恵理花の家から徒歩15分程、薫の父親が始めるラーメン屋から5分程の河川敷の橋の下に、葉司達は居た。
道路や橋の上には疎らに人や車の往来が有り、河川敷内にはロープが張られ、『黒沢グループイベント使用地:四月四日日曜日(一日)』と言う立て看板が、斜面に打ち立てられている。
恵理花と葉司が布団を片付け終わったので、皆で臣器の練習に出掛ける事になったが、色々準備をしている間やる事が無いオモイカネが、青い服の子供の魔法使いのアニメを見、知的好奇心を刺激されてしまい、何だかんだで歌って踊る乙姫の番組を見終わってから、車で家を出て来る事に成った……
オモイカネもスセリも、「海神、何故こんな事に……」と言ったりしながら乙姫の番組を見ていた所為で、紫織どころか子供達からも二神は呆れられている。
「お帰りなさい紫織さん」
薫が自分の父親が経営する、ラーメン屋から戻って来た紫織にそう言うと、紫織は薫に御礼の言葉を返す。
「車、停めさせてもらって悪いね」
そう言いながら紫織は、薫にオモイカネの宿った手帳を返す。
臣器の練習は、スセリの結界内で姿を隠してやる事になっている為、近くに車を停めて置く事が出来ず、近くの薫の父親のラーメン屋の駐車場を借りたのだ。
紫織自身が、薫の両親に挨拶したいと言う考えもあったが……
薫の手帳を紫織が持っていたのは、オモイカネを念の為の連絡用にと、薫が貸し与えていた為。
「帰りに、家の方に寄らせてもらう事になったよ」
そう言う紫織に、薫は嬉しそうに言い返す。
「それはお祖父様も喜こびます」
紫織が薫との会話を終えた事を確認し、恵理花が不思議そうに紫織に尋ねる。
「お祖母ちゃん、いつ許可取ったのココ」
「男共が風呂入ってる時さ、ちょっと奥の手を使ってね」
少し自信有り気に紫織がそう言い終わると、今度はスセリが話し出す。
「それじゃ彼奴等の気気配は無いみたいだし、結界を張るわよ」
スセリがそう言って、河川敷の方に手を翳すと、河川敷に1キロ平方メートルの長方型型の白い半透明な、葉司達以外には見えない結界が現れる。
「この結界は、紫織と恵理花の家に張った結界を、貴方達にだけに見える様にしたモノ。霊視が出来る本物の霊能力者とかでなければ、中で何をやってるかは判らないでしょう」
そう説明をしたスセリに、葉司が不思議そうに聞く。
「そういやぁ俺達、何で霊能力者でもないのに、スセリ達見えてんだ?」
「多分、スセリがそう言うふうにしてくれているからでは?」
葉司の疑問に薫がそう答えるが、その答えを北斗は不思議に思い言う。
「ならアラハバキ達や、アラハバキに封印された神様は何で見えたんだろう?」
「そう言えば何故だ? いくら子供とは言え、この歳頃の子供が私達を認識出来るなど……」
そう言って、普通の大きさで姿を現したオモイカネも悩み出し、それを不味いと思ったスセリは少し強めに言う。
「それより早く結界の中に入りましょう。今なら此方に視線を向けている人は居無い。さぁ、ほら」
「……分かった」
納得出来ない顔をしながらオモイカネがそう言うと、葉司達は結界の中に移動し始める。
「…… うゎ!」
全員が結界の中に移動したのを確認し、スセリが突然大声で叫んだ。
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突然の大声に葉司達は驚き、スセリの方を向く。
「うん、外の人間には気付かれて無いわね」
笑顔でそう言ったスセリの言う通り、確かに約半径100メートルの範囲の人間や動物に、反応は見られない。
「ちょっとスセリ、寿命が縮んだら如何するんだい!」
紫織がスセリにそう文句を言うと、恵理花もそれに続けて言う。
「もう、驚かさないって言ったじゃない!」
恵理花に怒られ、スセリは恵理花に申し訳なさそうに手を合わせ謝る。
「ごめんなさい、今度こそ本当に注意するから……」
そこまで言ったスセリが、右手の掌を上にして差し出すと、掌の上に臣器の光りの玉が出現した。
「さて、もう一度改めて臣器の名を呼びなさい。龍蛇丸は生きている自然を、狼王丸は人工物や鉱物を、鳳皇丸は太耀の光を元に姿を現します。呼ぶ位置には気を付けて」
スセリがそう言うと光の玉は、葉司、北斗、太耀の胸元に移動する。
そしてそれは、青銅の黄金色の掌大の装飾品へと変わり、三人はそれぞれそれを掴む。
すると……
葉司の物が、剣に龍蛇が巻き付いている装飾品に……
北斗の物が、狼が鎚を抱いている装飾品に……
太耀の物が、鳥をあしらった鏡の装飾品に……
それぞれ変化した。
「ねぇ、何か前より格好良くなってない?」
北斗が手にした装飾品を見てスセリにそう言うと、スセリは微笑んで答える。
「気に入ってくれたのなら嬉しいわ。その装飾品は、鍛冶の神様の力を借りて作られているの、だから名前を付けるとそれに応じて形が変わるのです」
「ほぅ、なかなかの細工。スセリ、その鍛治の神とは如何なるモノだ?」
オモイカネから思っても見ない質問をされたスセリは、少し惚けた感じで言い返す。
「えぇっと、誰だったかしら? 昔の事で忘れてしまったわ……」
「神様も、物忘れなんてするんですね?」
薫が不思議そうにそう聞くと、スセリはクスクス笑った後言う。
「生きてる……と言うのも変だけど、歳の桁が違うもの」
「それにしても呼ぶのに条件があるなんて、何か変な顔のロボットアニメみたいだな」
太耀が昔見たアニメを思い出しそう言うと、その言葉に対しオモイカネが聞く。
「そのロボットとは、昨晩言っていたものか?」
「違うよ。確か録画したビデオが有った筈だから、今度見せてあげるよ」
北斗がオモイカネにそう提案すると、葉司が続けて言う。
「確か、顔面から変形すんだよなアレ」
葉司の言葉にオモイカネは混乱し、スセリの方を向いて聞く。
「貴女は理解出来るか、スセリ?」
しかしスセリは困った顔をして、首を横に振る。
「とにかく臣器を出現させましょう。大きい姿を願って頂戴、大きさは此方で調整します」
スセリがそう言うと、葉司、北斗、太耀は装飾品を掲げ叫ぶ。
「出て来い龍蛇丸!」
「来て、狼王丸!」
「現れろ、鳳皇丸!」
すると葉司達の前に全長10メートルぐらいの龍蛇丸、全長7、8メートルぐらいの狼王丸、全長5メートルぐらいの鳳皇丸が姿を顕した。
「うゎ、デカイとマジでロボットみたいだな!」
驚いてそう言う葉司を尻目に、太耀がスセリに聞く。
「スセリ、コイツ等どうして大きくしたんだ?」
「臣器達の大きさは貴方達の意思である程度変わります。大きさで用途も安全性も違うので、一番安全性の高いものから説明しようと思ったのです」
スセリが太耀にそう説明をすると、臣器達が突然鳴き出す。
「キュゥゥー」
「ガルルル」
「クゥワッー」
龍蛇丸、狼王丸、鳳皇丸が突然鳴いたので、スセリ以外が驚いた。
「コイツ等、声が出るのか!」
葉司がそう言うと、紫織も続ける。
「こりゃたまげた!」
「この子達は私達の存在に近いのよ、鳴く事ぐらい出来るわ」
スセリがそう言うと、北斗が狼王丸に話しかける。
「よろしくね、狼王丸」
北斗の言葉で狼王丸は身体を屈め、頭を垂れる。
「ワオーン」
そして急に遠吠えを上げながら狼王丸は姿勢を正し、顔を空に突き上げた。
すると北斗の足元から光りの柱が現れ、北斗を包み込むと同時に、北斗が光りの柱と共に消える。
「「北斗!」」
「「北斗君!」」
その場に居たスセリ以外の人や神は、今の出来事を見て驚き慌てふためいた。