「ほぉ。スセリよ、小娘の身体を乗っ取ったか」
恵理花は、臣器の死角でそう言った天狗丸と対峙していた。
臣器の死角とは、河川敷の通路側に居る人間が、臣器の所為で恵理花の姿がきちんと確認出来無い位置。
「違うわ天狗丸。私は力を貸しているだけ、決めたのはこの子」
話しをしていない恵理花から、何故かスセリの声がする。
その声は葉司達にも聞こえていた。
「スセリ、どうなってるんだ?」
「小娘って、もしかして恵理花が近くに居るのか!」
太耀と葉司は姿の見えないスセリにそう聞くが、スセリや恵理花からの返答は無い。
スセリは念話で恵理花に言う。
(「あまり喋っては駄目よ恵理花」)
(「どうして?」)
(「あの子達と違って、貴女は正体がバレたら誤魔化しが効かない」)
恵理花とスセリがそう念話で会話をしていると、背後から風丸の声が聞こえて来る。
「追い着いたぞスセリ!」
その声に気付き恵理花が無意識に振り向くと、風丸と鬼丸が10数メートル先に追い着いて来ていた。
「お前達、何をやっている?」
天狗丸が少し怒った口調で風丸と鬼丸にそう言うと、鬼丸が天狗丸に言う。
「気を付けろ天狗丸。スセリの力が上がっている」
「だから如何した、所詮媒介は童。この状況で、恐怖を持たぬ者など居ぬ筈は無い! オン、ヒラヒラ…………」
そう言って天狗丸は呪文を唱え始め、恵理花の頭上に光りの刃が出現し出す。
天狗丸が呪文を詠唱する中、スセリは恵理花に次の行動を念話で指示する。
「(恵理花。葉司達に貴女の姿を見せて恐怖を潰すわよ)」
「(……そんな事出来るの?)」
恵理花がそう聞き返すが、スセリが返事を言う前に天狗丸の詠唱が先に終わる。
「恐怖よ、彼の者の動きを止めよ」
ジャラン
錫杖を恵理花に突き付け天狗丸がそう言うと、光りの刃が恵理花の頭上から降り注ぐ。
しかしその攻撃はスセリが恵理花の身体を動かして躱し、スセリは恵理花に先程の答えを念話で言う。
(「男心次第かしらね。それより追撃が来るは、拒絶して!」)
「「うぉぉぉぉ!」」
その声に気付き恵理花が辺りを見回すと、風丸と鬼丸が此方に襲いかかって来ている。
(拒絶って! 怖い、来ないで!)
慌てて反射的に蹲った恵理花に、風丸と鬼丸は攻撃を仕掛けるが……
パキュウン
球状の白い半透明な結界に阻まれ、身体が弾かれた。
「ちっ、やはり結界は砕けんか……」
鬼丸の言葉で、自分の状況を理解した恵理花は驚く。
(今のは?)
そう思っている恵理花に、空中を移動しながらスセリは念話で言う。
(「上手いじゃない」)
(「どうなってるの?」)
(「無駄話しは後、上から来るわよ!」)
スセリに念話でそう言われ、恵理花が上を向くと、天狗丸が錫杖を振り下ろしながら近付いて来る。
「キェェェェイ!」
(きゃ!)
ジャキャン
しかし、恵理花が天狗丸から攻撃を受けたくないと強く考えると、天狗丸の攻撃は先程と同じ様に、球状の白い半透明な結界に阻まれ、弾かれた。
「ならば、今一度!」
天狗丸はそう言って再度攻撃をしようとするが、今度の攻撃はスセリに躱される。
(「恵理花、もっと自信を持ちなさい。結界が破られない事は理解してるでしょ」)
スセリがそう恵理花に念話で語り掛けるが、恵理花は念話で言い返す。
(「そんな事言っても、怖いモノは怖い……」)
(「頑張って敵を見て。ここで攻撃を受けたら、あの子達の恐怖を消す所では無い」)
(……)
敵の攻撃を躱してもらいながら、恵理花は考える。
そして意を決したのか、敵の姿を自分で確認し始めた。
★★★★
葉司、北斗、太耀は臣器の中で、風丸、鬼丸、天狗丸と交戦している、恵理花の姿を見ていた。
「おい。もしかしてアレ、恵理花かよ……」
葉司が通信機能越しにそう言うと、北斗が続けて言う。
「多分……」
(どうして恵理花が……)
太耀がそんな事を考えていると、三人にスセリからの念話が来る。
(「貴女達、何をしているの。このままだと恵理花の体力が持ちませんよ」)
(「そんな事言っても…… 身体動かないんだ!」)
北斗が少し力強くそう返すと、スセリは怒った口調で文句を言う。
(「三人共。天狗丸の力で身体が動かないのは、多分貴方達の気持ちの所為。そんな事で良く恵理花を護るなんて言えたわね」)
「分かってるよ、そんな事!」
葉司がスセリにそう文句を返すと同時に、龍蛇丸の動きを止めていた刃の1つが消滅する。
それを見ていた太耀は、ある事に気付く。
(もしかして……)
太耀は恥ずかしさを堪え、周りの人間全てに聞こえんばかりの大声で言う。
「僕は彼奴等が怖い! 怖い! 怖い! 怖い……」
「おい、太耀?」
「太耀君?」
驚いて通信機能御しにそう言った葉司と北斗を他所に、太耀は更に続ける。
「それでも……、何もしないよりマシだ! 飛べ、鳳皇丸!」
すると、鳳皇丸の動きを止めていた光りの刃は消え去り……
鳳皇丸は空へと飛翔した。
(やった!)
そう心の中で思った太陽は、鳳皇丸に命令をする。
「鳳皇丸、そのままあの天狗に突っ込め!」
だがその攻撃を天狗丸は躱す。
「ほう……、恐怖を自らの言の葉で祓うとは」
天狗丸がそう言っている間に、鳳皇丸は恵理花と合流した。
「スセリ! 僕と和装の少女を結界で護ってくれ、考えが有る」
太耀がスセリに向けてそう言うと、恵理花も続けて言う。
「お願いスセリ。私と鳳皇丸を護って」
恵理花の声と共に、恵理花と鳳皇丸を覆う、半透明の白っぽい球状の結界が生成された。
「如何するつもり。いくら今の私でも、この結界長くは持ちませんよ」
スセリがそう言うと、太耀はスセリに聞き返す。
「スセリ、今何所に?」
「私はこの子と共に。詳しくは後で」
現状を葉司と北斗にも理解させる為、スセリはそう太耀に大声で返事をした。
「分かった。スセリ、二人を動ける様にする手伝ってくれ」
そう言った太陽に、不思議に思った恵理花が聞き返す。
「手伝うって、如何するの?」
「良いから見ててくれ!」
太耀がそう言う一方で、結界の外では風丸、鬼丸、天狗丸が、結界を壊そうと攻撃を仕掛けていた。
ガジャン
ガン
ガガン
ガキョン
そんな中、太耀は葉司と北斗に言う。
「二人共聞いてくれ。身体が動かないのは彼奴等が怖いからだ。別の事を考えろ」
しかし……
「そんな事、突然言われてもよ……」
「怖いモノは怖いんだ」
葉司と北斗の返事は、概ね太耀の考えていたモノと同じ。
だからこそ、太耀はこの作戦に自信が出た。
思ってる感情とは反対の感情を作り、怒りっぽく、オーバーリアクション気味に太耀は言う。
「二人共、そんな事言ってる場合か! このままじゃ皆やられるかも知れないんだぞ。僕に出来たんだ、二人に出来ない訳が無いだろう!」
「わぁてるよ、そんな事! でも……」
「分かってるよ! でも……」
葉司も北斗も、同時に太耀にそう反論した。
龍蛇丸と狼王丸に刺さった光りの刃を太耀は確認する。
すると葉司や北斗の言葉とは裏腹に、光りの刃の本数は減っている……
が、全てが消えてはいない。
(やっぱり、僕だけじゃ押しが弱いか……)
そう考えている太耀とは別に、太耀の言葉で光りの刃が消えたのを見ていたスセリは、太耀の考えを理解し、恵理花に念話で言う。
(「恵理花。葉司と北斗に、今の本当の気持ちを伝えなさい」)
(「スセリ?」)
スセリの言葉を不思議に思って恵理花がそう聞き返すと、スセリは恵理花に教える。
(「男を動かすのは女の言葉よ」)
そして思う。
(……惚れてるなら、尚更ね)
(……)
恵理花は少し考え、意思を固めた。
「スセリ――」
太耀が何か言おうとするが、スセリはその言葉を遮って止める。
「待って!」
(?)
太耀が言葉を止めた瞬間、恵理花が葉司と北斗に向かい、大声で言う。
「二人共…… お願い、助けて!」
恵理花の言葉の後、暫くして龍蛇丸と狼王丸に刺さっていた、残りの光りの刃が消滅した。
ガキョン
バガン
ジャギャン
ミシ ミシ
それと同時に、スセリの結界も破壊される。
パッキャン
そしてスセリと天狗丸が同時に言う。
「しまった、結界が!」
「風丸、鬼丸、下だ!」
天狗丸の言葉で、風丸と鬼丸は自らの真下に目を向けた。
風丸の真下からは龍蛇丸が突っ込んで来る。
それと同時に、鬼丸の真下からは、金属の水晶状の柱が隆起し襲って来た。
ズガシャン
龍蛇丸を受け止めた風丸だったが、尻尾でグルグル巻きにされ、一時的に動きを封じられる。
一方鬼丸の方は、隆起物を軽々躱す……
が、意識が始めの隆起物に行っていた為、2つ目の隆起物の発見が遅れ、それに乗って自分の居る高さにやって来た狼王丸の姿を目にした。