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フクシュウ屋さん  作者: 橙真らた
第1章「アイスと警戒」
2/5

1章1話

本編スタートです。第1章は2000~2500字で書いてます。

 時は夕刻、陽は傾き始めてるのにも関わらず、日陰にいても夏の蒸し暑さにやられてる俺は今、とある怪しいビルの前に立っている。


 正確には俺一人じゃなくてもう一人、クラスメイトのきし奏弥(そうや)が隣に立っている。


 奏弥曰く、ここは『フクシュウ屋』と言われてる場所らしい。場所は普段登下校に使ってる学校の最寄り駅からそう遠くなく、改札を抜けた反対側に進み徒歩1分程の怪しい裏路地の、日当たりの悪いところにある。三階建ての小さなビルだ。


 何でこんな所にいるのかは、決まってる。奏弥に(アイスで)つれられたからだ。時間をさかのぼる。




───4時間前───



「暑い…」


 もう9月だというのに、一向に涼しくなる気配がない。


「暑い…」


 二学期が始まって数週間が経過し、それでもまだ尚、夏休みの頃と変わらぬ暑さで気力を奪われる。


「暑い…」


 考える力さえ失われ、出てくる言葉はこれしかない。

 しかも俺の席は一番左…窓側だ。

 窓は南向きで、なおかつ校庭に面してるため遮蔽物しゃへいぶつがない。ほぼ直射日光だ。割とマジで焼け死にそう。


「おいさとるー起きろー」


「起きてるから、寝かせて」


「いや寝んなよ」


 気温の暑さと昼休みの騒がしさによる熱さにやられそうな俺は思考を放棄して寝たかったが、そこへ声をかけてきたのは同じクラスの奏弥だった。


「お前聞いたか?フクシュウ屋の噂」


「なんだそれ?」


 机に突っ伏したまま耳だけを傾けていたら、聞いたことのない名前が飛び出してきた。記憶を辿っても、そんなものを耳にした覚えはない。


「聞いたことない」


「なんか、いわゆる『復讐(ふくしゅう)代行業者』みたいなやつらしくて。普段使ってる学校の最寄り駅のすぐそばにあるって学校内で噂になってんだってよ」


「復讐…」


 復讐、自分の口で言い直したとき、少し体がぞわっとした。何か嫌な記憶がよみがえりそうな気がした。必死に堪えようと、違和感がないようにゆっくり深呼吸する。大丈夫、落ち着け。もう過去のことだ。切り捨てた過去だ。無視すればいい。大丈夫、大丈夫──。


 ゆっくりと深呼吸し、なんとか心を落ち着かせられた。しかし今は奏弥と会話してるところだ。何かしら返事をするために、とりあえず「んー」とか言って時間を稼ぐ。


 復讐代行業者が駅の近くって相当危ないことなのではないだろうか。俺もそういう連中についてはあまり詳しくないから分からないけど、復讐代行って言うくらいだし、顧客から復讐の依頼を受けてそれを遂行するというものなんだと思う。そんな店が、学生の多くが利用する駅のすぐ近くにあるって、普通に事件とか多発しそうで怖い。


「それって、最近できたってこと?」


「んー分からん。けど駅近くてすぐ噂広まるってこと考えると、わりと最近じゃね?」


 奏弥自身も噂で聞いただけなのか、あまり詳しくはないようだった。


「というわけで、行こうぜ」


「行かない」


 よく今の急な流れで誘う気になったな、と心の中でツッコミを入れた。どこら辺が「というわけで」なんだろうか。


「アイスおごってやるからさ」


「釣るな釣るな」


「良いのかい?今日は暑いだろう?君は財布がないだろう?帰宅まで何時間もあるだろう?今日の分だけ、いくらでも奢ってやるぞ?」


「うっ…」


 運が悪い、と言うのだろうか。確かにアイスは欲しい。めちゃくちゃ欲しい。


「ついていくだけ」


「そう来なくちゃ!」


 結局、言われるがままの状態で、放課後付き合うことになってしまった。

 そして、奏弥が俺に話しかけてきて、頭を働かせてくれたおかげか、もうひとつやらなければならないことがあるのを思い出した。


 体を起こして席を立ち、廊下の方へ足を向ける。


「あれ、どこ行くんだ?」


唯衣ゆいの教室」


「おぉ~、これはやはりデートのおさそ…」


「違う」


 軽く受け流し、俺は教室を後にした。


 俺が向かう先は、二つ隣の、春城はるしろ唯衣のいる教室だ。

 彼女の父親は、俺の母さんが入院してる近くの大きな病院で医者をやっていて、それなりに金持ちである。実績もあり、たまに新聞などで取材を受けていることもあるらしい。

 そして何より、俺の家(家族)の経済的支援をしてくれてる大恩人でもある。唯衣の母親と俺の母さんが昔からの知り合いらしく、母さんが病気で働けなくなったとき、俺の母さんと春城家両親で話し合った結果、こうなった。


 父親はどうしたのかって?いない。


 そして偶然のことなのかは分からないが、母さんの主治医が唯衣の父親だ。



 唯衣のいる教室のドアを開け、顔だけ突っ込み、中を見渡す。すぐ近くで友達数人と談笑していた唯衣が、こちらの存在に気付いたようで、目が合った。


「あっ、暁くんどした?」


 俺が手招きすると彼女は席を立ち、廊下の方まで来てくれた。


「俺の母さんの様子とか状態とかについて、唯衣の父さんから電話とかで直接話したいんだけど、今大丈夫?」


「あー、それなら全然!でもどうして今なの?」


「放課後は唯衣すぐ部活行っちゃって、会う機会ないだろ?」


 それに、できるだけ早く状態は知りたいし、と心の中で続けた。


 唯衣と、その家族はさっきも言った通り金持ちだ。そんな金持ちお嬢様なら金とコネを使って超上位私立校とかに行ってるもんだと偏見を持ってた。どうやら聞いた話によると、彼女自身の希望でここに来たらしい。公立なのに。

 でもそれなりに、ここでの学校生活も満喫してるようだ。もともと裕福だとか貧しいだとか、そういう差別的な考えを持ってない人なんだと思う。たまに楽観的過ぎることもあるけど。


「おっけー。でも最近忙しいみたいだから、電話出ないかも」


 唯衣曰く、最近父親は忙しくて家にも顔を出す暇すらないんだとか。腕のある医者ならそういうことも多いのだろうと思いながら、唯衣が電話番号を入力したスマホを貸してくれた。

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