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6 召喚から誘拐? ・・・と思ったら逮捕だった。

「はじめまして、私はファラルステル・ジーン・サイハイムズと申します。以後お見知りおきを」

 

 胸の前に左手を翳して、会釈をする。


「はじめまして、私はタキと申します。先ほどは助けていただいてありがとうございました」


 私も見様見真似で、胸の前に左手を翳して、深く会釈してみせる。

 

「失礼を承知でお伺いしますが、こんな遅くに子供が一人で街をうろつくのは良くありません。何か事情があるのですか?」


 いや、まだ日も落ちてないし、そこまで遅い時間とは思わないんだけどね。この世界は、子供に厳しいわ~。でも、もしかしたらこれはチャンスかも知れない。この人が、居てくれれば、もう少し、街を探索して冒険者ギルドへ行けるかも知れない!


「実は、私は田舎から出て来たのですが、冒険者を目指しています。でも、冒険者になる方法が分からないのです。もし、ご存知でしたら、教えていただけませんか?」

「冒険者ですか? この時期に?」


 シイラと同じ反応だ。やっぱり、魔物が活発化しているから止せとか言うのかな?なんとか、丸め込めないかな?う~ん。


「冒険者を目指すとは、勇敢ですね!何か特別な魔法スキルとかお持ちなのですか?」

「いいえ!私は剣士を目指しています」


 お!意外に乗って来た?この人も冒険者なのかな?

 頑張ってキリッした顔を作って、きっぱり言った。だって魔法つかえないし、剣士しかないでしょう?


「・・・・剣士、ですか。」


 眉を顰めて、緑色の瞳で、私をじっと見つめる。

 ま、負けるもんか!なんとかこの人を味方に付けて、冒険者になる方法を調べるんだ!


「はい!こう見えて私は強いんです」


 はい。嘘です。剣なんて生まれてこの方、握った事すらありません。別に剣道とかもした事無いし、どちらかと言えばインドア?でも、ゲームでキャラメイクする時は、必ず剣士でした!!

 夢と希望アピールで、瞳をキラキラとさせ、全身で頑張りますオーラを出したつもりで答える。


「・・・そうですか、では冒険者ギルドへ行ってみますか?そこで、適性を調べてから、どの職業に就くか決めても遅くないと思いますよ」

「冒険者ギルドへ連れて行ってくれるんですか?」

「ええ、乗り掛かった舟ですしね。この時間では一人で行ったら追い返されてしまいます。保護者同伴なら、問題ないでしょう」

「ありがとうございます!」


 やった!この人いい人!!しかも適正を調べる事も出来るのね。もしかしたら、私も練習とかしたら生活魔法くらい使える様になるのかも知れない。ワクワクするわ~。


「じゃあ日が暮れる前に行きましょう。ここからだと冒険者ギルドは少し遠いから、私の馬車で移動した方がいいでしょう、こちらです」


 促されて一緒に歩く。少し先にかなり豪華な馬車が止まっている。この人もしかして、金持ち?周りの馬車と見比べても、異世界人の私ですら一目で格が違うと感じる。・・・・ん?この馬車、なんか見覚えがあるような~?


「馬車に友人を待たせています。一緒にいいですか?」

「あ、はい。こちらこそよろしくお願いします」


 馬車のドアを開けて、先に入るように促される。こんなに豪華な馬車に乗るのは、ちょっとドキドキしちゃう。きっと最初で最後の経験よね。堪能しなくては!

 薄暗い車内の左奥に人が一人座っているのが見えた。


「こんにちは、お邪魔します」


 軽く会釈をして、その人の前の席に座る。その人は整った顔立ちに、冷たそうな青い瞳で、私をじろりとにらむだけで、何も言わない。

 突然の来訪者に気分を害しているのだろうか?困ったなと思っていると、隣にファラルステルさんが乗り込んで来た。


「シェスカール様、この方はタキさんです。冒険者に成りたいそうなので、これから冒険者ギルドへ案内をしたいと思いますが、いいですか?」

「ああ、かまわぬ」


 あれ?この馬車はファラルステルさんの馬車じゃないのかな?言い方も、この人の方が立場が上の様な物言いだし、本当に良かったのかな?まあ、いいって言ってるから、便乗させてもらうけどね!


「あの、タキと申します。少しだけよろしくお願いします。冒険者ギルドへ着いたらすぐに降りますので」

「ああ」


 シェスカールと言う人は、じっと暫く私を見ていたが、やがて動き出した馬車の中で小さくため息を着いて、窓の外へ視線を向けた。サラリと肩から零れた銀色の髪は腰近くまで伸びていた。

 ファラルステルさんも髪が腰近くまであって長いなって思ったけど、この人も長いのね。今の流行?でも、シンさんもジルトさんも短髪だったけどね。


「あの、ファラルステルさん、少しだけ聞いてもいいですか?」

「どうぞ」


 やっぱりファラルステルさんはいい人だ。にっこり笑って答えてくれるから安心する。


「友人から冒険者になるには、年齢制限と試験があると聞いたのですが、どんな試験があるんでしょうか?」

「ああ、そうですね、年齢は15歳以上からです。試験はその人の希望職と適正に有った試験となります。タキさんは、剣士希望でしたよね」


 途端に、目の前のシェスカールとか言う人が、私をじろりとまた見た。

 私、この人苦手かも。早く冒険者ギルドについて欲しい。


「はい!素早く動けるので、それを生かした剣士を目指したいと思っています」

「剣士の試験は、簡単な筆記と、攻撃力のテストですね。どちらも簡単な試験なので問題ないと思いますよ」


 筆記!こっちの文字なんて書けないよ~。まずはそこの勉強からなのね。


「そうなんですね!頑張ります!あの、ファラルステルさんは、何をしている人なんですか?」

「私ですか、私はとあるところで、魔術師をしています」

「魔術師?」

「ええ、私は風と水の魔法属性がるので、その属性を見込まれて、ある方の護衛魔術師をしています」

「そうなんですか」


 うわ!全く意味が分からない。分かったのは魔法使いって事だけだね!ふむふむ。


「あの・・・私は、田舎から出て来たのですが、田舎では魔法を使う人がいませんでした。なので、魔法の使い方を知りません。勉強をしたら、私でも魔法が使える可能性はあるんでしょうか?」

「魔法を使う事の無い田舎ですか?珍しいですね。でも、使った事が無いなら使い方を勉強したら、出来るようになる可能性はありますね」

「本当ですか!」


 ちょっと嬉しくなって身を乗り出してしまった。


「魔法の使い方を知らないのか・・・。」


 ぼそりとシェスカールが呟いた。


「シェスカール様は凄いですよ。殆どの魔法が使えます。ただ聖魔法と闇魔法は使えませんが」

「凄いですね!私も生活魔法くらいは使える様になりたいです!」

「・・・生活魔法」


 シェスカールさん、壊れた機械みたいに復唱ばかりしないで下さい、とは言えない。

 取り合えず、シェスカールに愛想笑いしてから、優しいファラルステル様に食い気味にお願いする。


「もし、魔法が使えそうだったら、教えて貰えませんか?」


 ファラルステル様はシェスカールに目配せの様な事をすると、シェスカールが軽く頷いた。


「いいですよ。その時は1から教えましょう」


 ファラルステル様がにっこりと笑って言ってくれた。これは確定かな。ファラルステル様はシェスカールの護衛魔術師だわ。ん、なんでファラルステル様には様を付けてシェスカールには付けないかって?そりゃあ、私の中の友好的順位ですわ。ほほほ。


「ありがとうございます。その時はお願いします!冒険者ギルドに着くのが楽しみです」

「私も楽しみです。さあ、そろそろ着きますよ」


 馬車が一度止まると、ギギィ・・・・と重い鉄の扉が開く音がした。

 おやっと外を見ると、大きな鉄格子の門が開いていく、その近くには同じ制服を着た男の人が左右に2名立ていた。

 馬車が開いた門を入ると、また走り出す。

 ・・・これって、本当に冒険者ギルド?なんか重厚過ぎない?ゲームじゃないからなのかな?

 少し走ると、道が開けて、区画がいくつかに分かれている花壇の間を、馬車がまっすぐ、まるでお城の様な邸宅へと向かっている。

 いや、これって冒険者ギルドじゃないでしょう?違うよね?

 

「ここは・・・どこですか?」


 ファラルステル様を振り返るととても優しそうににっこりと笑って言った。


「冒険者ギルド・・・に似たところです」


 ・・・・私、誘拐されたかもしれません。





 馬車が邸宅の前に止まると、外側から、誰かが扉を開けた。

 ファラルステル様が先に降りる。私は降りるべきか困って固まっていると


「さっさと降りろ、邪魔だ」


 とシェスカールの奴が顎で出ろと指示してくる。

 キッと睨みつけてやるが、今度は無言で、もう一度顎で出ろと指示をする。

 支配階級の嫌なところだわ!ふん!ここにいてもどうしようもないので、私はプリプリ怒りながら、仕方なく馬車を降りた。

 降りると、周りに警備服を着た人が4人と、屈強そうな大男が待ち構えていた。その隣に、朗らかに笑うファラルステル様がいた。

 馬車の前を囲まれてしまって、逃げ場がないので、むっとした顔のままファラルステル様に近づくと


「騙してごめんね」


 と、ウインクした。意味が分からない。


「私をどうするつもりなんですか?」

「中へ入れ!ルブライト公爵様がお待ちかねだ!お待たせするなど以ての外だ!さっさとしろ」


 屈強そうな大男が大声でがなり立てる。


「待っていただく必要はありません!私は帰ります!」

「面倒だ!こい!」


 逃げようとするが、いきなり体を大男に担ぎ上げられてしまった。


「何するんだよ!離せ!!」

「ドッゾ!乱暴過ぎます」


 直ぐにファラルステル様が眉間にしわを寄せて抗議してくれた。やっぱりいい人?


「もう少し優しく抱えてあげて下さい」


 とウインクする。やっぱ変な人だった!!

 シェスカールが馬車を無言で降りると、先に屋敷へ入っていく。

 警備服の男たちが頭を下げているので、やっぱりこいつの屋敷なんだ!つまり主犯!!こんなに大きなお屋敷に住むと言う事は、沢山の子供たちをかどわかして売り飛ばしているに違いない!

 こんな事なら、お休みを貰って、昼間に冒険者ギルドを探せばよかった。後悔先に立たずだね。ぐすん。

 でも、負けるもんか!


「離せ~!降ろせ~!誘拐犯!バカ!あほ!ちんどんや~!」


 ジタバタ手足を振り回すが、全く意に介さず、完全に無視されて連れていかれる。

 長い廊下をシェスカールが先頭に立って歩いている、一つの扉の前に来るとピタリと立ち止まった。

 おや?っと見ていると、後ろから付いて来ていた使用人(?)みたいな人が、サッと扉を開ける。

 すると、当たり前のようにシェスカールが入室する。どこの坊ちゃんだよ。誘拐犯の癖に!誘拐と泥棒だと誘拐の方が罪は重いんだからな~!

 続いて私も大男に担がれたまま連れていかれる。

 中に入って、扉が閉まると、大男は私を降ろして無理矢理跪かせた。

 力のない私は、大男の右手で押さえつけられただけでぺちゃんこだわ。

 気持ちでは負けるもんかとキッと大男を睨みつける。


「あら、シェスカールが10歳の時に着ていた服ね」


 前方から聞こえた女性の声に、私は全身から冷や汗が噴出した。


「ああ、本当だ、父上がシェスカールの為にバステル鳥を大量に捕まえて誂てくれた服だね」


 声のする方を恐る恐る見ると、シェスカールによく似たご婦人と、立派な髭を蓄えた高貴な雰囲気を漂わせる年配の男性がテーブルに用意された、これまた品の良いティーカップでお茶を飲んでいるところだった。

 シェスカールは、その二人に近い椅子に腰を降ろすと、直ぐ後ろに控えていたメイドらしき人がお茶の用意をする。


 あれ?もしかして、これって誘拐じゃなくて、盗人の逮捕劇だった!?

 この部屋にいる犯罪者は私一人!?マズイ!マズ過ぎる!

 予定では、お金が貯まったら、お金と返せるものを全て、あの別荘に置いて逃げるつもりだった。それで、勝手ながら罪は無かった事にして、ちょっと冒険をしたら、王様に元の世界に返して貰えるよう、何食わぬ顔で抗議するつもりだった。

 しかし!犯罪者となったら、元の世界に戻して貰えないかもしれない、それどころか、危険分子扱いされて、一生投獄とか!?マズ過ぎるでしょ!

 

「ドッゾ、手を放してあげなさい」


 シェスカールの母親かと思われる麗しき婦人が、優しい声で命令すると「はっ」と一言だけ答えて大男が私から手を除けた。


「そなた、名前は?」


 その隣の年配の高貴な男性が声をかけて来る。多分、シェスカールの父親だろう。

 なんだよ!いい年して、パパとママを呼んで私を断罪するつもりなんだな。そりゃあ、勝手に人の物を取ることはいけない事だよ?分かってるよ、でも、仕方ないじゃない!突然、異世界へ連れてこられて、あんな酷い状況だったんだよ?本来は助けるのが筋じゃないの?違う?ねえ違う?と心の中ではぼやいておこう。

 だって、この人達には関係のない話だもんね。やったのは国王様と教皇様だもんね。他は皆巻き込まれただけ、実際に被害にあったのはシェスカールだもんね。

 あ~。終わった。いや、どうにか温情に持っていけないか頑張ってみますか!


「私は、タキと申します」

「そう、タキさんと言うのね。こちらに座ってお茶でも如何?」

「・・・はい」


 立ち上がると、椅子へ移動する。自分の心情としてはトボトボだったのだけど、いかんせんこの服はスピードアップを勝手にしてくれる。


「な!!」


 大男が、慌てて私の横に飛び出してきた。

 椅子に座って、きょとんと大男を見ると、大男と隣にはファラルステル様も血相を変えて立ちはだかっていた。

 二人の顔が面白すぎて、ついぷっと吹き出してしまった。


「まあ、タキは風の魔法が使えるのね?シェスカールも子供の時分は、その服を着て走り回っていたわ。懐かしい」

「え?いえ、私は魔法は使えません」

「無意識か。その服はバステル鳥の羽毛を縫い込んである。風魔法が使えるものは、羽毛を媒介として移動速度が強化される」


 母親とシェスカールを見た後にファラルステル様を見ると、ゆっくりと頷いた。


「どうやら、君には風の魔法の素質があるようだね」

「え!じゃあ、私は生活魔法が使えるようになる?」

「ああ、魔力があるなら、使えるようになると思うよ」

「やったー! ・・・あ」


 思わず嬉しくて、両手を挙げて喜んでしまった。被害者家族の前で。心象悪い・・・。

 これは全力で謝らないとまずい!ガタンっと立ち上がり、深く頭を下げる


「あ、あのすみませんでした!ちょっとした諸事情がありまして、この服は一旦お借りしただけなんです。きちんと返すつもりだったんです。今、バイトしていまして、お金が貯まったら、お支払いを兼ねて別荘へお届けするつもりでした!本当です!」


 ううう。頭を上げるのが怖い。でも、全く音が聞こえない。皆、どんな顔をしてこっちを見てるんだろう?

 やっぱり信じて貰えないのかな?


「あの・・・今返せるものはかえしますね」


 ビクビクしながら、バックから水筒を8本と芋を4個とタマネギを4個と果物を5個と火打石と果物ナイフと有り金全部を机の上に置き、バックから取り出したエコバックをにぎり、肩掛けのバックの蓋に書かれた私の名前が見えない様に裏返して、そっと一番端に置いた。


「洋服は、家に別の服があるので、それに着替えて、洗ってから返しますので、許して下さい」


 もう一度、必死に謝ってみる。


「食べ物ばかりね、あの屋敷には宝石や金目の物もあったのに、まあ、一番の金目の物はその服とバックだけどね」


 にっこり笑って母親がちらりと夫の方を見る。

 なんですと~。やば過ぎる。宝石に手を付けていないとはいえ、一番の金目の物を盗んでいたとは・・・。

 やっぱり一生幽閉か?まさか処刑なんてされないよね?怖くて体が震えて来た。


「ひとつ聞きたい」


 力強い声が、部屋の中に響いた。父親の声だ。

 私は顔を上げて見る。


「あの屋敷にはどうやって入った?」

「開いてました」


 何だろう?じーっと見続けられている。


「本当です!こじ開けた後は無かった筈です!」


 父親が、シェスカールの方を見ると、シェスカールは静かに頷いた。

 喋れよ!当事者だろうが!と心の中では思うけど、顔は頑張ってにこやかに、害意が無いと全力でアピールだ!


「も、勿論、開いていたからと言って、盗んでいいとは思っていません。緊急避難だったんです!」

「緊急避難?何かあったのか?」


 あ、やばっ。私が異世界から召喚された者ただと気が付かれる訳にはいかない!そんな事が知られたら、元の世界に返して貰えなくなるかもしれない。あくまでも田舎者を貫かなきゃ!


「・・・え、えーと。私は田舎から出てきて、途中で路銀が付きまして・・・。来ていた服もボロボロになっていたので・・・着替えました!」


 あう、私こういうの得意じゃないよ~。皆の視線が痛い。ちょっと後ろに下がってしまった。

 そう、ほんの少しの筈が、扉の前までザッ下がってしまった。

 即反応したファラルステル様と大男もといドッゾに、左右から腕を捕まれる。

 しかも、一泊置いて、肩掛けのバックが転移して来た。

 皆の目が肩掛けのバックに集中している。ひ~。やっぱりこれはマジックアイテムだったんだ!


「違います!これは、ちょっとした出来心で、このバック欲しいなって呟いたら、勝手に主認定されちゃったんです!欲しいと思ったのは本当ですが、盗む気は無かったです!」


 慌てて一歩踏み出した私は、両脇を捕まれていたため、足だけぷら~んと前に泳いだ。


「うふふ。面白いわね。一歩でその距離まで行ったのかしら?」

「そのようだな」


 私は、捕まった宇宙人よろしく二人に連れられて、元の椅子に座らされた。


「田舎とは、どこだ?」

「えーと、トーキョウです」


 ちょっと伸ばして発音したら、こっちの地名っぽくない?その場しのぎだと次聞かれた時に忘れてたら困るしね。


「そんな街があったか?」


 父親の声に誰もが首を捻る。


「村です!ちっちゃな村です!村人も30人くらいなので、知らなくて当たり前です」

「村・・・」


 お願い納得して!怖くて体がブルブル震えてしまう。必死に平静を装うけど、こればかりは止まらない。


「小さな村なら、知らない地名が有ってもおかしくないですね」


 ファラルステル様が助け舟を出してくれた。腕を掴んでいるので、私が震えているのに気が付いているのだろう。掴んでいた手を放して、あやすように背中をさすってくれる。


「ふむ、それもそうだな。それにお金も机に出したと言う事は返済するつもりはあると考えてもよいのかな?」

「はい!あります!きちんと働いて返します!」


 父親の質問に、はっきりと答えると、父親はシェスカールへ視線を移すと頷いた。

 すると、シェスカールは嫌そうな顔をしたが、仕方なさそうに、私を見据えて行った。


「では、返済してもらおうか。勿論、言葉だけでは信用は出来ん。逃げる事が出来ないように、支払いが終わるまで拘束する魔術を掛けさせてもらう。良いか?」

 「・・・はい」


 どんなことをされるかは分からないけど、ここは断る選択肢は無い。怖いけど頷くしか無かった。


「ファラ、あれを」

「畏まりました」


 背中を摩ってくれていた手を離すと、ドッゾにもアイコンタクトをして手を離させる。

 ファラルステル様は、小さな声で何かを詠唱している。すると私の足元に魔法陣が現れ、どんどん広がっていく。そこから生まれた黄色い光が環と成って、私の体をスキャンするように下から上がってくると、その輪は、ゆっくりと絞り込まれるように小さく成り、右手首に絡みついて、吸い込まれるように消えた。

 術が完了したのだろう、ファラルステル様は大きく息を吐いた。


「完了しました。タキさん右手を握って、リュートと唱えて下さい」


 私は言われるままにやってみた。すると、先ほど消えたはずの黄色い光が右手首に現れ、その中に数字が見える。

 えっと・・・。20,000,000と書いてある。

 そっと、ファラルステル様を見る。


「机のお金を、右手で握ってみて下さい」

「はい」


 机のお金を両手でかき集めて、右手で握ってみた。赤い文字で135,000と光るとお金が消えた。次に黄色い光で19,865,000と光っている。


「え?」

「今のように、リュートと唱えた後に、返済したい金額を右手で握れば、シェスカール様の金庫へ直接返済できて、残金が確認できます。もし、返済をせずに逃げ出したとしても、この魔術でどこにいるか直ぐに見つける事が出来ますので、逃げようなどとは思わない様に。そして、全ての返済が終わったらこの魔法も解除されますので、ご安心ください」

「え?」

「ん?分かりづらかったですか?」

「いえ・・・なんか、2千万セルカって見えた気がしたのですが・・・」

「はい、鞄と服のマジックアイテム2点の金額ですが、ちょっとお安くして置きました」


 にっこり笑ってウインクしてくる。

 あり得ない!!生活費も考えたら、いったいいつ完済出来るの!?嘘でしょう!


「あっあの、服は返すつもりです。きちんと綺麗にして・・・・」

「いらん!他人が着た物など、返していらん!」

「!」

「シェスカール様はそう言う方なんです。なので買い取りでお願いします」


 うそ~!!自分だって、小さい頃に散々着てたんじゃないの~。鬼畜~!!

 ビンテージだとしても高すぎるわ~!


「大丈夫です。いいお仕事紹介しますからね」


 にっこり笑って、ファラルステル様は、もう一度ウインクした。

 私、どうなっちゃうの?五体満足で元の世界に戻れるの?

 誰か助けてぇ~! 


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