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4 どこを見ても勘違いの嵐だね

 朝、目が覚めると木目の天井が見える。

 素朴なこの家は、部屋が2つしかなく、1つはシン達家族の寝室で、もう一つはシイラとその夫の部屋だ。

 私は、数年前に亡くなったシイラの夫のベットを、使わせて貰っている。

 

 寝る前に、よくベットに転がりながらシイラと話をする。

 今回の、祭りの事も教えてもらった。


 このところ、魔物の活動が活発化して来ていて、街を行き来する商人や旅人が強い魔物に襲われる事件が多発しているのだそうだ。

 魔物が出ると、ギルドの依頼で冒険者が出る事もあるし、国内の治安にかかわる程近いところで事件がある場合は、国の警備兵達が動くのだそうだ。

 季節毎に発生する魔物を駆除する為に警備兵を動員し、それ以上先の地域については、冒険者が依頼を受けて行く事のが通例だった。

 それがここ最近では、あちらこちらで発生する魔物に冒険者だけでは対応が出来ず、警備兵や騎士団を少し遠くまで遠征をさせる事もしばしばあったが、それでも魔物が減らず、より力の強い魔物の出現場所が街に近づいて来ていた。

 この危機的状況に苦慮した現国王が、教皇へ古の秘術を用いて、異世界より聖者を、特に聖女を呼び寄せよと命令を下したのだそうだ。

 

「そんなお触れがでたけれど、私の様なおばあちゃんですら、おとぎ話としてしか聞いた事がなかったんだから、真実そんな事が出来るとは思っていなかったんだよ」

「・・・そうなんだ」

「ああ、だからあの光を見た時は腰を抜かすかと思ったよ」


 隣のベットで天井を見つめながら恍惚とした表情を浮かべるシイラに、私は眉を顰めた。


「国王様は、異世界から勝手に呼び出した人にも、その異世界での生活があったって思わなかったのかな?」

「ああ、それは大丈夫だよ」

「え?」


 シイラは、私の方を見るとにこやかに笑って見せた。


「異世界から召喚される聖人様や聖女様はね、異世界に未練の無い者で、私たちの世界を癒す力を持っている者しか召喚されないと言われているんだ。だから、召喚された聖者様達が、異世界へ戻ったと言う話は無いんだよ」

「・・・そう、なんだ」

「ああ、だから心配する事はないんだよ。勿論、召喚された聖人様達は、この国でも最高の地位を与えられるし、その功績に値するだけの、栄誉と褒美が授与される。左団扇ってもんさ。私達庶民から考えると羨ましい限りだよ。いや、勿論、偉大なる所業をされるんだから、私達だって深く感謝しているよ。それを示すための今回の祭りなのさ」

「そっか」

「そうさ!だからタキも聖者様達に肖って、祭りでガンガン稼いできなね」

「うん」


 シイラは、仰向けに体を戻し「おやすみ」と言って目を瞑った。


「うん・・・おやすみ」


 私はシイラに背を向けると、シイラに聞こえないくらいの小さな声で呟いた。


「・・・そんなの勝手だよ。」



 



 数日後、シンに連れられて、屋台の主ジルトとの顔合わせに向かった。

 幾つも屋台が並んでいる中で、青いテントへ、シンに誘われて入る。

 ジルトは、色黒で見上げないといけない程背の高い、がっしりとした男だった。


「・・・ちっこいガキだな。こいつ使えるのか?」

「ははは お前だってこれくらいの頃があっただろう?気長に見てくれ」

「そ・・・それもそうだな」


 なぜか、少しジルトの眉が下がった。


「こんなに小さいのに・・・もう、一人で生きて行かなきゃいけないんだな」

「健気だろ?」

「ああ、健気だなぁ」

 

 え?何?この雰囲気。なんか、まるで私が可哀そうみたいな・・・?いえ、勝手に異世界へ召喚された身としては可哀そうだとは思うけど、そんな事誰も気が付いていない筈だし?


「明日から、この屋台に俺が荷物を搬送してくるから、店番頼めるか?」

「はい!」


 取り合えず、やる気と元気一杯なところを見せなければと、気合を入れて返事をした。


「そうか、出来るか!きちんと教えるから頑張るんだぞ!」

「はい!」

「ジルト、給金弾んでやってくれよな」

「お、おう!」


 シンがジルトの肩に手を掛けて、反対側の手で、ジルトの胸板を軽くたたいている。

 ジルトはジルトで、なんでか私を、切なそうな目で見ている。

 私は、出来るだけ愛想良く笑っておいた。なんか分からないけど、バイト代多くなるなら、ま、いっか。


「道は覚えたか?明日からは、一人で行くんだぞ。」

「はい、大丈夫です!よろしくお願いします。」

「朝は早いが、きちんと来てくれよ」

「はい!」


 無駄に元気一杯に挨拶をして、この日はシンと一緒に帰った。

 帰り道、気に成ったので、シンに聞いてみた。


「あの・・・ジルトさんのあの反応って、何なんですかね?」

「あ、ああ・・・。すまん、お前の事全部話しちまったんだ」


 ・・・・!!え!!気が付いてたの!?

 ぎょっとして、シンの顔を見上げると、なぜかシンも涙ぐんでいる。


「わりぃ。泣くつもりは無かったんだ。だけどさ、こんな小さな子が、田舎から路銀も尽きちまうくらいの金しか無かったのに、あんな高級素材を持って来たんだ。・・・親御さんも苦渋の選択だったんだろうな」


 私の頭の中は???だ。


「口減らしだろ?もし、旅の途中で死んだとしても、せめて最後の食事だけは良いものをって、必死に金集めて持たせてくれたんだろ。あの食材」


 あ・・・・。盗みましたなんて言えない。

 こっちだと、そういう意味に成っちゃうんだ。どうしよう、私からしたら、芋とタマネギって普通の食材なんだけど、いや、芋とタマネギに似た食材ってだけだけど、まさかこの世界では高級食材だなんて思わなかったし・・・。

 どうしたものかと俯くと、いきなり背中をバシッと叩かれた。


「大船に乗った気持ちでいろ!俺たちがきちんと育ててやる!」


 ・・・いや、私きちんと育ってるんだけど。高校卒業したし、大学は諦めたけど、就職する予定だったし。

 でも、家族を思い出すと少しだけ、胸がチクりと痛くなって、胸元で手をきゅっと握った。


「おし!これからは俺の事を父ちゃんと呼んでいいぞ!」

「それは、遠慮で!」


 ぎょっとして速攻返すと、シンがゲラゲラ笑って、何度も背中を叩いてくる。


「もう、痛いってば!」


 言いながら、少し胸がほんわかと温かくなった。

 私の事も男だと思ってるし、勘違いばっかりしている人達だけど、愛情だけは山もりなんだから。

 

 今の私は、聖人とは程遠い・・・泥棒です。くすん。

 でも、この屋台でお金を稼いで、きちんと弁償して見せるわ!そしたら、胸を張って王様や教皇様に、間違って召喚されたので、元の世界の戻して下さいって言うわ!

 なんせ、聞いた話では、他に現れた聖人様は炎の最高魔術を使えるらしいし、聖女様は、癒しの魔術で、いろんな人を救っているらしい・・・。私だけ泥棒って何~って感じよね。

 こんな私を召喚していたと知ったら、王様も教皇様も穴が有ったら入りたいってくらい後悔するんだろうな~。そんな姿見たくない気もするけど、仕方ないよね。責任は取って貰わなきゃ・・・てか、私も取らなきゃ!


「明日から、屋台頑張るぞ~!」

「お、やる気だな!頑張れ頑張れ~。ガンガン稼げよ!息子~!」

「稼ぐけど、息子じゃねぇ~!」


 ゲラゲラ二人で笑いながら、自宅へ戻る姿を、黒い影がじっと見ている事に、この時の私は、全く気が付いていなかった。

 




 

 



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