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15 役割がばれちゃった


不在になるからと、急いでアンや他の従業員に仕事の引き継ぎをする。皆、急な話に驚いていたけれど、王都に戻ることを聞いて安堵したようだった。


「お嬢様が来てくださって本当に楽しかったんですよ。でも、やはりそれぞれの居場所があります。お嬢様はここではなく、もっと活躍できる場で輝いて欲しいのですよ」

「今度お見えになる時は、このカレーが食堂の人気メニューになってますからね、楽しみにしていてくださいね」

皆の言葉が胸を打つ。


伯爵邸に戻ると夕食の席に当たり前のようにニキアスも着いて、お母様やアレックスとにこやかに話をしていた。


婚約解消をした時アレックスもお母様も複雑な顔をしていたけれど、今は笑顔だ。

アレックスはニキアスと想像以上に打ち解けているし……。

皆、大人の対応ができてすごいな。



夕食後、アレックスとニキアスの三人で、談話室へ場を移してお茶を頂くことにした。


「ね、アレックスの婚約者の方と王都に戻ったら私も会えるかしら」

アレックスの婚約が決まった時は、私はこれで堂々と領地で自分の事業に専念できると喜んだものだった。

「ええ、ジゼルも姉様に会いたがってますよ。ぜひ会ってくださいね」

「ジゼル様はアレックスと同い年だったわよね」

「はい、来年から一緒に王立学園に通いますよ」

「まぁ、それは楽しみね」


子爵令嬢のジゼル様はとても可愛らしい方だと聞く。二人の並ぶ姿見てみたいなぁ。


「ジゼル様は、私が結婚せずに領地にいても嫌がらないかしら」

小姑が嫁にも行かず実家に居座っていると、お嫁さんもきついよね。

「アレックスが結婚するまでに住む家を探さないとね」

そうだ!一人暮らししよう。屋敷と食堂の中間辺りに家があると便利よね。


「この屋敷で僕達と一緒に住めばいいのに」

「若い二人の邪魔はしないでおくわ。その代わりに遊びに来るわね」


ふと気づくとニキアスが頭を抱えていた。

「ニキアス、大丈夫?疲れちゃったのかしら」

横でアレックスが笑いを堪えるかのように震えている。


「……いや、大丈夫だ」

「本当?辛くなったらいつでも言ってね」

「……ああ」

大丈夫かな?顔色悪いけど。


「レーネは……領地でどんな事業をやっているんだ?」

「えーとね」

どこまで話そうか……ちらりとアレックスを見ると、にっこりと微笑みながら頷いた。

全部話しちゃっていいってことかしらね。


「民間シェルターをまず最初に始めたの。それから、そのシェルターに来た女性や子供の働き口を確保するために食堂や他のお店を作ったのよ。今は出版業に力を入れているの」

とりあえず細かいところは省いて、要約して伝える。


「幾つの時から始めたんだ?」

唖然とした表情でニキアスが尋ねてきた。


「えっと七歳かな……」

「七歳……って俺と会った頃?」

「そうね、詳しく言うとそのお茶会の帰りの馬車で、領地運営を教えてほしいってお父様とお母様にお願いしたのよ」

「領地運営に興味を持つようなことが何かあったの?」

「あーうん……あったかな……」

しまった……墓穴掘ってるかも。

「僕もそういえば聞いたことがないな、何がきっかけなんですか?」

アレックスまでも聞いてくる。どうしよう。言いにくいな。


二人からの無言の圧力に耐えられなくなって、渋々口を開く。


「お茶会で悪役令嬢顔ねって言われたの。悪役令嬢って小説の中では婚約破棄されるのがお約束じゃない?だから…‥将来に何が起こっても良い様に……始めたの」

声がだんだん尻窄みになる。

途中から冷や汗が出てきた。ニキアスの方を見られない。

(しまった!婚約を解消したニキアスの前では言ってはいけない話だったのに)


「それを言ったのは誰?」

「……」

「ミラー侯爵令嬢か?」

な、なんでわかった?


冷気がニキアスから発せられているようだ。怒らせてしまった。

「ご、ごめんなさい。別にソフィー様のこと悪く言ってるつもりはないの。もちろん、婚約解消もよ。おかげで私は事業を始められたのだし、この顔もお父様似で嫌いじゃないし……」

「……だから……婚約解消がある前提で俺ともずっと過ごしてたのか?」


呻くような低い声に体が強張って、ニキアスの方を向けない。


「で、でも、ニキアスはソフィー様が好きだから私と婚約解消したのでしょう?それに私は女避けとして申し入れを貰ったわ」


ああ……こんなこと言いたくなかったのに。自分の言葉に胸が抉られる。

「俺は……」

言葉に詰まったように、ぐっと喉を鳴らす音がニキアスから聞こえる。


アレックス助けて……と目で助けを求めると、頼りになる弟が優しく微笑んでくれる。

「姉様もニキアス様もお疲れなんでしょう。姉様、明日の出発に備えて用意もあるでしょう。疲れたでしょうし早く休んでくださいね」


「そ、そうね。用意もしなきゃ。では、おやすみなさい」と早口で伝えると逃げるように談話室を後にした。


最後までニキアスの方を見られなかった。


なんでさっきはあんな喧嘩腰な言葉を口にしてしまったんだろう。

納得した婚約解消だったのに。

久しぶりに会ったニキアスと楽しくお話をしたかっただけなのに。




翌朝お母様に仕事の引き継ぎをしてから、王都へ向かう馬車に乗り込むため玄関ホールへと向かうと、用意されて待っていた馬車は公爵家のものだった。


馬車のそばにニキアスが立っている。姿を見た途端、昨夜のことを思い出して一瞬足が止まってしまう。

まずは、昨夜の態度を謝らないと。


「ニキアス……昨「昨夜は俺が悪かった、ごめん」……」

「え?」

言おうとした言葉を先に言われてしまい、呆気に取られてしまう。

「俺が全部悪いのにレーネに八つ当たりをしてしまった。嫌な気持ちにさせてごめん」

「全部?わ、私こそ、ニキアスとソフィー様とのこと応援したいのに、嫌な言い方してしまってごめんなさい。ソフィー様と幸「レーネが謝る必要はないよ。さぁ、王都に戻ろう」……」

「え?」

有無を言わせない笑顔を見せるニキアスにエスコートされ、馬車へ乗るように促される。


そこにはアレックスが既に乗って待っていた。

「姉様、昨日はゆっくり眠れましたか?」

「ええ……」

気持ちがうまく切り替えられないまま、アレックスの横に座るとニキアスも乗り込んでレーネの正面に座る。

馬車の中は気まずいかと思いきや、まるで昨夜のことがなかったかのようにニキアスもアレックスも振る舞っているから、レーネもだんだんと強張っていた心も解けてきた。


「実は、王妃様の要望で王都に新しく建てる図書館の統括を公爵家が行うことになったんだ。俺も父の補佐で立ち上げから関わることになった。レーネの意見を聞かせてくれないか?」

「まぁ素晴らしい事業に携わるのね。どんな図書館にするの?」

「王宮図書館は貴族や裕福な者など一部しか使えない。新しいものは庶民にも門戸を開いたものにするんだ。専門書や小説、子供用の本を置く予定だ。レーネの出版社にも協力をお願いしたい」

「ええ!もちろんよ!」

ニキアスとアレックスと王都に作る図書館の話で盛り上がってしまい、あっという間に馬車は伯爵家のタウンハウスについた。


馬車から降りる時にニキアスがわざわざ降りて手を貸してくれた。

久しぶりのニキアスの手の温もりに胸が騒いで落ち着かない。

ニキアスがじっとレーネを名残惜しそうに見つめ、優しく微笑んだ。

「レーネ、またね」

「ええ、またね」


アレックスを見て大きく頷くと、ニキアスはまた馬車に乗り込んで公爵邸へと戻っていった。



「レーネ!よく戻ったね」

夕方、お父様が王宮から飛ぶように帰ってきた。

「ただいま戻りました。ご心配おかけしました」

「顔色が良くなったね」

「領地での生活は楽しかったですわ」

「国王夫妻からレーネが王都に戻ったら顔を見せるように言われているんだが、大丈夫かい?」

「はい、ご心配して下さっていたのでご挨拶に伺ってきますわ。王妃様からもたくさんお気遣いを頂いたのです。後で王都へ戻ったことをお伝えするお手紙を出しますね」

不安そうなお父様を安心させようと精一杯の微笑みを作った。



「レーネ様、一体領地で何をされてきたんですか?」

侍女のメア達が嘆きながらレーネの体を磨き上げる。

日々の労働でだいぶ荒れている指や肌、髪の毛を見て、侍女魂に火がついたみたい。

「お任せください。すぐに艶々うるうるのお嬢様に戻しますので!」



学校はまだお休み中。暇すぎて、早速仕事がしたいと言ったらアレックスに呆れられたけど「恋より仕事!」の人生を選んだのだからしょうがない。

しかも楽しい。趣味も仕事で生きる人生も有りだと思う。


王都を二ヶ月近く不在にしていたので、なんやかんやと溜まっている書類仕事は多かった。


あれやこれやと忙しくしていたある日、伯爵邸についにエイダ様からお茶のお誘いの手紙が届いた。



お読み頂きありがとうございます。


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