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第95話:火焔魔王と幸せの粉03


 砲撃が奔った。超音速が大気を叩き発破させる。


 加速アクセリットの質量魔術だ。


「……………………」


 崩壊する建物を横目に、台無しになったパフェを眺めやるピア。


「ぶっころ――」


「――やめんさい」


 紅茶をカップごと粉砕されたアリスが彼女の殺意を押し留めた。


 ここは人間が魔を追求する場所。その過程に於けるリスクは誰であれ承知済みだ。そうでもなければ殊更に人間社会はやっていけないし、概ねの死亡事故に関して言えばむしろ人類総数から言えば少ない方でも在る。まだ殺人や病死で亡くなる人間の方が多くはあった。


 だからとて暴走する魔を肯定することも難しいわけで。


 編み込みしているピアの頭部を掴んで説得する。


「話は通じないでしょう」


「だったら滅して良いはずだよー」


 さすがに「にははー」とは笑えないらしい。


「止めるくらいで我慢なさい」


「師匠はパフェ頼んでないからいいよね」


 甘味の報復は乙女にとり重いらしい。カロリー的にも。


「たしかに補償金で言えば厄介事ではありますけど」


 前後即因果としてピアが関係していないと言い切る根拠にも乏しい。人類否定の魔神。それこそが彼女の特性であり、レゾンデートルでもある。


「さてそうなると」


 一応壊れていない椅子に座ったまま、暴走する魔を見やる。人の変質した魔性。魔人は猛り狂うように魔術を暴威に変えていた。


「――――――――」


 属性的に特化型なのだろう。水と氷が魔人を中心に暴走していた。


「吾輩らではどうにもなりません」


 火は水に弱い。それはどうしようもなく世界の法則だった。


「超嘘つき」


 だがそんなサレンダーにピアは半眼で反論する。


「……………………」


 概ね図星を突かれた塩梅だ。実際にやろうと思えばアリスはこの場を破却できる。


「しかしそうなると人損が出ますので」


「いいんじゃない? この際正義の印籠はコッチにあるしー」


「人身事故物件に首ツッコみたくないんですよ」


「ピアのパフェの仇とってよー」


「あとでちゃんと補填しますので」


「うー」


 まぁやって出来ないわけではないが、ここで暴れても角が立つ。ピアの方でも政治的な配慮が必要で、アリス以上に楼閣が脆い。もちろん自衛権を主張できる範疇ではあるも、それこそ聖術師という奴は人類が管理することの難しさで知られ、迂遠に彼女も掣肘されている。しかもこの場合が自分の親だというのだから皮肉も極まる。


「しかも火って加減が難しいんですよね」


「焼けても収められるんじゃにゃーの? ほらピアが魔神化したときみたいな」


「鎮火は今すぐにも出来ますよ? 問題は焼落に取り返しがつかないだけで」


「土属性魔術師を呼べば?」


「そうなりますよね。端的に言って吾輩はマテリアル関連は苦手なんですよ」


 四属性のうち火の属性は最もスピリットに近い位置取りだ。無論物理現象に適合の誤謬を語るのも馬鹿らしい話ではあるが、スピリットそのものが何なるやとも論じられ。


「師匠の天罰魔術は?」


「まるごと魔人を滅却する気でなら」


 本来は魔族の領域だ。たしかにアリスには出来る。しかしやる気にならないのも本音で。


「生きるってのは難しいですね」


「師匠は深刻に考えすぎな気がするけれど」


大体メガノ強盾シルド火焔フレイヤ


 唐突に呪文が発せられた。状況的にはかなり有り得ない。攻撃の感知から魔術の行使までの時間が限りなく薄氷だった。


「ふむ」


 魔術の水をアリスの火が蒸発させる。元より出力でも魔人に負けるつもりはないが、さらにメガノで補填してある。約四倍に跳ね上がった彼の魔術に抗するにはそれこそ魔王レベルの基礎威力を持ってこなければ敵わないだろう。


「でもなんで師匠……魔人の魔術に対処できたの?」


「勘?」


「勘なんだ」


「あまり論理立てて考えたことは無いですね」


 実際に同威力のカオスの魔術すら対処するレベルだ。一寸先を見失うだけで終了だろう。


「ほー。勇者や魔族ってそんな薄氷を歩いているの?」


「ピア嬢に言われるとまさにオマ言うなんですけどね」


 コレに関して言えばアリスの意見に一定の理が在る。


「ピアそこまで考えては使ってないけど」


「でも勝率高いですよね」


「星乙女なので」


 じゃあ以前のカオスが何なんだというテーゼにも成る。


「で、どうするんです?」


「任せましょう。頃合いです」


「?」


 アリスがのんびり述べて、ピアが崩壊する喫茶店から距離を取りつつ疑問符を浮かべたところで、


「はーっはっはっはっは!」


 最近ちょっと伸び悩み気味だった哄笑が場を支配する。


「あー、そゆこと」


 頭が湧いているのか心配になる高笑いを根拠にピアは全域を察する。


「闇在るとこと光在り! 夜でも無いのにこんばんは! 行くぞ正義の掲げる道に! ついに来た来たやって来た!」


「魔術を打ち込みたい」


「ツッコミが過剰にならないって彼女のアドバンテージですよね」


 アリスも否定はしなかった。


 魔人討伐は……『教会』、『傭兵ギルド』、『学院所属の魔術師』、三者三様に必要な処置だ。それぞれ討伐予算も潤沢に割り振られている。アリスとピアは最後者だ。カオスの場合は傭兵の方にも足を突っ込んでいるが。


 閑話休題。


「とう!」


 崩壊した喫茶店の隣の民家。その屋根からミカエリが跳ぶ。漆黒のカソックが風にたなびき裾を振るわせる。


「ぷぎゃ!」


 そして顔面から着地するまでが一事象。


「そんな登場しなきゃ良いのに」


「いや。登場シーンにもインパクトが必要かなって」


「誰への言い訳だ」


 そしてそこまでやっておきながらすぐさま復活するのだから逞しい。


「とにかく行きます! アリス氏は某の勇姿を目に焼き付けるように!」


「どうしてもお布施で暮らしたいらしいね」


「人類の夢です」


「最初に聖書作った人って偉大だよねー」


 主に政治的財産的な優位性に於いて。哲学者と教皇はときに政治屋以上に金を持つ。


「ところで大丈夫なの? ミカエリに任せて」


 ピアの懸念もご尤もだった。


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