葉司、太耀、北斗、恵理花の四人は、日暮れ近くまで市中を探し回ったが、アラハバキを見付けられず、子供達の着替えを預かりに出て来た、紫織が運転するワゴン車に遭遇する。
ワゴン車には手伝いで薫も一緒に乗っており、車で一緒に帰る事になった。
のだが……
六人は、数キロ先の雑木林に落ちる、不思議な光りと流れ星を目撃。
ワゴン車でその場所へ向かう事を決める。
暫くして突然、不思議な光りと流れ星の落ちた場所を中心に、直径数キロ四方の端に白い大樹が現われ、六人の乗るワゴン車を閉じ込めるかの様に、その大樹同士を、四角の様に結ぶ、半透明な壁が生成され、葉司達は驚いた。
「皆、見て!」
恵理花の声で、紫織以外が助手席に居る恵理花の方を向く。
すると、恵理花のネックレスに付いている勾玉が輝いていた。
「二人共、ボク達のも!」
今度は北斗に促され、葉司と太耀が自分達の持っているアクセサリーのような物に目を向ける。
すると、それぞれの物も同じく輝いていた。
その直後、紫織が言う。
「お前達、着いたよ!」
それと同時に、ワゴン車が雑木林の目の前で止まる。
ガチャ
ウーン ガン
北斗は沈黙の中スライドドアを荒く開け、車を急いで降りて雑木林に走って行ったので、それを太耀と葉司が慌てて追う。
「待て、北斗!」
「おい、お前ら待ってくれ!」
「ちょっとアンタ等、お待ち!」
紫織は北斗達をそう怒鳴った後、車内に残った恵理花と薫に向かって尋ねる。
「恵理花達はどうするんだい?」
すると恵理花は少し考えてから……
「……私は行く!」
と返事を返し、直ぐ車を降りて葉司達を追って行く。
一方薫の方は……
「私は待ってます…… はい」
と返事を返したので、紫織は薫に言う。
「そうかい、じゃあアンタは待っといで」
そう言って車から出た紫織は、薫にわざと聞こえる様に独り事を呟く。
「まったく、円なら我先に飛び出して行くんだけどねぇ……」
自分の祖父の名前を言われ、薫は反射的に言葉を返す。
「そう言われましても怖いモノは…………!」
が、紫織が自分の祖父の名前を知ってる事に気が付き、慌てて紫織に聞く。
「待って下さい。やっぱり何か知って……――」
しかし紫織は薫を無視し、先にワゴン車を出て行った恵理花を追って行ってしまう。
(何か誘導されてる気がしますが……)
薫はそう感じながらも紫織を追いかける決意をし、ワゴン車を出て駆け出した。
一方、いち早く車を飛び出した北斗の目の前には、アラハバキとアマテラスの姿が在った。
倒れているアマテラスに、白銅の剣を突き付けているアラハバキは、木の陰に隠れて居る太北斗の方へ振り向くと言う。
「また会ったな小僧……」
北斗はアラハバキの言葉に驚く。
そんな北斗を見て、アラハバキは微笑んでいる。
(やばい、見付かった!)
そう思っている北斗に、アラハバキはクスクス笑いながら言う。
「ソレがお前の願いか、殊勝な事だな」
「何のこ……――」
反射的にそう言い返した北斗は、後ろから行き成り手を引っ張られ驚く。
「うわ!」
驚いて振り向くと、そこには怒って居る太耀が居た。
「何馬鹿やってんだお前は、逃げるぞ!」
そう言う太耀に、アラハバキは微笑んで言う。
「そっちの小僧は、寂しがりやの様だな」
すると太耀も、反射的にアラハバキの言葉に言い返す。
「そんな事は……」
「おい、二人共!」
やって来た葉司が北斗と太耀にそう言うと、今度は葉司に向かい、アラハバキは小馬鹿にした様で言う。
「今度の小僧は、悩み無さそうで馬鹿っぽいな」
その言葉に怒った葉司は、感じている不安を忘れる為、アラハバキに力強く言い返す。
「何だよ。変な格好をしている、お前に言われたくねぇ!」
「フフフ。威勢だけは良い様だが、心の底に不安が見えるぞ……」
アラハバキは微笑みながら葉司にそう言い返し、葉司の心を感じて考える。
(恐怖していないと言う事は、手筈通りに事が運んでいると言う事……)
アラハバキは作戦が上手く言ってる事を理解し、葉司達三人に向かって言う。
「そう言えば、まだ名乗ってなかったな。解放してくれてありがとう少年達、私の名は天津星神のアラハバキ。夢と業の女神」
「やっぱり……」
北斗がそう呟くと、アラハバキはクスクス笑い北斗に言葉を返す。
「宇宙人でなくて残念だったな。いや、宇宙神か……」
アラハバキは、葉司達に後ろから追い付いて来た紫織、恵理花、薫を目視し、アマテラスに視線を戻してアマテラスに言う。
「アマテラス、お前に面白いモノを見せてやろう…… 力を貸せ、夜天の水鏡!」
そう言って月に掲げたアラハバキの左の掌から、光りが空に放たれる。
その光りは、月を鏡に見たて反射した様な軌道を取り、日本各地に降り注いだ。
光りが殆どの神々《かみがみ》を封じた事に気付いたアマテラスは、驚いて強引に突き付けられている白銅の剣を躱し、アラハバキに掴み寄る。
そして大声で言う。
「何を考えているの。そんな事をしてしまっては、この国は!」
しかし八咫の翼を失ったアマテラスの声は、人々には聞こえ無い。
「さぁ、そろそろ舞台から降りて貰うぞアマテラス」
そう言ってアラハバキは白銅の剣を捨て、アマテラスを羽交い絞めにすると、問い掛ける様に力強く、世界に呼び掛ける。
「聴けぇ、八百万の神々《かみがみ》よ! 我が名はアラハバキ、我が配下と成れば汝等の願い叶えてやろう。さぁ我が声に答え、我が元へ集えぇ!」
すると、何処からともなく三つの光りがアマテラスの前に飛来し、そして光りは次第に形を変えて行く。
一つは白い腕を胸の前で組んだ、黒刺青と白い鱗の肌が印象的な、白い半ズボンに碧色の腰巻き姿の、葉司より少し小柄な少年に。
一つは赤鬼の面を付け、赤い狩衣姿の青年に。
一つは白い翼を持つ、黒い顔をした鼻高天狗に。

鬼の面の青年はアマテラスに向かって言う。
「御初に御目に掛かる、そしてさようなら……」
何所からか出現した小槌を握り締め、鬼の面の青年はその拳をアマテラスに突き付けると、呪文を唱え始める。
「テーラ、メタル、アグア、アルボール、イグニス!」
そして呪文を言いながら、腕を左、上、右、下に動かした後で小槌を真上に放り投げた。
鬼の面の青年は叫ぶ。
「トニトゥルース!」
空を舞う小槌は金色に輝き出し、落下してくる小槌を掴んだ鬼の面の青年は、小槌でアマテラスの胸を叩きながら更に叫ぶ。
「ウィータ!」
するとアマテラスは、強烈な光りと共に46cm程の青銅製の金色の鏡に変わった。
アラハバキはその青銅鏡を左手に持つと、剣太達の方を向いて言う。
「待たせたな人間達。今の人間には青銅鏡など珍しいのてあろうな」
クスクス笑いながらアラハバキがそう言う間に、鬼の面の青年達も葉司達の方を向いた。
「さて、次は私を封じたその呪物達。まずはスセリの勾玉を、そこの小娘共々消し去ってくれる!」
そう言いながらアラハバキが恵理花にゆっくり近付いて来たので、葉司は近くの木の枝を持って立ちふさがり言う。
「てめぇ、恵理花に近付くんじゃあねぇ!」
「ほぉう。不安より情が勝るとは、さっきの馬鹿発言は取り消してやろう。だが……」
アラハバキはそう言って右手を葉司に翳す。
そしてその手を上げていくと同時に葉司が浮き上がって行った。
「放せ、この野郎!」
そう言いながら暴れる葉司だが、如何にも成ら無い。
「力が足らんな……」
そう言うアラハバキを、太耀と北斗が同時に木の枝で撲ろうとするが……
「「てゃー!」」
「無駄!」
アラハバキの発した衝撃波の様なもので、葉司共々別の三方向に吹き飛ばされる。
三人はその衝撃で叫ぶ。
「「うわぁぁぁぁ!」」
吹き飛ばした三人が、再度襲って来無い事を確認した上で、アラハバキは薫 に視線を向け尋ねる。
「お前は如何する、小僧?」
そう言われた薫だが、不安の所為で身体が動かない。
「フン。お前の祖父は、もう少し勇気が有ったが……」
アラハバキにそう言われ、薫は悩む。
(どっ、どう言う事でしょう? でも僕はどうすれば……)
悩んでいる薫を尻目に、アラハバキは再度恵理花に近付いて行く。
「近寄るんじゃないよ、この悪魔!」
そう言った紫織に、恵理花は縋り付いていた。
「残念。私は蛇ではあるが、一応日本の神なのでな」
そう言い終わったアラハバキは、恵理花の目の前で立ち止まると、ゆっくりとを恵理花の首に右手を伸ばす……
その様子を見ている紫織は動け無い……
いいや、動か無い。
(誰か助けて!)
恵理花は恐怖を感じ、瞼を閉じてそう強く願った瞬間……
ネックレスの勾玉が強く光り出し、その光りが増して辺りを包み込んだ。
光りが消えると、アラハバキは右手で目を隠し、恵理花からかなり距離を取っていた。
「ちっ、目が……」
アラハバキがそう言い終わると、見知らぬ声が恵理花達の耳に聞こえて来る。
「間に合った様ね」
そして恵理花と紫織の前に、白く輝く女性が突如姿を現した。
「その声はスセリか……、何故貴様が此処に?」
右手で目を隠しながらアラハバキがそう言うと、スセリはかなり不機嫌そうな声色で言い返す。
「それは此方の台詞です。何故あの子がココに?」
そう言ったスセリの視線は、鱗の肌の少年に向いている。
アラハバキはそんなスセリに、右手で目を隠しながら笑顔で言い返す。
「姿は見えんが、お前が誰の事を言ってるのかは分かる。それなら……本人に聞くが良い」
言葉が終わると同時に、鱗の肌の少年がスセリに飛び蹴りを行う。
ガツン
だが、スセリと鱗の肌の少年の間に白い光りの壁が現われ、攻撃を阻んだ。
壁を蹴っている鱗の肌の少年に、スセリは念話で聞く。
少年に向けている顔は笑顔。
(「これは如何言う事かしら、タケミナカタ?」)
(「説明は後程致します、今は計画に集中して下さい」)
スセリと鱗の肌の少年が念話でそう会話をしていると、鬼の面の青年がスセリに向かって言う。
「そこまでだスセリ比売」
鬼の面の青年の声に、スセリは辺りを見回す。
すると鬼の面の青年が北斗を、天狗が太耀を人質に取っていた。
そして鱗の肌の少年は目の前の壁を蹴り、葉司の真横に飛び退く。
「これなら貴様でも、手も足も出まい」
天狗がスセリにそう言うと、スセリは目の前の壁を消し、微笑みながら言い返す。
「確かに……――、私はね」
言い終わったスセリは、呪文を唱え始める。
「オーリゴー、アニムス、アエテルヌス、プラエタリタ、レディーレ!」
すると葉司、太耀、北斗の所持していたアクセサリーの様な物が、三人の前に突然現われ、光る獣へと姿を変じた。
葉司の物は、手足の無い白い龍に。
太耀の物は、大きな金色の鳥に。
北斗の物は、大きな黒い狼に。
そしてその三匹はそれぞれ、近くに居る敵に向かって攻撃を仕掛ける。
攻撃は躱されたものの、葉司、太耀、北斗の近くに居た敵は、アラハバキの元に飛び退く。
「アラハバキ様、何ですこの光る獣は?」
鱗の肌の少年の言葉を受け、アラハバキは少し間を置いて言う。
「――……成る程、先程の呪文で臣器を蘇らせたのか?」
するとスセリはアラハバキに向かい、真剣な顔で告げる。
「さぁ、もう一度封印してあげましょう」
「そうしてやりたいのはやまやまだが、この場は退かせて貰うぞ」
アラハバキがそう言い返したので、スセリは自信満々に再度告げる。
「それを許すと思いますか?」
スセリのこの言葉で、臣器達が一斉にアラハバキ達に襲い掛かった。
が……
攻撃が届くよりも先にアラハバキ達は、突如吹き荒んだ、木々の葉を多量に含む突風と共に姿を消す。
アラハバキの姿はその場に無いが、彼女の声だけは聞こえて来る。
「また会おうスセリ、そして子供達よ。フフフ、フフフフ」
その台詞を聞きながらスセリは思う。
(これで大体の茶番は終わった。後は……)
スセリは葉司、北斗、太耀が大怪我をしていないか確認する為、三人に視線を向ける。
臣器達がそれぞれに寄り添う様に待機しており、葉司、北斗、太耀がそれぞれ立ち上がったので、スセリは一旦紫織に目を向けた。
また視線を葉司達に戻すと、申し訳なさそうに、その場に居る全員に向けてお願いを始める。
「私の名はスセリ。常世の主、オオクニヌシになり代わり御願い申し上げる…… 御願い子供達よ、アラハバキの再度の封印を手伝って下さい」