2 避暑地の家
空はどこまでも青く、木々は清々しい風を纏い、鳥は美しい声で囀る。
果てしなく続く道は、永遠に続くかのようだ・・・・。
いや、続いてるんじゃないの?
民家どこよ?私何時間歩いてる?車の一台くらい通ってもいいんじゃないの?
「どんな田舎よ!私、今どこにいるの!?」
いつまでも、訳の分からない塔にいてもどうしようもない。日が暮れる前に、どこか農村でもいい、人のいるところへ行こう。そして確かめなきゃ、ここがどこなのか?どうして、私がここにいるのか?
私は、あんまり頭が良くないから、きっと大学教授とかだったら、今回の現象も、さくっと解決してくれるんじゃないかな?うん。きっとそう。
ちょっと混乱していて、本当は凄く簡単な事なのに、私にはよく分からないだけだよね。
誰かに説明して貰わないと、私じゃあ分からないわ。説明してもらったら、きっと笑い話になるような、簡単な事なのよ、きっとそうなのよ。うん。
・・・・きっとそう。
「ちょっと疲れたな。お昼にでもしますか。いっぱい歩いたからお腹すいたし」
道を外れた少し奥の木々の間に切り株があった。休むのにはちょうど良い。ちょっと遠いけど、道の方を見ていたら車が来たら分かるだろうし。
切り株に座ると、思ったよりも疲れていたらしい、足がすごく楽になった。
手に持っていたエコバックから、昨日買ったおにぎりと500mlのお茶のペットボトルを取り出した。
「ケチケチしないで、もっと買っておけば良かったな」
持っている食料は、おにぎり1個とお茶と一口チョコが10粒。あっという間に無くなってしまうだろう。
もぐもぐとおにぎりを食べながら、道なりに行けば、どこかの町や村に繋がっていると思う、何日か歩かないと、駄目かもしれない。問題は、多分水。耳を澄ませても、川の音が聞こえない。
ちびちびと飲んで頑張ったとして、どれだけもつのかな?道を外れても川を探した方がいいのかな?
もう、何時間も歩いているのに、車1台通らない。道幅は広いのに、アスファルトじゃない。砂利道だ。
標識すらない。あまり人の使う道ではないのかも知れない。
でも、森の中に入って、熊とかに襲われたら?そう思うと決断出来なかった。
「取り合えず、まずは進もう!日が陰ってくる前に、どこか民家に付くといいんだけど・・・」
期待を込めて呟くと、食べ終わったビニールとペットボトルをエコバックに戻して立ち上がった。
どれだけ歩いただろう、どんどん太陽が傾き、薄暗くなってきた。
じっと、道の先を見ても、全く開ける事が無く、曲がりくねりながら伸びている。
だが、しばらく行くと、道が二股に分かれていた。一つは今まで通り2車線の道、もう一つは1車線だった。
じっと分かれ道を見ながら悩んだ。
2車線は、人通りがあると想定して作られていると思う、じゃあ1車線は?
1車線は、誰かが家に帰るために作られた道の可能性が高くない?必要に迫られての道の可能性が高くない?期待と不安に心臓がどきどきした。
間違ってもいい、私は1車線の道へ歩を進めた。
それでも2時間くらいは歩いたろうか?辺りがは既に日が落ちて真っ暗だった。
が、突然、道の先が開けた。そこには、思ったよりは大きな建物が建っていた。
しかし、その建物から光は全く出ていなかった。
留守なのだろう。きっと、ここは別荘とか、そういった類のものなのだろう。
少しがっかりはしたが、今夜をやり過ごせそうな場所があったのはありがたかった。
私は一応、扉を叩いた。
「こんばんは!どなたかいらっしゃいませんか?」
無駄だろうとは思うが、一応礼儀だしね。家を壊して入るのはその後よね。うん。
数回、叩いて声をかけたが、全く反応なし。留守ですね。じゃあ、お邪魔しましょうか。
きょろきょろと周りを見回し、窓を探すと、どの窓も、木の扉でガラスは無かった。
「壊すの大変そう・・・。この扉の鍵が開いていてくれたらいいのに」
冗談のつもりで、扉を押すと、全く抵抗なく開いた。
「うわ・・・不用心過ぎ」
月明かりに照らされて、開いた先は大きなホールだった。
「こんばんは。えと、一晩お邪魔します」
入る前に、一言断りだけ言っておく。自己満足だけどね。
「暗いな・・・明かりはどこだろう?」
途端に、先ほどと同じように部屋のあちこちのライトが一斉に灯った。
入ってすぐ目の前に、緩いカーブのある階段があったが、下にも扉がいくつもある。
「取り合えず、洋服!着替えられる洋服が欲しいわ!」
すると、一斉に灯った明かりの一部が消え、まるで道筋を示すかのように、2階の奥の部屋へ続く光だけが残った。
まるで、導くかのような明かりに、少し不安を感じながらも、進んでいく。
部屋のドアは、どこのドアよりも豪華で、この館の主人の部屋ではないかと思った。
ドアノブを回し、扉を開くと、直ぐに部屋の明かりが付く。
青い豪華な絨毯が敷き詰められ、調度品も繊細な模様が象られ、ところどころに宝石が散りばめられている。
「宝の山じゃない!不用心過ぎる・・・。」
部屋の奥でチカチカと光った。おや?と首をかしげてよく見ると、洋服ダンスっぽいものが見える。
近寄って扉を開けてみると、ウォークインクローゼットだった。
「大きい!広い!!」
中へ入ると左右に、洋服がずらりと並び、その上には帽子の箱が並んでいる。
ただ、全て男性用だ。端から見ても、かなり身長が高い人の様で、とても着られない。
私の身長は160cmくらいなのだが、これらはどう見ても180cm以上の人のものだろう。
う~んと悩みながら奥へ入っていくと、一番奥の方に、小さいサイズの子供用の服が有った。
もしかすると、この部屋の主の子供の時の服なのかもしれない。
数枚しか残っていないと言う事は、思い出の品なのかも知れない。
少し躊躇したが、背に腹は代えられない。
「ごめんなさい!この恩は必ず返しますから、この服を貸して下さい!」
私は、手を合わせると、一番無難そうな、茶色の子供服を手に取った。
すると、服に引っ掛かってしまったのか、小箱が足元に落ちて開いた。
出て来たのは、革製の肩掛けのバックだった。
上着を脱ぐと、既に洋服とは言えない切れ端を脱いで、子供服を着る。
肩掛けのバックの色合いもいい感じなので、斜め掛けにする。
クローゼット内に有った姿鏡で見てみると、もともとボブカットの私が着ると、本当に男の子みたいだった。
悪くない。いいとこの坊ちゃんの様だ。ふふふ。
クルっと回って、ポーズを決めてみる。途端にお腹がグーと鳴った。
「締まらないな~。お腹すいた」
部屋を出ると、1階へ戻った。
台所は、基本1階よね?
「食べ物はどこにあるかな~」
すると、また光が道を示す。1階の右へ伸びている。
今度は、疑う事も無く進むと、やはり台所へ繋がっていた。
「ここの家主、進んでるわね。家自体に音声ガイダンスつけてるんだ。でも、泥棒にまで優しいのはちょっとね~。いや、私は避難してきただけだから、いいのか!・・・いいのかぁ?」
ちょっと悩むが、ありがたいので利用させてもらう。
「出てこいカップ麺!レトルト食品!すぐ食べれるもの!」
じっと様子をみるが、何も起こらない。そっか、光だけか、そっか。
だよね、そこまでは無理よね。
ごそごそと食べ物を探すと、芋やタマネギ、1t単位の小麦粉や塩くらいしかない。
避暑地だもんね。あっただけでもありがたい。
「しかし、今時竈かぁ。冷蔵庫もないや、スローライフしたい人なんだね」
小麦粉があるならうどんが作れるね。肉が無いのは残念だけど、芋とタマネギ入れれば、それなりに豪華な夕食よね。
水は湧水を引き込んでいるらしく、台所の端に延々と水が流れ、外へ出ていく溝があった。
竈の火入れも、思ったより簡単で、木くずと火打石で何とかなり、私はあたたかな夕食にありつけたのだった。
その後は、先ほどの部屋へ引き返し、豪華なベットへダイブすると、ぐっすりと朝まで眠ったのだった。