スセリは臣器を光の球体に戻すと、葉司達の目の前から消し、結界を貼ったので安全だと説明。
その話しを受け紫織は、雑木林に騒ぎを聞き付けた他の人間が来るかも知れないと、黒沢家に戻ってからきちんと話しを聞く事を提案。
それを承諾したスセリと一緒に、葉司達は黒沢家に戻っていた。
因みにスセリの移動手段は、恵理花の勾玉のペンダントに宿ってである。
葉司、太耀、北斗は泥だらけ。
家に上げる訳にも行かず、紫織は薫を含めた四人を中庭に待たせ、恵理花と共に葉司達のお風呂の用意を始めた。
「二人共、暗い顔するな、スセリが結界を張ったって言ってただろう?」
中庭でお風呂の用意が出来るのを待っていた太耀は、落ち込んでいる北斗と薫に気付き、そう話し掛け、スセリもそれに続ける。
「二人共、安心なさい。先程説明した通り、見えてはいませんが私の結界が張って在ります。アラハバキの手下には見付けられ無いでしょう」
すると薫が、申し訳無さそうにスセリに答える。
「違うんです…… えっと」
そう言った薫は、北斗達三人の顔を確認。
そのまま俯いたので、それを見ていたスセリは薫に聞く。
「もしかして私が邪魔なら、暫く別の所に行ってましょうか? 何か有れば呼んでくれれば良いから」
スセリの言葉に、薫は再度北斗達三人の顔を確認。
北斗は薫が自分達にだけ、何かを話したいのだと理解しスセリに言う。
「ごめんスセリ、少し何所か別の場所に行っててくれる」
「分かりました。元気を出してね」
心配そうにそう言って、スセリが姿を消す。
それを確認した薫は、北斗達に申し訳なさそうに話し出す。
「すみません。 ……皆さんから見て、紫織さんとはどう言った方でしょうか?」
思いも寄らない薫の言葉に、三人は面喰らう。
「何だよ行き成り?」
そして葉司が不思議そうに薫に聞き返した。
「実は紫織さん、私の祖父を御存知の様なのですが…… なぜか隠しておきたい様でして、落ち着いて来たら急に気になってしまいまして。恵理花さんの前で聞く訳にもいきませんし、皆さんに聞くのもどうかと悩んでいたんです」
そう言った薫に、太耀は真面目な顔をして答える。
「そう言う事なら、僕が後で父さんを通して恵理花の父親に聞いてやる。だから怖く無いなら、もう少し明るく振る舞ってくれ。恵理花が無駄に心配する」
すると薫は太耀の言う通りだと納得し、少し不思議そうに言葉を返す。
「……すみません、確かにその通りですね。それより太耀君は恵理花さんの御家族とは、どう言った御関係で?」
「あぁ、親同士が友達なんだ。恵理花の両親と僕の父さんは今、一緒に東京で会社を経営してる」
太耀がそう行い終わると、今度は葉司が笑顔で薫に教える。
「気にすんなって。紫織婆さんは怖いけど、良い人だからさ」
「怖がってるのは、葉司君だけだけどね」
北斗がそう続けると、薫は微笑んで三人に言う。
「やはり聞いてみるものですね、太耀君も葉司君もありがとう御座います。悪い事ばかりでもありませんね、北斗君を間に挟まずに二人と話す機会も出来ましたし」
「そう言えば、面と向かってちゃんと話したのって初めてだっけ?」
太耀がそう聞くと、薫は頷いて言葉を返す。
「……はい、多分」
★★★★
薫達の様子を、姿を隠して伺っていたスセリは、大きめの毛布を用意している紫織の居る部屋へ移動し、紫織に言う。
「御免なさい紫織、手伝え無くて…… それと話しが有るのだけど良いかしら?」
部屋に現れたスセリを、紫織は不思議に思い聞き返す。
「スセリ? 子供達の方は如何したんだい」
「貴方が円の名前を出すから、円の孫が悩んじゃってて。子供達が話しを聞いてくれたわ。私はお邪魔虫よ」
スセリが砕けた口調でそう言うと、紫織は困った顔をして言う。
「そう言う事かい、仕方ないねぇ。まぁ私の失敗だ、恥かしいけど、男共には二人との関係はバラすしかないか…… それより何でアンタは此処に来たんだい、姿を消してさ。念話とか言うやつで、教えてくれれば良かっただろうに?」
そう言って不思議がる紫織に、スセリは微笑んで言う。
「葉司君が言っていたわよ、貴方は怖いけど良い人だって」
「何だいそれは…… 邪魔だよ、ほら退いておくれ!」
紫織はスセリの言葉をぶっきらぼうに返した。
……いや、ぶっきらぼうに返したつもりでいた。
しかし自分の姿は、映す物がなければ確認は出来無い。
少し嬉しそうな紫織は、毛布を持って部屋を出、葉司達の居る中庭に向かって行く。
スセリはそんな紫織の後ろ姿を見送りながら思う。
(羨ましい限りね、良いお祖母ちゃんになって……)
そんな事を思われているとは思いも寄らない紫織は、中庭に着くと葉司達と会話をしている、薫に申し訳無さそうに謝る。
「さっきスセリに聞いたよ。薫、 無駄に悩ませちまって悪かった。お前達、これから話す事は恵理花には恥かしいから内緒にしておくれ。良いね……」
紫織が年甲斐もなく、少し恥かしそうにそう言ったので、北斗は紫織に聞き返す。
「ボク達も聞いて良いの?」
「学校とかで、こっそり話されるよりましさ」
そう言う紫織の後ろから、スセリが声と共に笑顔で現れる。
「面白そうな話しね紫織、私も聞きたいわ」
後ろからの突然の声に、紫織は驚いて振り返り、同じく現れたスセリに驚いた葉司達だが、薫はふと不思議に思いスセリに尋ねる。
「スセリ比売、どうして紫織さんの名前を?」
薫の言葉で自分の失敗に気が付いたスセリは、紫織の横に立って慌てて嘘を言う。
「さっき紫織から聞いたのよ、貴方達の名前も一緒にね」
その様子を呆れて見ていた紫織は、溜め息を吐いてから、葉司達の方を向いて話し出す。
少し恥ずかしそうに……
「薫の祖父の円は、私の昔の婚約者なのさ。最初会った時は苗字が違うから、気が付かなかったんだよ。勿論、薫 の祖母の葵とも知り合いだよ」
「ですが祖父母の葬儀には入らしてませんでしたよね?」
薫がそう聞き返すと、紫織は再度少し恥かしそうな顔をして言う。
「彼奴等に、泣き顔を見せたくなかったからね。それと墓の方には挨拶させて貰ったよ」
「そうだったんですか……、恥ずかしい思いをさせて申し訳有りません」
そう謝る薫に、紫織は微笑んで言葉を返す。
「謝る必要は無いさ。私が大人の対応じゃなかっただけだからね……」
そこまで言って紫織は、毛布を床に置きスセリに聞く。
「スセリ、悪いけど一緒に来てくれるかい?」
「何でかしら?」
スセリが不思議そうにそう言い返すと、紫織は葉司、太耀、北斗に向かって言う。
「私はその、小汚い服を入れる洗濯籠を持って来る。それまでに準備をしておきな」
それを聞いた葉司は驚き、紫織に言い返す。
「ちょっと待ってくれ、中庭で脱ぐのかよ!! 流石に中庭は……」
勿論、太耀と北斗も慌てふためいて居る。
「何一丁前な事言ってるんだい。塀が有るし、薄暗いから問題は無いだろ」
紫織はそう言い終わると、恵理花の居るお風呂場にスセリと共に去って行った。
★★★★
黒沢家のお風呂の用意が出来て二十数分後。
太耀は先に薫とお風呂に入り上がっていて、今お風呂場には葉司と北斗が二人きり。
何故こんな事に成ったかと言うと、黒沢家のお風呂場は、小学五年生が三人で泥を落とす広さが無く、北斗が葉司に話しが有るとこっそり耳打ちをした事が原因。
「ごめん葉司君、無理言っちゃって……」
浴槽の中、先に体を洗い終わっている北斗がそう言い、プラスチックのタライで浴槽の外からお湯を汲んでいる葉司は、その北斗の言葉に言い返す。
「それは別にいいけど、話しって何だよ?」
「それは、えぇっと……」
葉司に返された言葉に北斗は少し悩む。
バッシャーン
北斗が悩んでいる間に、葉司はタライのお湯で体の泡を流し、浴槽に入った。
「……葉司君。恵理花ちゃんの事好きだよね?」
そう切り出した北斗の言葉に、葉司の顔は赤い。
言い終わり……
北斗は自分が何で、こんな話しを葉司にしているのか不思議に思う。
普段の北斗なら絶対、こんな話しを葉司に対してしない。
葉司が困るし。自分も置かれている立場を理解したくないから……
でも北斗は言わなければいけない気がした。
もしかしたら北斗は、自分の立ち位置を確認したかったのかも知れない。
だから敢えて、北斗は『……葉司君。恵理花ちゃんの事好きだよね?』と、葉司に尋ねた。
顔の赤い葉司を見て、北斗は申し訳無さそうに言う。
「ゴメン、今のは忘れて」
「今度変な事言ったら、風呂に頭沈めてやるからな……」
そう言ってそっぽを向いた葉司の胸は高鳴っており、北斗はそんな葉司に謝る次いでに尋ねる。
「だからゴメンってば。そう言えば凄いね葉司君、ボクにはあんな勇気は無いよ」
葉司は北斗が何を言っているのか分からず、顔を振り戻し聞き返す。
「何の事だよ?」
「ほら。恵理花ちゃんを護る為に、アラハバキに立ち向かったじゃない?」
北斗の説明に、葉司は北斗が何の事を言っているか理解し、少し俯きかげんで恥ずかしそうに答える。
「アレは、そのぉ……よく考えてなかったんだよ。……てか、お前等も撲り掛かってたじゃねぇか」
言われた北斗は、昔感じていた想いを思い出す。
今でも多少有る、見ない振りをしていた葉司への強い劣等感と、憧れを混ぜた様な想い。
(それじゃ駄目なんだよ、多分……)
そんな想いを感じながら……
「そうなんだけどさ……」
北斗は、そう呟いた。
あの時、北斗は恵理花を助けたかった気持ちは有った……
それこそ葉司と同じぐらいには。
でも結局、葉司がアラハバキに捕まるまでは動けなかったのだ。
(それが葉司君とボクの違い)
今までなら受け入れられていたその感情を、北斗は今は受け入れられずに悩んでいる。
(やっぱりボクは……)