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9 保健体育の授業を始めます


「具体的な話に入る前に王妃様に申し上げます。今から個人的な体調の話を伺うことがあります。女性同士でお話ししますか?それとも陛下もご一緒に?」


「そうねぇ……恥ずかしいけれど陛下には聞いてもらいたいわ」

エイダ様が困ったように国王を見つめた。

「私は一緒に話を聞きたい」

国王がまっすぐに私を見つめる。


「わかりました。まず初めに体の仕組みについてお話しします。まだ、王妃様へ何か伺うことはありません」

「それなら、ニキアスも聞いていけ。お前にもいつか必要になる知識だ」


え?ニキアスもですか?

今から保健体育の時間になるのだけど……思春期真っ只中の少年には過激すぎないかしら?


思わず横にいるニキアスを見ると、ニキアスも困ったような複雑な表情を浮かべていた。


まぁなるようになれだね。ニキアス、覚悟してね。


私は鞄から一冊の厚い本を取り出した。念の為にと用意をしてきた医学書だ。

私は生殖器の図解のページを広げ、真ん中のテーブルの上に広げた。


国王とニキアスは目を見開き、王妃も唖然とした顔でテーブルの上を凝視する中、冷や汗をかきながら保健体育の授業を始めた。




保健体育の授業を終え、テーブルを取り囲んでいる三人を見回すと言葉を失ったまま固まっている。

「体の仕組みや妊娠に至るまでの経緯はお分かりいただけましたか?」

「「「…………」」」


そうなのよね、この世界では性知識が偏っているのよね。

きっと保健体育的な性の話もこの三人には凄まじい衝撃よね。

決して下品な話ではなく教養なんです!!ってことを強調したくて、医学書を持ってきたのだけれど、やっぱり不敬になるのかしら。


咳払いと共に「わ、分かった……」と国王が答えてくれて少しほっとした。


「次は具体的なお話をしたいのですが……このままお話を進めましょうか?」

エイダ様が少し考えるそぶりをした後、ニキアスを見た。

「ニキアス様、申し訳ないけれど席を外してくださる?陛下にはこのまま一緒に聞いていて欲しいの」


チラッと横を見ると、ニキアスは顔を真っ赤にしたまま固まっていた。

十七歳の思春期ボーイには刺激が強すぎたかしら。

王妃の言葉に頷いたニキアスが「待っているね」とレーネに声をかけると部屋を出ていった。なんとなく、いつもよりヨロヨロしている気がする。



「レーネ様、私の専属医を呼んでもいいでしょうか?レーネ様の話を聞かせたいのです」

「はい!そうしていただけると助かります」

もし私が間違ったこと言っても、訂正してもらえるものね。


指示を受けた侍女が専属医を呼びに行き、待っている間に取り替えてもらった新しいお茶で喉を潤す。


うん、やっぱり王宮のお茶は特級品ね。

不敬で罰が下っても思い残しがないように、滅多に味わえない高級茶を楽しんでおこうと腹を括った。


「……どうして、レーネ嬢はここまで詳しいんだ?」


はい、その質問は出ると思って覚悟していました。


「領地で私が行っている施策の中に、女性や子供達の生活向上の取り組みがあるのです。社会的弱者の女性や子供に必要なのは教育です。その中に、性知識の教育も取り込んでいるのです」

「性知識の教育?」

「はい、知識がないばかりに望まぬ妊娠をしたり自分の性を軽く扱う姿を知って、必要性を感じました」

「……それをレーネ嬢が教えているのか」

「いえ、発案者は私ですが、教育に関しては領地の医師にやってもらっています」

「そうか……。その教育で変わることはあったのか?」

「十年ほど前から取り組んでいますが、領内で捨てられる赤ん坊の数が年々減ってきています。それに性病患者の数も減りました」

「そ……そうか。ん?十年前?レーネ嬢はニキアスと同じ十七歳だろう?七歳からその施策に関わっていたのか?」

国王が驚いた声を上げた。

「……はい、まぁ色々思うことがありまして」


本当の理由は誤魔化しておく。

まさか、国王の甥(ニキアス)と婚約解消した後に逃げ込める場所を作っていましたなんて言えないものね。


何やら考え込んだ国王と王妃の姿を見て、また心臓がバクバクと緊張し始めてきた。

ここまでの話は、領地でも子供達に教えている内容だから問題はない。

妊活の話はこれからが本番だ。


呼び出された王妃専属医が部屋へと入ってきた。真っ黒なローブにひっつめた髪をした真面目そうな女性だった。

「専属医のモリーです。よろしく」

無愛想に挨拶をすると空いてる席へと座った。

「レーネ・アバーテです。お時間を頂きましてありがとうございます」

「モリー、今からレーネ様から子宝の授かり方を聞くの。一緒に聞いてくれない?」

「はい、承知しました」

若干……いやかなり、モリー様から向けられる視線が厳しいのを肌で感じる。


(そりゃそうよ。専門的に学んでいない小娘が何を言うのかって腹立たしくなる気持ちは理解できる)


「それでは、今から王妃様に具体的なことをお伺いします」

「エイダと呼んでちょうだい」

「承知いたしました。それでは、早速ですが……エイダ様は月の障りは定期的にきますか?」

「ええ、ええ」

ちらりと国王を見ながら頬を赤らめたエイダ様が答えた。


うう……美しい女性が照れる様子は眼福ものだけれど、ごめんなさい。照れるには序の口のお話です。

心の中でエイダ様に謝って次の質問に行く。


「陛下の御渡りの日は決まっていますか?」

「え?」

エイダ様が固まっている。

「あ!あの……仰らなくても大丈夫です。今からの説明をお聞き頂く際に、御渡りのことも考えて欲しいのです」

真っ赤になったエイダ様がこくこくと頷く。


「国王様には妊娠しやすいタイミングに合わせて御渡りをして頂きたいのです」

ぽかんとしている三名の前で、またも保健体育の授業を始めた。



「……そうなのね。女性には妊娠しやすい時期としにくい時期があるのね」

「その時期を見極めるために、毎朝起き上がる前、できれば同じ時刻に口の中で体温を計ってください。体温である程度エイダ様の体の調子がわかります。その結果から妊娠しやすい時期を検討することができます」

「分かったわ」

「実は……お二人のお耳に入った伯爵家の侍女の件ですが、今お話しした方法を試して無事妊娠することができたのです。ただし時間もかかりますし、確実な話ではありません」

「ええ、理解できるわ。レーネ、色々と教えてくれてありがとう」


「モリー様……専門外の私が出過ぎた真似をして申し訳ありません」

ずっと黙って話を聞いていたモリーに声をかけた。

真剣な目でずっとレーネを見ていたので怒っているのかなと心配をしていたら、キラキラ輝く目で「是非もっと詳しく話を聞きたい!」と両手を握られた。

「え?……もっとですか?」

「妊娠についての不勉強さを今恥ずかしく思っている。是非レーネ嬢に師事させてもらいたい」

「ええ??私、お医者様ではないですよ」

「すでに、専門的なことを理解しているのなら素晴らしいじゃないか」

「ふふふ、モリー、怖がらせては駄目よ。でも、レーネ様さえよければモリーに教えてあげてくれないかしら」

「そうだな、私からも頼むよ。教えてもらったことを進めるにしても、また途中で様子を見てもらいたいし、モリーも相談先が必要だろう。それに、エイダの話し相手にもなってほしい。この話を誰にも相談できないのはエイダも苦しいだろうから」

「は、はい!!私でよければ喜んで!」

国王夫妻から言われたら、断る術はないよね……。それに、美しいエイダ様とのお話も魅力的だし。

「よかったわ。モリーも良かったわね。今度は三人でお茶しましょう」


嬉しそうに笑ったエイダ様の微笑みは、花が綻んだかのように麗しかった。



お読み頂きありがとうございます。


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