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6 このままでいいのかな


王立学校の入学式の日からニキアスは目立っていた。

王位継承権保持者で頭脳明晰、そして容姿端麗。女生徒から圧倒的な人気を得るのに、時間はかからなかった。


「レーネ、おはよう」

制服姿に身を包んだニキアスは、彼の美貌に見慣れてきたレーネでもキラキラと輝いて見える。


「毎日校門で待っていなくてもいいのに」

「いや、婚約者を出迎えるのは当然だろう。レーネが許してくれるなら、毎朝迎えに行きたいくらいだよ」

柔らかく微笑みながら私に話しかけるニキアスの笑顔に、周りの女生徒から黄色い声があがる。


アイドルなのか?ま、確かに王子様顔だものね。あ……王位継承権があるから王子か。

それにしても、ニキアスもよくそんな歯が浮くようなセリフが出るわね。

あの無愛想な美少年から一転、婚約者になった途端に甘い言葉をレーネに囁くようになった。

婚約者の振りまで完璧すぎるわ。


「レーネがいないと教室へ辿り着ける気がしないんだ」

(確かにすごい人気っぷりよね。私の役割は学生期間中の女避けではあるけれど……)

「……ニキアスのファンに闇討ちされそうだわ」



学力で分けられるクラス分けで、二人は同じクラス。だから、学内で一緒に行動することも自然と多くなる。 

「レーネ、テストの結果が貼られているそうよ。後で見に行きましょう」

カフェテリアで昼食後のお茶を楽しんでいると、リアンが思い出したように教えてくれた。リアンとは公爵家のお茶会以降ずっと仲良くしている。


「あら、もう張り出されたのね。今回はニキアスに勝てたかしら」

「今回も俺が負けるわけがない」

「この前は一点差だったじゃない。その前は同点だったわ」

ニキアスの聡明さは群を抜いていた。必死に私が勉強している横で、ニキアスは時間もかけずにすぐに内容を理解してしまう。いわゆる天才だ。

天は二物を与えずとは言うけれど、非凡なニキアスは天賦の才能だらけだ。


リアンとセルジオが呆れたように言い合う私達を眺めていた。

「二人がすごく仲が良いのはわかっているけど、テストの点もいつも仲良いわよね」

「ニキアスは剣術もできるんだよな。追い越されないように必死だよ。できないことをむしろ教えてほしいね」

騎士科のセルジオの言葉に、リアンが優しく「セルジオが頑張っているのは私が一番知っているわ」と微笑む。


「そうよ、セルジオがこの前の学内トーナメントで上級生を抑えて1位だったって聞いたわ。おめでとう!」

騎士団長の息子という重圧があるだろうに、才能だけに頼らず努力を惜しまない姿勢が素晴らしい。

「リアンは試合を見に行ったの?」

「ええ、家族と婚約者は見に行けるのよ。とても強くて格好よかったわ」

二人は例の公爵家のお茶会の後に婚約を結んだ。二人の関係は良好でお互いを想い合っている姿は憧れのカップル像だ。

リアンの言葉に照れたような笑顔を見せる凛々しいセルジオと、天使のような微笑みを浮かべるリアンにうっとりと見惚れていた私の額にニキアスがデコピンをしてきた。


「痛い!」

「お前見過ぎ!」

「だって、二人のラブラブ感って本当に眼福だもの」

その言葉にリアンがふんわりと微笑む。……可愛い。

「そんなこと言うなら、あなた達二人がそうよ。むしろ、学内で憧れのカップルになっているって知らないの?」

「憧れ?そんな訳ないでしょう。ああ、でもニキアスは確かに顔が整っているからファンが多いわよね」

「……才色兼備なレーネに憧れている人も多いのよ」


(あらま、こんな悪役令嬢顔に?なんだかありがたい)


「レーネは俺のだから、絶対に誰にも渡さない」

やりとりを聞いていたニキアスが、レーネの頭に唇を落とす。


周りの女生徒からの黄色い悲鳴が聞こえるけど、皆さん、これは「振り」ですからね。

ニキアスは「振り」のレベルまで高すぎて末恐ろしい。

婚約当初は「仲の良い婚約者の振り」に翻弄されていたけれど、慣れって恐ろしい。振りって思えば、ニキアスの甘い言動にドキッとする位で平然と受け止められるようになった。



四人で廊下に張り出された順位表を見に行く。

「タイミングが悪かったわね。すごい人だわ」

遠目からも大勢の生徒が集まっているのが見てとれる。


セルジオがお姫様を守る騎士のように、リアンを連れて人混みへと向かった。

流れるようなセルジオのエスコートの見事さにニマニマと見惚れていると、「おい!」とまたもニキアスに現実に呼び戻される。

「俺たちも見に行くぞ」

ニキアスがレーネの手を包み込むように握ると順位表へと足を進めた。ニキアスの手の大きさや温かさにすっかり馴染んでしまった私は、返答代わりにぎゅっと握り返した。


「「あ」」

一位には二人の名前が載っている。

「うふふ、今回は同点だったね」

「ああ、次こそ、だな」


顔を見合わせて笑い合っていると「邪魔よ!」とのお馴染みの声と共にどんと背中を強く押され、よろめいてしまう。ニキアスと手を繋いでいなければ床に転がってしまっていただろう。

受け止めてくれたニキアスの胸に飛び込む形になってしまった私を憎々しげに睨みつけているのは、侯爵令嬢のソフィー様だった。


「ニキアス様から離れなさいよ」

って、いやあなたが押したからです……なんて正論が通じる相手ではなく、とりあえず「ご機嫌よう」と挨拶を返す。

まずはニキアスの腕の中から出たいのに、抱き止められたまま動けない。軽くニキアスの胸を叩いて主張しても無視されている。


「ニキアス様!一位おめでとうございます!!」


えっと、ソフィー様、順位表ちゃんと見ましたか?同点一位で私の名前もありましたよ〜。

顔に感情を出さないものの、心の中で盛大にツッコミ大会を始めてこの場を楽しむことにした。

さっきまで般若のような顔で私を睨みつけていたソフィー様の顔は、すっかり恋するキラキラの乙女になっている。

すごい百面相だなぁ。

小柄でウェーブがかったふわふわで柔らかそうな髪に長い睫毛、丸い瞳。レーネが絶対に気恥ずかしくてできない、上目遣いに甘えた声。百面相さえ上手く隠せば本当に可愛らしい少女なのに……と勿体無く思ってしまう。


「一位はレーネもだ」

必死に話しかけているソフィー様に対して、相変わらずの塩対応のニキアス。


(おっと、私のことは触れなくていいよ、私はここで幽霊みたいに気配消しているのでお構いなく。……腕の中だけど)


その思いは伝わらず、ニキアスはレーネの腰に手を回すとさらにぎゅっと引き寄せた。


ソフィー様の笑顔が歪む。


だめだよ、ソフィー様、好きな人の前でそんな顔見せたら、と念じてみるけれど、やはり思いは伝わらない。


「それでは失礼する」と低く冷たい声を出したニキアスがレーネの腰に手を回したまま人混みを抜け出した。


幼い頃からニキアスが好きなソフィー様は、婚約者がいようともニキアスへの好意を隠そうとしない。ニキアスに冷たい態度をとられても怯むことなく積極的に話しかけに行く姿は、敵ながら天晴れだと思う。


人混みを抜けて、教室へ戻る途中にニキアスに尋ねてみた。

「ねぇ、なんでニキアスはソフィー様にそんなに冷たいの?」

「は?」

低い声が横から聞こえる。

うっ……視線も怖い。

「え、だって、ソフィー様は小さな頃からニキアスのことが大好きなんだよ。お顔立ちも可愛らしいし、家柄だって申し分ないし。性格をどうこう言うほどソフィー様を知らないでしょう?」

学校に入学したら、ヒロインポジションの子が出てくるかと思いきや、それらしい少女はまだいない。

ニキアスの真実の愛の相手はいつ出てくるのだろう。見た目ヒロインのソフィーだって可能性はあるわけで……。


「……」

「ニキアス?」

黙ってしまったニキアスの顔を下から覗き込む。

平均より背が高いレーネが低く感じるほど、ニキアスはぐんぐんと背が伸びて周りの男子生徒よりも頭一つ抜け、さらにその存在感が際立っている。


うわっ。すごく機嫌悪い顔をしている……。そんな怒らせる話だった?

小さい頃に私が知らないだけで二人の間で何かあったとか?


ニキアスは深いため息を吐くと「なに?レーネは俺とソフィー嬢をくっつけたいわけ?」と聞いてきた。


「そう言うわけじゃないけど……婚約するときに決めたこと覚えてる?来年には私たち卒業するんだよ。このままでニキアスはいいのかなって……」


どちらかに好きな人ができたら婚約解消、もし結婚するタイミングになっても現れなければ結婚という約束だった。

このままいくとニキアスは私と結婚することになってしまう。


「俺はこのままでいいよ。レーネと結婚する」

「え?簡単に決めちゃ駄目だよ。人生を左右する重要な選択だよ。ちゃんと考えた方がいいよ」

おばちゃん目線でつい説教じみてしまう。

「考えてるよ。何?レーネは好きな人ができたの?」

「ううん、そんな人はいないけれど」

「レーネは俺のことはどう思ってるの?」

「親友だよ」

「……なら、俺でいいじゃん」


……いいのかな?

女避けの為にも一緒にいる必要があるのだけれど、ニキアスと過ごすのは思った以上に楽しかった。

相性が良かったのか、いつの間にか気の置けない存在になっていた。

物事の考え方や価値観だって似ていて、友達を超えて今では親友だって思ってる。

だからこそ、親友の幸せを願うのはおかしいのかしら。


お読み頂きありがとうございます。


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