9 古の魔法
時は少しばかり遡る
ゼルトバーク国は、首都アエカトを中心とした10の領地で構成された国である。
ここ300年近くは、大きな問題も起きず穏やかな時を重ねていた。
それが、乱れ始めたのは、10年ほど前からだった。
初めは、本当に些細な事だった。商家の家族が、行商に出た夫が帰らないのだと噂が流れた。
その後、商家の家族が雇った冒険者も戻らないと・・・。その話が、少しずつ広がり、冒険者が戻らない事実と、その後、生きて帰った冒険者より、見た事も無い強力な魔物が出た事が、冒険者ギルドへ報告された。
事態を重く見た、ギルド長が、国へ報告をし、調査が開始された。
調査に出た冒険者や警備兵により、事態はかなり危険な状況に成っている事が分かった。
初めは、他国からの侵略ではないかと思われたが、次々と現れる魔物に、その考えは打ち砕かれた。
日々、魔物が大量に発生し、それらは弱いものが多かったが、中にはAランクの冒険者でないと倒せない程の凶悪な魔物も居た。それが、どんどん力をつけてゼルトバーク国へ迫って来ていた。
他国への、魔物討伐の協力依頼をするも、他国でも同じような事が起きており、お互いにそうそう助け合う事もままならない状態だった。
国王は、領主等に力量の高い者をなるべく国王の騎士団へ加入させるよう伝令をした。
首都アエカトを中心として、守りを固めて行くが、その速度はあまりにもゆっくり過ぎて、魔物の侵略から国を守るには絶望的に思われた。
なんとかする方法は無いかと、国王が周りの首脳陣に激と飛ばすと、そのうちの一人が、過去の文献に、この様な時に、聖人や聖女が現れ国を救ったとあると進言する。
しかし、国のどこを見てもそれらしき人物は現れず、他にはないのかと聞かれた男は、かなり昔の文献に異世界からこの国を守ってくれる異世界人を呼び出す魔術があると言い出した。
しかもそれが出来るのは、教皇ただ一人、方法を知っているのも教皇ただ一人と。
国王は、教皇を呼び出し、その魔術を使うよう指示した。
教皇は、古くから教皇のみに伝えられる魔術がある事は認めた。しかし、300年以上それを行ったことはないし、伝えられている事が本当かも分からない。それでも良いのであればと王命を承った。
その魔術を行うのはクルーセナード教の中心地の塔で行われる。しかし、その力はゼルトバーク国に点在している全ての塔へ繋がっており、どこの塔に異世界人が召喚されるか分からない。
国王は、各領主に、己の領にある塔へ、魔術が行われる日に、現れるかも知れない聖人と聖女を丁重に迎え、報告をするようにと、来るべき日を通達した。
勿論、その伝達はルブライト領にも伝えられ、ルブライト公爵と長男のシェスカールは、ルブライト領にある2つの塔に分かれて、来るかもしれない聖人と聖女を迎える為の準備を整え待った。その筈だった。
予告の時間に、国の3方から光が上がり、2つの塔に現れた聖人と聖女は、迎えに上がった領主達により、礼を持って扱われ、国王へと恙無く謁見をする事が出来た。
しかし、ルブライト領では、時間を迎えた時に詰めていた塔ではなく、大昔の塔で、今は全く使われていない古い小さな塔から光が上がったのだった。
光が上がった事にも驚いたが、迎えに来た塔出なかった事にも焦った。
近い方にいたシェスカールが少人数を組んで、慌てて迎えにひた走った。が、塔へ着いたのは翌日の明け方だった。
古い塔の解錠に戸惑い、時間がかかったが、何とか開くことが出来たが、既に中には誰も居なかった。
ただ、塔の中心の魔法陣がうっすらと光っており、そこにはザクザクに切れた布の切れ端が残っていた。
異世界から誰かが来た事は確かだった。
一昼夜寝ずに馬車を走らせた為、一番近い館で少し休んでから捜索を開始しようと立ち寄る事にしたシェスカールは驚愕した。
館には、自らが封印を施し、誰も破ること等出来ないと自負していたのに、封印は跡形もなく消えており、中には誰かが居た気配だけが残っていた。
館を調べると、宝石は一切盗まれておらず、子供の頃に祖父からプレゼントされた風詠いの服とついぞ、開ける事が出来なかったマジックボックスが、開封されて転がっていた。
こんなことが出来るのは召喚された異世界人しか考えられないと、休むのを諦め、直ぐに一番近い街へと引き返したのだった。
捜索には、あまり時間はかからなかった。
異世界人と思われる者は、風詠いの服を着ていたから。
だが、その姿は10歳を超えたくらいだろうか?少年だった。
しかも、庶民の家に身を寄せているらしく、十分な歓待を受けられているようには見えなかった。
その事を父上へ伝え、ルブライト公爵から国王へ伝えられた。
国王からの連絡は、2名の聖人様と聖女様は成人している男女で、力の強大さから、ルブライト領に現れた異世界人については、謁見不要。子供であれば、ルブライト領にて、教育を施し、生活に困る事が無いように丁重に扱うようにとの王命が下された。
つまり、厄介払いされたのだ。
母上は、異世界人が女性だったら、シェスカールに嫁がせれば安泰だったのにねと呟いた。
シェスカールは男で良かったと胸を撫でおろしたところだった。
しかし、本人に会ってみたら、田舎から出て来たと言い張るし、どう見ても剣士に向かない体格で剣士になると一歩も引かない。
取り合えず、従者と言う事にして、きちんと教育を施し、使えるかどうかは不問として、一生面倒を見なければいけないと考えると、嫁でも従者でも状況に変わりは無いと、大きなため息をついたのだった。
やっとプロローグが終わったかなってところです。主人公は、気が付いていないけど、既に永久就職すみです(笑)
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