北斗が瞼を開けると、そこは特殊な空間だった。
足場は3メートル程の円状の石床。
それ以外が夜空の様な空間になっていて、足場には龍と蛟と狼の姿が描かれている。
(ココは?)
不思議に思っていた北斗の目の前……と言うか、足場の中心に金属製の水晶の柱の様な物が隆起して来た。
そして足場は炎に囲まれ、柱の頭上中央から水が降り注ぐ。
「うゎ!」
声を出して驚いた北斗だが、ある事に気付き思う。
(あれ、火に囲まれてるのに熱く無い?)
更に目の前の流水に手を入れてみても、水に触れている感覚は無い。
次の瞬間、無風だった謎の場所にそよ風が吹く。
そして何所からかスセリの声が、北斗の耳に聞こえて来る。
★★★★
「北斗、聞こえる?」
スセリが狼王丸に向かってそう言うと、狼王丸の中からエコーの掛かった北斗の声で返事が返って来る。
「スセリ?」
「此方側の事は確認出来てる?」
スセリがそう聞くと北斗が返事を返す。
「うん、何か大きな金属板が出て来て外が映ってる。ねぇココは何処なの?」
「其処は狼王丸の中よ。北斗、狼王丸を少し下がらせてみて」
そう言ったスセリに北斗は聞き返す。
「下がるって、どうやって?」
「多分、近くに核となる物が在る筈よ。狼王丸の場合金属製の物が。それに手を触れて念じてみて」
「……コレかなぁ?」
スセリに言われた核が、目の前の金属柱だと考えた北斗は、金属柱に手で触れ後ろに下がる様念じる。
ガコン
ガコン
ガコン
すると狼王丸は数歩後ろに下がる。
狼王丸が動いた事を確認したスセリは、北斗に言う。
「北斗、悪いけどそのまま結界の端まで行って待っててくれない?」
「分かった」
北斗がそう返事をすると、狼王丸は向きを変え、結界の端へ駆けて行く。
ガコン
ガコン
ガコン
「すげぇなアイツ!」
北斗の行動を見て、無意識に葉司がそう口にすると、太耀が葉司に向かって言う。
少し意地悪そうに。
「何だ自信が無いのか葉司、情けない」
「うっせぇ、お前はどうなんだよ!」
葉司が少し怒りっぽくそう言い返すと、太耀は自信満々に更に言い返す。
「見てろ、僕が見本を見せてやる」
(葉司に大見栄切ったんだ。僕は出来る……僕は出来る!)
太耀はそう自分に言い聞かせると、鳳皇丸の方を向いて言う。
「鳳皇丸、僕を君の中へ!」
すると天空から一陣の光りが太耀へ降り注ぎ、光りが消えると共に、その中に居た太耀の姿も消える。
★★★★
「ココは……」
瞼を開けた太耀は、直径5メートル程の神楽の屋根付き舞台の様な場所に居た。
辺りを見回すと、快晴の下の神社の境内の様な場所だと判る。
太耀の居る神楽舞台は、屋根の縁に無数の半透明の白に布が結ばれており、それが日の光の様に見え、舞台の中心には1メートル程の台の上に、直径46センチ程の金色の青銅鏡が備え付けて在った。
「スセリ、聞こえているか?」
太耀が姿の確認出来ないスセリにそう言うと、何所からかスセリの声が聞こえて来る。
「えぇ聞こえているわ。その子は言葉に反応する筈よ? 核は鏡の筈だから、鏡に向かって命令してみて」
「分かった。鳳皇丸、外が見たい」
そう目の前の鏡に太耀が命令すると、眼前の空に鳳皇丸が見ている景色が映し出された。
「太耀、私が今何をしているか分かる?」
そう言いながらスセリは、片手を上げ腕を左右に振る。
スセリの様子を確認した太耀は言う。
「美人の女神様が、僕に向かって手を振ってくれています」
「あら、口説いているのかしら?」
スセリがクスクス笑ってからそう返すと、葉司は少しムッとして太耀に野次を飛ばす。
「おい太耀、真面目にやれ!」
葉司の野次にスセリはクスクス笑い、葉司に向かって教える。
「アレは彼の強がりだから、虐めちゃダメよ」
「はいはい、そう言う事に……――」
太耀がそう言おうとすると、不意に鳳皇丸の核の鏡に北斗の姿が映る。
「太耀君、ボクの事見えてる?」
しかも声まで聞こえて来た為、太耀は鏡越しに北斗に尋ねる。
「北斗。お前コレ、どうやったんだ?」
「分かんない。出来ないかなぁと思ったら出来たんだけど」
北斗と会話している太耀の声を聞き、不思議に思ったスセリは太耀に聞く。
「太耀、いったい何を話しているの?」
「北斗の姿が、備え付けの鏡に映って声がするんだよ。スセリには聞こえない?」
太耀の話しを聞いたスセリは悩む。
(如何言う事かしら? そんな機能の話し、聞いた記憶は……)
スセリが鳳皇丸を見ながら悩んでいると、薫がスセリの異変に気付き話しかける。
「何か問題でも?」
「……いぇ、心配を掛けてごめんなさい。私の知らない機能が有ったものだから……」
そう言ったスセリに、紫織は本当に少し驚いて聞く。
「ちょっとスセリ、臣器作ったのアンタ等じゃないのかい? 知らないって如何言う事だい?」
「確かに生み出したのは私達ですが、私は使った事が無いのです。もしかしたら北斗が、狼王丸の力で何かをしたか、私の知らない能力が有るのかもしれません……」
スセリは紫織に向かってそう言うと、鳳皇丸に向き直る。
(害は無さそうだし今は……)
そう考えたスセリは太耀に言う。
「とにかく害は無さそうなので、今は話しを先に進めましょう。太耀も移動の練習も兼ねて、結界の端で待機していて。鳳皇丸は言葉で言えば従ってくれるけど、なるべく正確に伝えないと動いてはくれません」
「分かった」
太耀はそう返事をすると、鳳皇丸に命令をする。
「……それじゃあ鳳皇丸、まず僕の腕以外の体の動きを真似てくれ。それから……」
ガコン
ガコン
ガコン
すると鳳皇丸は太耀の命令通り、少しずつ向きを変えながら用事達に背を向け、歩いて離れて行く。
そんな鳳皇丸を見て葉司は言う。
「うゎ、だっせぇ! 鳥なら飛べよ」
その言葉が耳に入った太陽は鳳皇丸の歩みを止め、葉司に背を向けたまま話しかける。
「それはこれから練習するんだよ、それにこんな所で羽ばたいたら危ないだろう。そう言う事は自分がきちんと出来てから言うんだな」
そう太耀が言い終わると、鳳皇丸はまた歩き出した。
ガコン
ガコン
ガコン
「太耀の言う通りよ。友達を馬鹿にしたのなら、自分は自信が有るのよね」
更にスセリに笑顔でそう言われ、葉司は少し慌てる。
「墓穴を掘りましたね」
そんな葉司に薫がそう言うと、葉司は怒って言い返す。
「うっせぇ、他人事だと思いやがって!」
「だって他人事ですから」
再度追い討ちを掛ける薫に、恵理花が怒って言う。
「ちょっと薫君、今は葉司からかってる時じゃないでしょ!」
「そうだ、そうだ!」
葉司が恵理花の言葉に同意してそう言うと、スセリは三人を真面目な顔で窘める。
「ほらほら、ふざけてないで始めるわよ」
葉司、薫、恵理花はスセリに窘められ、軽い口ゲンカを止めた。
薫は葉司に聞こえない様、恵理花に小声で言う。
「恵理花さん、葉司君に頑張れとか言わなくて良いんですか?」
「何の事?」
恵理花が小声で聞き返すと、薫は小声で答えを返す。
「いいえ……、きっとその方が葉司君は頑張れると思いまして」
恵理花は薫の提案に少し悩む。
(そうよ、これは薫君に言われたから……)
恵理花が葉司に目を向けると、葉司は少しオドオドしている。
その様子を見て、恵理花は葉司に文句を言う。
「ほら葉司、情けないわよ。ちゃっちゃとやりなさいよ」
「何だよ! 誰の為にやると思ってんだ、可愛げねぇな」
葉司は恵理花の言葉に文句で返すが、売り言葉に買い言葉、葉司の言葉に怒った恵理花は更に文句を言い返す。
「怖がってるの私の所為にしないでよ、格好悪い!」
恵理花に格好悪いと言われ、葉司は落ち込む。
(格好悪い……)
落ち込んだが……
(………………あぁもう!)
その所為で踏ん切りが付いたのか、葉司は龍蛇丸の方を向く。
「おい龍蛇丸、俺をお前ん中に入れろ!」
葉司の言葉と共に龍蛇丸が突然光り出し、その光りが辺りを包む。
その光りが消えると、恵理花達の前から葉司の姿は消えていた。
恵理花は肩を落として思う。
(……やっちゃった。葉司君、怒ってるだろうな)
孫の落胆している姿を見て、紫織は薫にこっそり聞く。
「お前さん、恵理花に何を吹き込んだんだい?」
すると薫は紫織に小声で言い返す。
「恵理花さんが応援した方が、葉司君が頑張れると思ったんですが……」
★★★★
(……ココは?)
葉司が瞼を開けると、そこは森の中。
正確には葉司の居る付近以外光りの差さない10メートル程の泉の中心。
泉の中心には4メートル程の緑の整地が在り、色取り取りの花と一緒に鉄製の剣が一振り、地面に突き刺さり光りに照らされていた。
「何だ、この剣?」
葉司が鉄製の剣に触れると同時に、森は光りに包まれる。
更に……
バッーシャン
泉の四方に、泉の中から刃の幅が1メートル程の、白銀色の大剣が浮上した。
葉司の周りを取り囲む様に軽く風が吹くと、目の前の白銀色の大剣が外の景色を映し出す。
「おい皆、聞こえるか?」
葉司がそう言うと、スセリが答える。
「聞こえています。その子は言葉でも核の制御でも動くのだけど、その姿だと制動と力の制御に問題が有るから、核制――」
「えぇっと、制動って何?」
スセリの説明の途中で葉司がそう聞くと、薫が葉司に言う。
「車は急に止まらない、みたいなモノです」
薫の言葉に葉司は納得し……
「分かり易い説明ありがとよ薫」
葉司が薫にお礼を言うと、薫は嬉しそうに返事を返す。
「どう致しまして」
(……よし)
そう思った葉司は、恵理花に向かって言う。
「恵理花。頑張って動かしてやるから、格好悪いとか言うなよ」
恵理花からは見えていないが、葉司は自信満々な顔をしてそう言うと、恵理花は少し恥かしそうに返事をする。
「……うん、分かった。頑張って」
「おう、任せとけ」
そう葉司が言っている最中、左と後ろの大剣が、外を映し出している大剣の左右に移動し、それぞれが北斗と太耀の姿を映し出す。
「ボクの姿見えてる、葉司君?」
北斗が大剣越しにそう言うと、葉司は少し嬉しそうに返事をする。
「ああ、ついでに声もバッチリ聞こえるぜ」
「何か少し嬉しそうだね」
「何でもねぇよ」
嬉しそうな事を北斗に指摘され、葉司は少しムッとすると、そんな葉司に太耀が大剣越しに言う。
「どぉせ恵理花に頑張れとか言われたんだろう」
「そんなんじゃねぇ!」
太耀にからかわれ怒る葉司を、北斗と太耀はクスクス笑った。