薫の返事の後、中庭に光りの球体が3つ現れる。
そしてスセリは葉司、北斗、太耀に向かって言う。
「それでは、貴方達に臣器を預けます。臣器達も各々貴方達を気に入ってる様なので、名前を付けてあげて下さい。そうすれば貴方達の僕となるでしょう」
言われて北斗はスセリに尋ねる。
「臣器って狼と蛇と鳥の奴だよね。名前って言っても、姿とかはあの姿のままなの?」
北斗にそう聞かれ、スセリは説明が不足していた事に気が付き思う。
(肝心な事を言い忘れるなんて…… あの子の事で少し混乱しているのかしら……)
そして北斗に説明をする。
「その通りです。北斗は狼の、葉司は龍蛇の、太耀は大鳥の名前を付けて下さい。それと命名時、名前や命名者のその時の心……イメージで臣器は見た目が変わります」
そこまで言ったスセリは、更に続けて葉司達に言う。
「皆、名前は良く考えて。名前は臣器そのもの、変な名前を付けると力が弱まってしまうから」
「名前つってもな……」
葉司がそう言いながら頭を軽く捻っているので、スセリはオモイカネに向かってお願いをする。
「御免なさいオモイカネ。少し考え事をしたいのだけど、此処を任せても良いかしら?」
するとオモイカネは微笑んで言葉を返す。
「構わない。貴女も現状は私と変わらんのだから、心中は察しているつもりだ」
「有り難うオモイカネ。名前が決まったら呼んで、呼んでくれれば戻ってくるから……」
そう言いながらスセリは姿を消し、それを見ていた葉司は呟く。
「如何したんだスセリ?」
するとオモイカネが葉司に言う。
「葉司よ、この状況で女神を心配出来るとは豪気な事だな」
「何だよ!」
ムッとして少し赤く成り、葉司がそう言い返したのでオモイカネは思う。
(言い返せるなら元気な証拠か……)
「そう邪険にしないでくれ、私もスセリにああは言ったが不安なのだ。そうだ臣器の名前、良い案が無いなら私が一緒に考えてやっても良いぞ」
微笑んでおもいカネがそう言うと、葉司はムッとしたまま言い返す。
「何かムカ付く…… なぁ太耀、良い案ねぇか?」
そう話しを振られた太耀は言う。
「だったら前に見たアニメに出て来た、龍神丸とか龍王丸とかで良いんじゃないか? スセリが龍蛇て言ったんなら、龍には間違いないだろうし」
太耀の言葉に、オモイカネが慌てて葉司に御願いをする。
「すまない。我が天津神の長を助ける臣器の名前に、その名前を付けるのは止めてくれ。御願いだから」
「何だよ面倒臭いな……」
文句を言う葉司に、オモイカネは申し訳無さそうに続けて言う。
「本当にすまない、ただし名前に丸を付けるのは良い考えだと思う。丸は珠、霊や魂に通ずるモノ。自然の塊たる臣器の名には相応しいだろう」
「……そんじゃぁ龍蛇丸だな、名前思い付かねぇし。オモイカネ、文句は?」
するとオモイカネは少し渋い顔で答える。
「まぁスセリも居るし、龍蛇なら良いだろう……」
オモイカネのOKを受け、葉司は北斗の方を向いて北斗に聞く。
「北斗はどうする?」
「ボクは決めたよ」
北斗が葉司にそう返すと、太耀が言う。
「残りは僕だけか……」
そこまで言って太耀は、少し考えてからオモイカネに尋ねる。
「オモイカネ、何か良い案は有る?」
「そうだな…… 名前のまま大鳥、太平の象徴たる鳳凰、和合の象徴たる朱雀、太陽の使いたる八咫烏辺りか?」
オモイカネの言葉に葉司が言う。
「朱雀や鳳凰って確か、龍や麒麟の仲間なんだっけ?」
葉司の言葉に少し驚きながら、葉司と太耀に向かって紫織も言葉を続ける。
「変わった事知ってるね葉司。麒麟が気になって父親にでも気いたかい? それと太耀、鳳凰は鳳が雄で凰が雌。お前が前に見てたアニメみたいに炎の鳥じゃないからね」
紫織の説明に、太耀は少し考える。
そして言う。
「……僕も名前が決まった」
太耀がそう言い終わると、オモイカネが葉司、北斗、太耀に向かって確認をする。
「それではスセリを呼ぶぞ?」
「おう」
「うん」
「ああ」
三人が各々そう返事をしたので、オモイカネはこの場に居無いスセリに向かって聞く。
「……聞いているかスセリ? 余り時間は経っていないが、姿を現して欲しい」
するとその言葉に応じて葉司達の目の前に、再度スセリが突然姿を現した。
スセリはオモイカネに向けて言う。
「気にしないで」
更に葉司、北斗、太耀と、光の球体に向かって言葉を続ける。
「名前は決まった様だし、臣器に名前を付けましょう」
そして契約が始まる。
「名は体を表すもの、其れこそ契約の証し。今こそ獣の姿に成りて主を護らん。汝らの名は……」
スセリの言葉と共に、光りの球体は柱へと変わる。
「さぁ、臣器に新たなる名を!」
スセリの言葉が終わると、葉司、北斗、太耀は臣器の名前を叫ぶ。
「龍蛇丸」
「狼王丸」
「鳳皇丸」
その言葉に答える様に3本の光の柱は……
龍蛇丸は、白い装甲を持つ全長2メートル50センチ程の、碧色の手足の無い龍型のロボットに。
狼王丸は、オッドアイの黒い装甲を持つ、体長1メートル程の狼型のロボットに。
鳳皇丸は、虹色の光りの尾と白い翼を持つ、全高1メートル程、翼開長2メートル程の朱色の装甲を持つ鳥型ロボットに。

……そう、臣器はロボットの姿に変わった。
正確には、獣型のメカの様な姿に変わったのだ。
臣器の姿を見たオモイカネは驚き、スセリに尋ねる。
「……スセリよ。臣器達のこの姿はいったい!?」
しかしスセリからの返事は無い。
いや、絶句して固まってしまい、言葉が出無いのだ。
★★★★
葉司達が眠りに付いて暫くたった頃、紫織の居る部屋にタケミナカタが訪ねて来る。
神通力で引き戸を開けたその姿は、鱗の肌の少年ではなく、腕の無い健康的な美しい青年の姿。
「何だい、不用心だねぇ。オモイカネとか言う神様に鉢合わせしたら、如何する気だい?」
ぶっきらぼうにそう答えた紫織に、タケミナカタは笑顔で言い返す。
「安心しろ、それはククリ様が如何にかしてくれている。それより円からの伝言だ、『孫を頼む』だとさ」
それを聞いた紫織は苦笑いをして言う。
「相変わらず女心が分からない奴だよまったく…… オモイカネの事も彼奴の差し金かい?」
「ヤツはアラハバキの独断だ、眼鏡のガキの願いには丁度良いだろうとさ。……さて今度は商売の話しだ、メモする物は有るか?」
タケミナカタがそう言うと、紫織は少し考えて返事を返す。
「……ちょっと待っとくれ」
紫織は立ち上がると、近くの箪笥の中から、薫の持っていた円の手帳と同じ物、それと鉛筆を取り出した。
そしてタケミナカタの目の前に在るちゃぶ台に置き、手帳を開く。
「コレに書いとくれ」
そう言った紫織にタケミナカタは尋ねる。
「良いのか? 仕舞って有ったっと言う事は、大事な物なんだろう?」
「気にしないでおくれ」
迷い無くそう言い返した紫織に、タケミナカタは微笑んで言い返す。
「そうか……」
その返事の後、紫織は手帳に境群市の簡単な地図を描く。
タケミナカタは、紫織が持って来た鉛筆を神通力で動かし、地図のある場所に×印を付けた。
「此処を暫く掘れば、源泉にブチ当たるだろう」
そう言うタケミナカタに紫織は礼を言う。
「ありがとうよ」
「それではそろそろ、私は退散するか」
タケミナカタの言葉を、紫織は不思議に思い尋ねる。
「何だい、スセリには挨拶しに行かないのかい?」
紫織の言葉に、タケミナカタは少し困った顔をして言い返す。
「私は、あの方が苦手でね」
すると不意に……
「あら、そうだったの?」
タケミナカタの後からスセリの声がした。
驚いたタケミナカタが反射的に振り向くと、案の定そこにはスセリが立って居る。
「スセリ様!」
驚いてそう言ったタケミナカタに、スセリは少し怒った口調で言う。
しかも顔は笑顔で。
「さて、説明して貰いましょうか?」
「何の事です?」
タケミナカタは惚けた様子でそう言うが、スセリは強い口調で言い返す。
「貴方が後で説明すると言ったのですよ。最初の計画では貴方は関わらないと言った筈」
そう言い終わったスセリは少し間を置き、悲しそうな顔をしながら話しを続ける。
「……貴方の母親の差し金? それとも……――」
その様子を見たタケミナカタはスセリの言葉を遮り、真剣な顔でスセリに言う。
「――……この件については母上は関係有りません。最初からこう言う計画だったのです」
「如何言う事です?」
スセリヒメがそう聞くと、タケミナカタは続ける。
「貴女は私が計画に加わる事を知れば、今の様な顔を父上や御祖父様の前でしたでしょう。父上も御祖父様もその顔は見たくはなかったのです。それに何だかんだ言って貴方は、父上や御祖父様の計画を全うしてくれる。父上はそう言っておられましたよ」
「それは信頼してくれているのかしら……」
そう言い不安がるスセリに、タケミナカタは微笑んで言う。
「最も信頼していらっしゃるから、この計画に引き入れたのでしょう。如何でも良ければ母上や、宗像の水神達に頼んでいた筈ですし」
そう言われたスセリの顔は明るさを取り戻す。
「そう…… ですか」
スセリはそう返事を返した。
そして少し間を置いて、タケミナカタに聞く。
「……それはそうと貴方自身は、何故私の事が苦手なのかしら?」
そう言って少し微笑んだスセリに、タケミナカタは少し面倒臭そうな顔をして返事をする。
「それについては勘弁して下さい……」
「まぁ貴方に嫌われて無い事が判っただけでも、この計画に加わった甲斐があったわね」
スセリはそう言ってクスクス笑い、それを見てタケミナカタは苦笑いをした。
そんな二神に紫織は言う。
「二人共、私は明日に備えて寝るよ。戸締り頼めるかい?」
「私達は既に人では無いが」
手帳を手に取り、部屋を去ろうとした紫織にタケミナカタはそう文句を言った。
「アンタ等を見ていると、神様だって事を忘れちまうんだよ」
紫織はタケミナカタにそう言い返すと、スセリが紫織に尋ねる。
「そう言えば、朝の予定は如何するの?」
「そうさね。11時頃にでもしようか」