「大きなお世話です!」
と言いながらアラハバキに斬り掛かった。
今度はそれをアラハバキが剣で受け止める。
ブオン
カッキーン
アラハバキは小馬鹿にした様にアマテラスに教える。
「フン。その様な事だから、弟達から距離を取られるのだ」
ガチャ ガチャ
アラハバキは鍔迫り合いから、アマテラスの剣を斬り払う。
そこから斬り掛かろうとするが、アマテラスは後ろに飛び退き攻撃を躱すと、アラハバキに強い口調で尋ねる。
「それなら私からも問いましょう。何故私と取って代わろうなどと言ったのです? 貴女は自分でも言った筈。現世は殆ど私達を必要としないと!」
言葉の強さとは裏腹に、アマテラスの心は揺れていた。
(……そう、もう私達は……――)
するとアラハバキは、クスクス笑いながらその問いに答える。
「フフフ、お前は勘違いをしている。私達に必要なのは貴様のその座のみ」
(?)
アマテラスはアラハバキの言葉で一瞬驚くが、次の瞬間疑問が沸いて来た。
(私……達……?)
★★★★
【約一時間後 日本列島上空】
アラハバキは手に持った白銅の剣を、アマテラスに突き突けながら言う。
「さぁ如何する、そろそろ日が落ちるぞ」
太陽は、地平線へ隠れ様としていた。
「こんな筈では……――」
うろたえてそう言うアマテラスに、アラハバキが言う。
「何を言っている。全てはお前の心の内よ」
そして自分の考えを、わざと口にする。
「やはり出雲の神の考えは、正しかったと言う事か?」
アマテラスはそれを来き、驚いてアラハバキに聞き返す。
「それは如何言う事です!」
「フン、まさかここまで想定通りの言葉を吐いてくれるとは…… 目の前の敵の言葉より、実の弟を疑ったモノに、その首飾りと鎧は不釣り合いだ!」
アラハバキはそう言い返すと、左手の弓を捨て、その手をアマテラスに突き出す。
そしてアラハバキは、その左手で拳を作りながら言う
「破!」
すると……
ピキ
ピキ
ピキ
パシャン
アマテラスの首飾りが砕け散った。
「そんな、四魂の勾玉が……」
そのアマテラスの言葉と同時に、龍の鱗の革鎧も消滅。
「次はその、白銅の刻の剣!」
アラハバキはそう言った次の瞬間、アマテラスの懐に屈んだ状態でワープし、剣を突き上げた。
(!)
驚き、アマテラスは咄嗟にそれを剣で受け止めようとするが……
ガシャン
アラハバキの攻撃により、アマテラスの白銅の剣は砕かれ消滅した。
(如何言う事? 玉も剣も弟達の意思なしに壊れる筈は………… ……やはり)
驚きながらもそう考えているアマテラスに、アラハバキが言う。
「今のお前に、考えてる余裕が有ると思うか!」
そう言いながらのアラハバキからの剣での追撃を、アマテラスが反射的に退いて躱すと、アラハバキは言葉を続ける。
「お前の心の問いに答えてやろう。当たらずと雖も遠からず、と言った所か。さぁ次は人とお前を繋ぐその八咫の翼だ 」
言い終わったアラハバキが宇宙に剣を向けると、星々が刃へと変わって行く。
「いくぞアマテラス。その翼、常世に封じてくれる」
アラハバキの言葉が終わると同時に、煌く星の刃がアマテラスの翼に向く。
「さぁ、地に落ちろアマテラス!」
紫色の空。
そこからアマテラスが複数の星の光りと共に大地に落ちた。
アマテラスの八咫の翼は、星の光りにより大地に貼り付けられ、消滅。
大地に仰向けに倒れている、アマテラスの目の前に舞い降りたアラハバキは、白銅の剣をアマテラスの目の前に突き付けながら言う。
「これで茶番は終わりだ、アマテラス……」
すると……
「少し待ってくれるかしら」
女性の声と共に、アラハバキの後ろからククリが不意に姿を表した。
ククリの姿を見たアマテラスは、驚いて言う。
「御母さ……、いいえ違う。貴女はククリ叔母様?」
驚いているアマテラスに、ククリは申し訳なさそうに告げる。
「やはり今の貴女ではアラハバキには勝てなかった。スサノオの考えは正しかったみたいね」
(!……)
それを聞いたアマテラスは、驚きを隠しながらククリに聞く。
「弟は……、貴女達は何を企んでいるのです?」
「それはこれから判る事。貴女は本来の役目通り見守っていなさい」
そう言いながらアマテラスに背を向けたククリは、続けてアラハバキにお願いする。
「そろそろ子供達が来る、もう一芝居お願いね」
「フン。良いだろう、それが貴様等の願いならばな」
アラハバキがそう言い終わる頃には、ククリの姿は消えていた。