葉司、北斗、太耀が臣器の個人練習を始めて暫く。
オモイカネが恵理花と薫に、今の子供達の生活について聞いている。
それを見ていたスセリも途中から話しに加わった。
「そう言えば御二方は、何故私達にこの様な事を聞くのですか?」
薫にそう問われ、オモイカネは答えを返す。
「確かギャップとか言うのであったな、それを埋めようと思ったのだ」
「私達の思ってる以上に、考えに違いが有りそうだし、私が言うのも何だけど暇でしょう? 時間は有効に使わないと」
スセリもそう続けたが、2神の本心はオモイカネが言ってしまった不安を煽る言葉から、恵理花と薫の気を逸らす為。
思い出したかの様に、スセリは紫織に尋ねる。
「そうだ紫織、貴女達に私達が如何伝わっているか教えてくれない? この子達に私達の事を知ってもらえるし、実際の私達との違いも気になるから」
「それなら後で、お祖父様の本でも読んでみませんか? 確かお祖父様が、そっち方面の本を何冊か書いていましたし」
薫がスセリの言葉にそう返すと、恵理花が少し驚いて薫に聞く。
「薫君の御祖父さん、物書きだったの?」
「いいえ、確か本業は大学教授です。本の執筆は趣味みたいなモノだと言ってましたが」
「そうなんだ、今度読んでみようかな。薫君、御祖父さんのペンネームは?」
「お祖父様は本みょ――」
そこまで薫が言いかけ、紫織がその言葉を遮る。
「恵理花。大学の先生の本なんて、小学生が見ても解らないさ」
遮った紫織の言葉で薫は気付く、紫織に物凄く睨まれている事に。
取り繕う為に薫は言う。
「そっ……そうですよ、私も良く解りませんでしたし」
そんな人間達の様子を見て、オモイカネは不思議に思いスセリに念話で聞く。
(「スセリ、コレは如何言う事だ?」)
するとスセリはクスクス笑いながらオモイカネに念話で言い返す。
(「歳の割りに可愛らしい事するわね紫織」)
(「訳が分からん……」)
★★★★
「どうだ北斗」
葉司と太耀は、龍蛇丸が空中に円状に留まり、その中を上から鳳皇丸が翼を抱かえて通過し、地面すれすれで再度飛翔すると言う芸当を北斗に見せた。
個人練習を始めてから、大体35分ぐらいが経過している。
「太耀君、だいぶ空飛ぶ方法上手くなってきたね」
北斗がそう言うと、太耀が自信満々に言う。
「僕にかかれば当然さ」
「あぁ、格好付けが何か言ってるよ」
葉司が呆れた様子でそう言い、北斗が二人に聞く。
「それにしても、アニメみたいに機械じゃなくてよかってね」
「確かに小五で、機械の操縦とか無茶に決まってるぜ」
そう言う葉司に太耀は続け様に言う。
「もしかして合体とかしたりしてな」
「それはテレビの……見過ぎだ!」
葉司はそう言いながら、龍蛇丸の尻尾で狼王丸に薙ぎ払いの攻撃を仕掛けるが、狼王丸はそれを軽々躱す。
「残念、そんな大振りの攻撃当たらないよ」
北斗が葉司に向けてそう言うと、葉司は言う。
「やっぱり、話しをしながら別の事考えるってムズいな」
「お前にそんな事出来たら、世界に雪が降るだろ」
太耀が葉司をそう煽ると、葉司は少しムッとして言い返す。
「そのケンカ、乗った!」
今度は鳳皇丸に、龍蛇丸で尻尾の薙ぎ払い攻撃を仕掛ける葉司だが、やはり龍蛇丸の攻撃は鳳皇丸に軽々躱された。
「くそ、やっぱり当たんねぇ。コイツ何かワンテンポ遅いんだよ」
悔しそうにそう言いう葉司に、北斗はフォローを入れる。
「スセリが、制御が大変って言ってたもんね」
その時、不意に何所からか少年の声が聞こえて来る。
「なら、コレは如何避ける……」
そして近くを流れている川の水が、結界上空に吸い寄せられて行く。
「さぁ黒母蛇の比礼よ。蛟と成りて、結界ごと吹き飛ばせ!」
その少年の声と共に川からの吸い寄せは止み、上空に吸い寄せられた水は次第に全長25メートル程の黒い蛟に変じる。
そして黒い蛟が、スセリの張った結界に突っ込んで来た。
「うわぁ、こっち来るぞ!」
パッキャン
葉司がそう言っている間に、結界は黒い蛟により上部から砕かれ、それと同時に葉司達の姿が通行人達の目に晒される。
ズバコーン
ガツコーン
ガッシャーン
「「うわぁぁぁぁ!」」
更に黒い蛟に臣器を弾き飛ばされ、葉司、北斗、太耀は悲鳴を上げ……
バッシャーン
黒い蛟はその後、川の上空に移動し普通の水に戻った。
「二人共、大丈夫?」
臣器内の揺れが収まり、北斗が葉司と太耀にそう言って安否の確認をすると、葉司が言う。
「俺は何とか……」
「……それより結界が!」
更に太耀がそう言った後、三人は臣器で河川敷の周りを見回す。
すると昼近くで昨日の入学式のお祝いに、外食や買い物に出ている家族連れの車が結構居り、その所為でかなりの人々が立ち止まったり車を降りて、自分達の事を見ている事が確認出来た。
(不味い、このままじゃ迂闊に動けない……)
そんな異を考えている太耀の耳に、聞き慣れない声が聞こえて来る。
それは葉司も北斗も同じ。
「やぁ、生命の息吹き。我は碧魂。魄と黒の皇子、風丸」
先程聞いた子供の声と共に、龍蛇丸の目の前に、白い腕を胸の前で組んだ、黒刺青と白い鱗の肌が印象的な、白い半ズボンに碧色の腰巻き姿の、葉司より少し小柄な少年が……
「我を見よ、想像の鎚。われは勇みし者の王。その名は鬼丸」
その男性の声と共に狼王丸の目の前には、赤鬼の面を付け、赤い狩衣姿の、小槌を持った青年が……
「聞くがいい、言の葉の法よ。儂は導きの言の葉。天狗丸」
その初老の男性の声と共に鳳皇丸の前には、錫杖を持った、白い翼を持つ、黒い顔をした鼻高天狗が……
姿を現わした。
風丸、鬼丸、天狗丸は其々挨拶を済ませると、天狗丸だけその場を少し離れ話し出す。
「風丸、鬼丸共に力の鱗片は見た筈だ……」
「じゃあ、さっき結界を壊しやがったのは」
葉司がそう言うと、風丸はクスクス笑い葉司に言い返す。
「そうだ、俺の力さ。如何だ? 怖かったか? 何て聞かなくても判るか…… 全く動けないんだからな」
風丸の言う通り、三人は確かに動けない。
先程の攻撃が怖かった事も有るが、葉司達三人が動けない理由がそれ以外にも有る。
風丸、鬼丸、天狗丸が怖いのだ……
対面してみて改めて恐怖が沸いて来たのだ。
それを知ってか知らでか、鬼丸と風丸は葉司達を煽り始める。
「アラハバキ様に生身で立ち向った子供達とは思えんな。離れた所に居る、あの小娘を傷付ければ向かって来るか?」
「止めてやれ、そんな事をしても、此奴等はビビって動きはしないさ」
そう言いながら鬼丸と風丸は、三人を無視して恵理花達の方へと、ゆっくり移動し始めた。
ガコン
ガコン
ガコン
「「怖くなんか!」」
そう言いながら葉司と北斗が、龍蛇丸と狼王丸で後ろから攻撃を試みるが、龍蛇丸の攻撃は風丸に躱され、狼王丸の攻撃は鬼丸に片手で受け止められる。
「「甘い!」」
風丸と鬼丸はそう言うと、更に鬼丸は持っていた小槌で狼王丸の下顎を叩き上げる。
ガツコーン
「うわぁぁぁ!」
すると北斗が攻撃の衝撃に叫び……
ガコン
狼王丸は宙に浮き、180度回転しながら落下した。
一方葉司の方は、風丸に風丸の尻尾を掴まれてしまう。
「次はお前だ、生命の息吹き!」
そう言った風丸は、自らの腕に命令する。
(ミシャグジ、加減はしろよ……)
ブオン
ズバコーン
すると龍蛇丸は弧を描きながら地面に叩き付けられ、その衝撃で葉司が叫ぶ。
「うわぁぁぁ!」
死なない程度の揺れは、葉司と北斗の頭を揺らし、頭をフラ付かせ、なけなしの勇気を削って行く。
その姿を、核の鏡越しに見ている太耀は悩む。
(怖い…… でも、どうにかしないと)
悩んでいる太耀に天狗丸が言う。
「聞け、言の葉の法よ」
天狗丸の言葉に、太耀の意識は天狗丸に向き、視線を臣器越しに天狗丸に向けた。
「貴様は何故動かん?」
そう天狗丸に言われた太耀は、怒った振りをして言い返す。
「うるさい!」
そう言い返してみても、太耀には良い考えが思い付かない……
(むやみに突っ込んで行っても……)
いや怖い為、理由を付けて動きたくないのだ。
「やはり子供か。お前のその行動の背中を押してやろう」
天狗丸はそう言うと、錫杖を鳳皇丸に突き付ける。
ジャラン
「オン、ヒラヒラケン……ヒラケンノウソワカ。我が言の刃よ、我等が火の粉達の動きを止めよ!」
そう言いながら錫杖をクルクルと回し、頭上に掲げた天狗丸を見て、太耀は自らの視界を頭上に向けた。
すると鳳皇丸の頭上に数本、光りの刃が出現している。
もしやと重い、太耀が龍蛇丸と狼王丸の方も確認すると、龍蛇丸と狼王丸の頭上にも、数本の光りの刃が出現していた。
「二人共、上から天狗の攻撃が——」
太耀が慌てて、通信機能を使わず葉司と北斗にそう呼び掛けるが、天狗丸はその言葉を遮る。
「遅いわ!」
天狗丸が錫杖を振り降ろす動作をすると、光りの刃が臣器達を襲う。
(! ……?)
だが、来る筈の衝撃が来無い。
太耀は不思議に思いながら、天狗丸の方へ視界を向けようとするが……
何と自分の顔以外が動かない。
更に、太耀が龍蛇丸と狼王丸の姿を確認すると、二器共光りの刃でその場に繋ぎ止められていた。
「鳳皇丸、その場から離れろ!」
念の為、太耀は核の鏡に命令をするが、鳳皇丸が動く気気配は無い。
「何だ、体が動かねぇ?」
「ダメだ狼王丸も動かない?」
葉司と太狼は自身の状態が分からず、混乱している。
「天狗が光りの刃で臣器の動きを止めたんだ」
そう核の鏡越しに、太耀が現状を二人に説明していると、天狗丸が鳳皇丸を通した太耀の視界にやって来て言う。
「如何だ動けまい、コレは言の葉の刃。我が言葉を聞いて、お前達の恐怖が生み出した楔」
ざわ
ざわ
ざわ
河川敷の周りでこの出来事を見ていた人々は、次第にざわめき出した。
「何だアレ!」
「アレは天狗と鬼か?」
「蛇みたいな奴、叩き付けたのは子供か?」
「誰か警察……いや、自衛隊を呼べ!」
ざわめく人々《びと》を見回しながら、天狗丸は思う。
(これが人の言う、百聞は一見に如かずと言うモノか。天狗の姿を取ってはみたが、人々《びと》の反応を見る限り、正解の様だな)