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1 マンホール

「ううう・・・・冷たい」


 目をつむったまま、私は上掛け布団を探そうと手で周りを探った。

 いつもなら、直ぐに布団に手が当たり、抱き込むことが出来るのに、どこを触っても、敷布団ですらなく、冷たい、まるで石畳のような感触だ。


「・・・何?」


 ひやりとする感触に、逆にぎょっとして飛び起きた。

 周りを見渡すと、石造りの無機質な壁と、今しがたまで寝ころんでいた場所は、大理石の様だが、なぜか私を中心として、魔法陣のようなものがうっすらと光っていた。


「ここ・・・どこ?」


 えっと、昨日は、バイトが終わってコンビニでご飯を買って帰宅する途中だったはず。

 いつもより遅かったから、帰り道が暗くて・・・・暗くて、そう!穴があるのに気が付かなくて、落ちたんだったわ!ちょっと!誰よ!マンホールの蓋開けっぱなしにした人!責任者出てこーいって感じよね。

 昨夜の状況を思い出して、少し腹立たしくなった私は、もう一度周りを見回した。

 落ちたのならと上をみたが、光がこの魔法陣から出ているものしかなく、周りの壁が石造りっぽいのがかすかに見える程度だったが、上は全く暗くて見えなかった。


「私、どれくらい落ちたんだろう・・・」


 ハッとして、どこか怪我をしていないか、自分の体を見ると、洋服があちこちザク切れに成って、体の露出が激しい。手に持っていたコンビニの袋や背負っていたリュックもザク切れだ。


「酷い・・・」


 この切れ方は、私もしかして、重症!?っと慌てて自分の体をチェックしたが、信じられないことに無傷だった。ホッとはしたものの、この酷い露出状態で、誰かが助けに来たら・・・泣く!

 服!服じゃなくても羽織れるものが欲しい。


 きっと、誰か助けに来てくれるはず、その前に、何とかしなきゃ!一生の汚点に成る!

 がばっと立ち上がると、リュックの中身とコンビニ袋の中身がドサッと落ちた。一緒に、体に張り付いていた服もハラハラと落ちていく。血の気が引いた。


 殆ど、下着が見えている状態だ。心の奥底から、今、誰か来たら殺す!と思った。

 私の殺気のお陰か、全く誰かが来る気配は無かった。


「は~。どうしよう」


 ぽてりと座り込むと、リュックとコンビニ袋から零れた中身を見た。


「あれ?リュックに入れていたエコバック無事だ!おお、ユ〇クロで買ったたためる上着も無事だ~!」


 外側にあったものだけ切れた?どういう仕様!?意味は分からないが、取り合えず、上着を着こみ、エコバックにリュックの中身とコンビニで買ったものを入れた。


 よし、今度こそっと立ち上がるが、そこは上着のみ、パンツギリギリ・・・・。やっぱり、今誰か来たら殺す!


 ぐるりと周りを見渡すと、右側に扉が見えた。

 助けて貰うにしても、服を手に入れてからじゃないと、絶対に嫌!

 猛然と扉に向かったダッシュした。


 扉までは、思ったよりも距離があった、近くで見ると、大きな扉で高さが3mくらいはあり、横も左右2mくらいある。だが、不思議な事に扉のどこにもドアノブの様なものが無い。


「東京の地下って、変なのがあるってテレビで見たけど、本当に変。」


 これは、押して開ける感じなのかな?観音開き?そっと手を当てると、信じられない事に、力を入れる必要もなく、向こう側へ開いて行った。


「自動扉!地下なのにハイテク!」


 これはやばい、電力が来てるって事は、助けが来るのも早いかも知れない。急いで服を探さなければ!

 と、一歩出ると、真っ暗だった。


「あちゃ~、まだ誰も出勤してないから電気ついてないんだね」


 真っ暗じゃ、怖くて歩けない。また、どっかに穴が有ったら怖いし。


「もー!出口どこ~!」


 文句の一つも出ますよ!はい。

 その声に反応したのか、両サイドのランプが次々についていく。


「すご、人勧センサー付きランプ?いや、音声感知の方かしら?どっちにしても、助かる~」


 助けが来る前に、ちゃっちゃと洋服探すわよ~。こんなところじゃあ仕方ない。もう、作業員のおじさんが来てた服でも、洗ってなくても涙を呑んで着るわよ!!

 光の走る方へ、私は走ったのだった。


 ランプの途切れた先に、またさっきと同じ扉があった。手をかざすと、同じようにスーッと外側へ開いて行った。


「げ!外だ!!」


 あられの無い姿のまま、日の光を浴びてしまい、大量の光に一瞬目が見えなくなる。

 もし、ここが人通りの多い場所だったらと、思うと泣けてくる。

 しかし、人の声は全く聞こえず、代わりに木々のざわめきと、鳥の鳴き声だけが聞こえた。


 少しして、光に目が馴染むと、そこは森の中だった。

 降りる為の階段が10段くらいあり、その下は砂利の様な道が出来ていて、両サイドには、立派な木が沢山並んでいた。

 真ん中には、アスファルトではないが、ギリギリ2台くらいの車が行き来出来そうな、砂利道が続いていた。


「よし!人はいない。でも、管理人さんの詰め所みたいなところも無いのね」


 私は、小さくため息をつくと、上着の裾をなるべく伸ばしながら、階段を降りた。

 階段を降り切ると、ギーバタンと扉の閉まる音がした。


「超ハイテク、私たちの税金、何に使ってくれてるのよ」


 ふん!と鼻息も荒く振り返ると、そこには想像していたものとは違い、高々と聳える塔がどっしりと建っていた。

・・・あれ?私、マンホールに落ちたんだよね? あれ?



笑って読んでもらえたら嬉しいです。

よろしくお願いします。

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