がおーの魔法
「いいかげんにしなさい!」
「うるさい!あかんべーだ!」
おかあさんにしかられたぼくは、だいきらいなニンジンいりのシチューのうつわをなげすてて、こうえんにいった。
おきにいりの、おおきなすべりだいのあるこうえん。
ここであそんでいれば、おかあさんがハンバーガーをかってむかえにきてくれるんだ。
ここであそんでいれば、おかあさんがなきながらごめんねっていってくれるんだ。
でも、きょうは、ちょっと…おむかえ、おそい。
もうまっくらなのに、むかえにこない。
こうえんのライトがきえたのに、むかえにこない。
ちょっとさむくなってきたのに、むかえにこない。
おなかがすいてたまらないのに、むかえにこない。
なんでむかえにこないの?
なんでむかえにこないの?
ぼく、こんなにまってるのに。
ぼく、こんなにはんせいしているのに。
ぼく、こんなにすなおにいえにかえるきになっているのに。
おかあさんに、はらがたつ。
おかあさんなんて、きらいだ。
いつもぼくのこと、おこるしさ。
いつもぼくのこと、にばんめにするしさ。
いつもぼくのこと、またせるしさ。
おとうとなんか、ねかしとけばいいのに。
おとうとなんかきらいだ。
おとうとなんかほしくなかった。
いつもないてるしさ。
いつもおかあさんとっちゃうしさ。
いつもおとうさんとっちゃうしさ。
おとうさんも、きらいだ。
すぐにねちゃうしさ。
すぐにおこるしさ。
すぐにおかあさんのみかたするしさ。
おとうさんなんかきらいだ。
「ぼく、ひとりでなにしてるの?」
へんなおじさんにこえをかけられた。
ぼく、しってるよ。
しらないおじさんにはなしかけられても、へんじをしちゃいけないんだ。
まえに、しらないおじさんとはなしてたら、おかあさんにめちゃめちゃおこられたんだ。
ぐぅう~……!
ぼくのおなかが、なった。
はやくおかあさんこないかな。
いまだったら、ゆるしてあげるのに。
「ぼく、おなかすいてるんでしょう?はい、これ…あげる。」
しらないひとから、なにかもらっちゃいけないんだ。
ゆびをなめながら、いっしょうけんめい、がまん、がまん…。
「すごく、おいしいよ?食べてごらん?」
ぐぅう~……!
すごく、おいしそうな、いいにおい。
でも、もらったら、ダメ……。
じゅんくんのおとうさんからもらったおかしたべただけで、めちゃめちゃおこられたんだ。
つめをかみながら、いっしょうけんめい、がまん、がまん…。
「悪いお母さんだよね、ぼくの事、放っておいて…かわいそうに、おなか、空いてるんだよね?」
ぐぅう~……!!
ぼくは、おなかがすいてすいて、たまらないんだ。
ぼくが、こんなにおなかがすいているのは、おかあさんのせいなんだ。
おかあさんが、わるい。
おかあさんなんか、おかあさんのいうことなんか!
「ぼく、今、腹が立っているでしょう?これを食べたら、おなかも膨らむし、大嫌いなお母さんにお仕置きすることもできるよ?」
ぐぅう~……!!!
いつも、ぼくがゆびをなめるたびに、てをつねられる。
いつも、ぼくがつめをかむたびに、てをたたかれる。
ぼくはいつだってがまんしているのに、おしおきされるんだ。
「このパンはね、魔法のパンなんだよ。このパンを食べると、がおーの魔法が使えるんだ。」
「がおーの、まほう?」
ぼくだけ、おしおきされてて、いやだったんだ。
「このパンを食べて、悪いお母さんを、こらしめちゃおうよ?」
・・・おかあさんが、わるいんだ。
・・・おかあさんを、こらしめてやる!
ぼくは、おいしそうなパンをもらって、ひとくちかじった。
すごく・・・おいしい!!!
「お母さんをこらしめたくなったら、ガオーって言ってごらん?君は、大きな、怪獣に変身できるよ!」
「もぐ…モグ…、ほんとうに?」
ぼくが、おじさんをみあげると・・・もう、いなくなってた。
おなかがいっぱいになったぼくは、すべりだいであそぶことにした。
さっきまでまっくらだったはずなのに、あかるくなってたんだ。
さっきまでこわくてたまらなかったのに、ぜんぜんこわくないんだ。
このままあさまでずっとあそんでいよう!
「ゆいと!!あんたって子は……!!!」
ジャングルジムにのぼろうとしたら、いきなりみぎてをつかまれて…
パンッ……!!!
おもいっきり、ほっぺたを、たたかれた。
「今日はお父さんが遅くなるから我慢してって言ったでしょう?!なんでこういう事するの!!」
ほっぺが、いたくて、たまらない。
「どうして我儘ばかり言うの?!シチューの後片付けも、けい君のお世話も、ぜんぶお母さん一人でやってるんだよ?!」
・・・ほっぺが、いたくて。
「キッチンの掃除、大変だったんだよ?!晩御飯、ぜんぶ作り直したんだよ?!」
・・・ほっぺが。
「今から帰って、お父さんに叱ってもらうからね!!こっち来なさい!!!」
・・・いたくて、たまらない。
「が、がおーっ!!!」
ぼくばっかり!!
ぼくばっかりおこられる!!
ぼくばっかりたたかれる!
おかあさんなんて・・・だいっきらいだ!!!
バシッ!!!!!!!!!!!
ぼくは、おかあさんのほっぺたを、たたいた。
ズグワッシャ!!ガシャゴギュ!!!
おおきなおとがして、すこしとおくの、ジャングルジムがふっとんでいった。
おきにいりのジャングルジムがなくなっちゃった。
おかあさんもいなくなっちゃった。
よかった、もう、これでおこられることはないね!
おもいっきりあそぼっと!!
すべりだいであそぼうとしたんだけど、なんでかあそぶことができない。
ぼくがすべりだいにのろうとしても、ちいさすぎて…のぼれないんだ。
こうえんがきゅうにちいさくなっちゃったみたいだ。
・・・つまんないなあ。
すごく、はらがたつ。
なんで、あそべないの?
なんで、あそべるものがないの?
すごく、はらがたつから、ぜんぶつぶすことにした。
すべりだいをふみつぶした。
ぶらんこをふみつぶした。
シーソーをふみつぶした。
みずのみばをふみつぶした。
ベンチをふみつぶした。
すなばであしのうらをフニフニやっていたら、いっぱいひとがきた。
パン!!パン、パン、パンっ!!!
ぼくのみぎあしが、めちゃめちゃいたくなった。
・・・いたくてたまらない。
「がが、がおーっ!!!」
おおきなこえでじゅもんをとなえたら、いたみがなくなった。
ぼくはおうちにかえろうとおもって、こうえんをでた。
いっぽ、にほ、さんぽ、よんほ。
あしのうらがちょっとざらざらする。
たまに、せなかが、こそばゆい。
なんだろうとおもってふりかえったら、おおきななにかが、ざざざと、うごいた。
ずしんずしん、おおきなおとがきこえるけれど、いつまでたってもおうちがみえてこない。
どかんどかん、おおきなおとがきこえてくるけれど、いつまでたってもおうちがみえてこない。
みえてくるのは、あおいそらとしろいくもばかり。
めのまえのくもをにぎりつぶしてあそぶの、けっこうおもしろいや!
たまにむしがとんできて、それをはたきおとすのがたのしい!
あしもとにちいさなすなやまがあったから、けっとばしたらくずれた!
ぼくは、やまつぶしにむちゅうになった!
やまをどんどんつぶしていく!
けっこうおおきなやまを、おもいっきりけったら、いきなり、ひがでてきた。
あつい、あつくてたまらない!
「ががが、がおーっ!!!」
あしのうらで、ひを、もみけした。
あしのうらがちょっとあついから、ちかくにあったみずでひやした。
なんだろう、おしりのはじっこも、あついきがする。
じぶんじゃ、よくみえないや。
しかたがないから、ぐるっとむきをかえて、おしりのはじっこをみずにつけたら、きもちがよかった。
あしもとに、どろだんごがつくれそうないろのつちが、たくさんあるのにきがついた!
りょうてでつちをあつめて、まわりのみずとよくまぜて・・・おおきなおしろをつくったよ!
むちゅうになって、あそんだ。
なんどもおしろをつくって、トンネルをほって!
おかあさんにおこられるから、さいごはちゃんと、きれいにやまをくずしたよ。
そしたら、まわりのみずがたいらになったつちのうえにのびてきて・・・まわりはみずだけになっちゃった。
とおくのほうにもつちのかたまりがあるみたいだ。
ぼくはそれをぜんぶつぶしにいこうとおもったんだけど。
いきなり、みぎうでのあたりにボールがとんできた。
「ががががががが、がおーっ!!!」
いたくていたくてたまらなくて、おもいっきりじゅもんをとなえてしまった。
あついの、つめたいの、くるしいのが、いっきにぼくをおそった。
おもわず、みずのうえにしりもちをついた。
おしり、ぬれちゃったけど・・・たちあがると、またくるしくなっちゃうよね。
ぼくは、よつんばいになって、みずのうえをいどうすることにした。
ちょっとあたまがつめたいけど、がまんできるよ!
みず、けっこうきもちいいや!
なみをじゃぶじゃぶ・・・たまにそこのほうにしずんでるどろをかきだしてあそんだよ!
たくさんつちがあったから、いっぱいこねてあそんでいたけど。
ぐぅう~……!
おなかがすきはじめて、ぼくはなきたくなった。
そういえば、おかあさん、どこかにいっちゃったんだった。
おかあさんがいないと、ぼくはごはんをたべられないってきがついた。
ぐぅう~……!!
おなかがすいてたまらない。
しかたがないから、みずをのんでがまんする。
ぐぅう~……!!!
おなかがすいてたまらない。
たまにぷちぷちとちいさなつぶがくちのなかではじけるけど、ぜんぜんおなかがふくらまない。
ぐぅう~……!!!!
おなかがすいてたまらない。
どうしようもないから、つちをたべてみた。
ぐぅう~……!!!
おなかがすいて、たまらない。
どれだけつちをたべても、おなかがいっぱいにならない。
かなしくてたまらない。
ぼくは、おもいっきり、じゅもんをとなえた。
「がががががががががががががががががが、がおーっ!!!」
ぼくのめのまえには、みずいろの、あめだまがあった。
おいしそうだなと、おもった、ぼくは。
ぱくりと、ひとのみして・・・・・・。
きょうはにちようび。
パパとママと、おとうとといっしょに、こうえんにあそびにきたんだ!
ちかくのベンチで、パパとママがぼくをみている。
あ、てをふってる、ぼくもふらないと!
よーし、きょうはおもいっきり、すべりだいのおうさまであそぶぞ!
ぶらんこにもチャレンジしてみるんだ!
ジャングルジムだって、のぼれちゃうんだぞ!!
「・・・ぼく、ガオーの呪文の事、覚えてる?」
ロングすべりだいのところで、おねえちゃんのうしろにならんだぼくに、しらないおじさんがはなしかけてきた。
「おじさん、なにいってるの?」
いってることが、よくわかんないや。
「ガオーの呪文はね、生まれ変わったくらいじゃ、手放すことができないんだよ。」
あ、つぎ、ぼくのばんだ!
「ふーん?わかんない!」
すわって、すべるじゅんび、かんりょう!
「嫌なことがあった時には、ガオーって叫ぶといいよ?」
「ぼく、いやなことなんかなにもないよ!じゃあね!!」
ぼくは、つるつるのすべりだいをすべりおりた!
はやくて、きもちいい!!
すべりだいからおりると、またさっきのおじさんがいた。
「ガオーって、絶対、叫んでね?」
「・・・やだ!!!」
なんか、このおじさん・・・こわい。
「忘れてるだけで…ガオーの呪文の持ち主なんですから。」
おじさんが、へんなことをいってる。
「あなたに、言っているんですよ…?」
おじさんが、ぼくのほうをみないで、なにかいってる。
「…483回目の、ガオーの呪文、お待ちしております。」
ぼくは、パパとママのところに、はしっていくことにした。
「パパ、ママ―!へんなおじさんがいるの、こわい!」
「ええ?どこにもいないよ?」
「まあまあ…ちょっと早いけど、お昼にしましょう!」
「だー!」
ママのおなかにとびこんだあと、うしろをふりかえったけど・・・だれもいなかった。
ぐぅう~……。
おなかがすいたぼくは、おにぎりを、ひとつもらって・・・ぱくりと、たべた。
「ママのおにぎり、おいしい!!!」
すごく、すごくおいしいのに・・・なんでだろう?
すこしだけ、さみしいきもちが、するような・・・・・・?
「玉子焼きもハンバーグもあるよー!」
「パパも一つ貰おうかな!」
「お、おにー、おにぎ!!」
・・・きのせい、だよね!
ぼくはおとうとのみいくんに、おにぎりをおすそわけしながら、にっこりとわらった。