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3 罪と真実

 ちゅんちゅんちゅん・・・。可愛い鳥の声に、大きく伸びをすると、私は目覚めた。

 1階へ降りて、顔を洗うと、昨日の残りのうどんを作り、簡単な朝食を取った。

 使ったお皿はキチンと洗って拭いて、元に戻す。そして・・・物色だ!


 まずは、水を多めに貰いたい。水筒が無いか探したが無かった。代わりに、竹の筒みたいなものが8本あった。水を入れて線をすると、持ち運べそうだ。

 次に食料だが、流石にうどんは無理。芋とタマネギと火打石。他に何か、果物みたいなのは無いのかなと、勝手口から外へ出ると、昨日は分からなかったけど、倉庫みたいなものがある。

 扉を開けると、いくつかの箱の中に、見た事の無い果物が入っていた。形は梨みたいだが、色が紫だった。

 1つだけ台所へ持ち帰り、果物ナイフで切ってみると、中身は白くて瑞々しい。かじってみたら甘くておいしかった。採用!

 取って返して、倉庫から果物を5個持って戻った。


 ・・・さてと、バックはエコバックと肩掛けのバックしかない。全部入れるのは無理だろうなと思いつつ、エコバックに強度はあまりない。重いものは肩掛けの革製のバックに入れようと、まずは水。竹筒を全部入れた。

 以外に入る。気を良くして、芋5個。タマネギ5個。入る入る。

 火打石と果物5個と果物ナイフを入れた。 ・・・・?なんで入る?

 バックをじっと見るが、全く大きさが変わっていない。中を覗くと、なんか広い?きちんと並んで入ってる。

 でも、重かったら持てない。試しにバックを持ち上げてみた。

 全く重みが感じられない。革製品のバックって!凄いんだね!!


「このバック、返したくない~。私のものにしたい!無理よね~」


 するとバックの蓋の部分から煙が出て、革の焼ける匂いがした。


「え!何!?」


 慌ててバックを見ると、私の苗字が焼き付けられていた。

 真っ青になって、焼き付けられたところをこするが、消えない。意図してやった訳では無い!でも、焼き付けておいて、意図してやってませんと言って誰が信じるだろう?

 大きくため息をつくと、荷物をまとめて逃げる様に、館を後にした。

 

 後ろめたさから、道に戻れず、森の中を道と平行に歩いた。

 漸く、昨日の分岐点付近まで戻った時、馬の蹄の音と、車輪の轟音が、私が来た塔の方から聞こえて来る。

 私は思わず、身を低くして隠れてしまった。

 すると、この時代に珍しく、先頭を馬に乗って走ってくる男と、その後ろを二頭立ての豪華な馬車が続き、その後ろに、又馬に乗った騎士の様な男が続いて駆けてきた。

 しかも、一車線の道へ入っていったのだ。


 やばい・・・。持ち主が帰って来たのかも知れない。

 私の悪事が露見する~。ひ~。そんなつもりは無かったんだよ~。

 いや、鞄だけじゃない。服も食事も!ああ!言い逃れ出来ない。

 よし!逃げよう。うん。逃げ切ろう。うん。

 私は、新たに決意と共に、森の中を、道がかすかに見えるくらいまで離れて、でも道なりに進むことにした。

 

 必死に歩き、辺りが薄暗くなって来た時、また、あの地鳴りが響いてきた。

 きっと、館の中が荒らされていて、いろいろ盗まれている事に気が付いて追って来たんだ。

 咄嗟に伏せると、そっと遠くに見える道をじっと見る。

 やはり、あの時の馬車の一団だ。猛スピードで駆けて行く。

 砂埃すらも見えなくなるまで伏せていた私は、バクバク行っている心臓を抑えながら、仰向けになると、ハアハアと息をした。

 これが・・・悪事を働いたものの心情なのね。知りたくなかった。


 同じ方向にしか道が無い。とぼとぼと歩きながら、あのスピードならきっと、もう会う事はないよね?っと自分に言い聞かせる。でも、足が重い。本当は、夜を迎える前に町に入りたかった。

 頑張るつもりだったけど、これ以上、あの馬車に近づきたくなくて足が止まる。

 こんな森の中で一人、朝までいられるのかな?蹲って動けなくなってしまった。


「おや?こんなところで迷子かい?坊や?」


 突然、しわがれた老婆の声が聞こえた。ぎょっとして声のする方を見ると、背中に籠をしょった老婆が、立っていた。


「なんだい?泣いてるのかい?ひひひ」


 近づいてきた老婆は、私の顔を覗き込むと


「もう少し先に、私の馬車があるから、一緒に乗って行きな。もうすぐ日も落ちる、落ちたら魔物が出て来るからね。早く帰ろうね。」


 そう言うと私の頭を、しわしわの手で撫でた。

 私は、何も言えなくて、泣きながらただ頷くだけだった。


 老婆はシイラと言った。今日は山菜とキノコを採りに来たと言った。

 どういった所に生えているのが美味しいだとか、大ぶりのがいくつか取れたとご機嫌に話してくれた。

 そして、私の事は何も聞こうとはしなかった。

 しばらくして、街が見えてきた。その街を見た時、私はまた、泣き出してしまった。

 シイラは、また優しく頭を撫でてくれた。


「今夜は、私のところへ泊っていきなよ。明日に成ったら、私も一緒にご両親に謝ってあげるからさ」


 シイラは、私が家出をしたのだと思っているらしい。

 なんと答えたらいいか分からなくて、ただ私は頭を振る事しか出来なかった。


 シイラの家は、街の外れの木造の家で、娘のレイラとその夫のシン、孫のルチカとの4人家族だった。

 私は、苗字の滝と名乗ったところで、名前も言うか迷った。なぜなら、4人とも、名前以外に名乗らなかったから。もしかしたら、苗字が無いのが普通なのかもしれないと思いなおしたからだ。


 夕食を作ると言ったので、芋とタマネギをバックから出して渡すと、高級食材だと目を丸くしていた。

 シイラの家族は、皆優しくて暖かくて、凍えていた私の心を一気に溶かしてくれた。

 そして、新たな問題に私は立ち向かわなければ成らなくなった。


 翌朝、朝食を食べ終わると、シイラが言った。


「家はどこら辺りだい?」

「あ、私はこの街の生まれでは無いです」

「おや、家出人じゃなかったのかい。じゃあ、この街へ働きに来たのかい?」

「え?ええ。そんなところです」

「仕事は決まっているのかい?」

「いえ・・・これから探します」


 シイラはにこにこ笑いながら、頷いた。


「じゃあ、いい時期に来たね。ついこの間、王様から古の魔法によって、聖なる力を持った異世界人を呼び出す事に成功したと発表が有ってね。しばらくはお祭りに成るから、仕事にあぶれる事はないよ」

「え?異世界の人を呼び出したんですか?」


 シイラは思い出すように上を眩しそうに見た。


「そうだよ。生きている間に、あんな素晴らしい光景を見る事が出来るとは思わなかったよ」

「光景?」

「ああ、異世界人を呼び出す事が出来た塔からは、その者の守護する光が立ち上るんだ。今回は3つの塔から上がったんだよ」

「・・・塔」


 シイラの言葉を復唱しながら、私は自分に何が起きたのかを、漸く理解した。


「シイラさん、お願いがあります」

「ん?なんだい?」

「ここへ着くまでに、お金を全て使い果たしてしまいました。これから仕事を探して稼ぐつもりですが、しばらく、ここに置いて貰えませんか?」


 私は、シイラとその家族皆に対して頭を下げた。


「そうだったのかい!だから泣いてたんだね」

「え!お金が無くて泣いてたの?」

「大変だったね。うちはいつまでいても大丈夫だから。気にしないでいいよ」


  皆が痛ましそうな顔をして私を見る。いや、泣いてたのは別の理由だったんだけどね。そういう事にしておこう。


「ありがとうございます!あの、この街は初めてなので、どんな仕事があるのか教えて貰えますか?」

「そうだなぁ~。子供に出来る仕事は限られてはいるんだよね」


 顎を右手で触りながら、この家の主であるシンは困ったように笑った。

 ・・・ん?ここでは18歳は子供扱いなんだ。ふむふむ。


「細っこいから、力も無さそうだしな・・・。よし!俺の知り合いが、この祭りの期間、屋台を出すと言ってたから、人手が必要か聞いてみるよ」

「ありがとうございます!お願いします。あの、質問なんですけど」

「ん?なんだい?」

「冒険者とかって、募集はあるんでしょうか?」


 シンはニヤリと笑うと


「なんだ、冒険者に成りたいのか?だが駄目だ、年齢制限がある!大人になって、試験を受けないと、まず登録すら出来ない。登録できないと、受注も出来ないからね。まずは、屋台から頑張ろうか」

「そうでしたか、分かりました。まずは屋台からお願いします!」


 シンは爽やかに頷いた。

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