第94話:火焔魔王と幸せの粉02
「スピリットねぇ」
魔人化における最大の事項だろう。元々魔物や魔人はスピリットが魔によって変貌した形だ。
「にしても魔術師なら耐性もありそうなモノだけど」
「でござるな」
「理屈なんだな」
「でも事実だお」
ニッチモもサッチーモもドーニモも頷く。
四人は魔界に潜っていた。実際の処サークル活動としても正しいので、リスクはあれどもしばしば彼らは潜っている。
「大羅・斬撃・火焔」
炎の斬撃が倍化して魔族を襲う。魔界の樹が焼けただれた。元魔王の火焔は魔界に於いても圧倒的だ。実際に魔族すらも地の理がありながら後れを取る。
「そんなとばして大丈夫でござるか?」
「スピリットはまだまだございますので」
「はー。怪物なんだな」
「ですかね」
「さすがの魔王だお」
「お褒めの言葉有り難く」
コックリ頷く。
「で、吾輩らは何処へ?」
「魔鉱物採集」
「あー」
魔導文明に必要な素材だ。それありきで現代は回っている。
「にしても」
赤い髪を弄りつつ、アリスは呪文を唱える。
「大羅・奔流・火焔」
現われた魔族が焼き滅ぼされる。
「ツヴァイ。ドライ。フィーア」
四連射。それもギガラ級を。
赤く明滅する魔界の空を見上げつつ、その下で魔を蹂躙する。
「うむ。無敵艦隊でござる」
「ギガラ級を容易く使うんだな」
「凄いだお」
「で、お三方は星乙女論争は今日はしないので?」
「手ぇ出してないでござるな?」
「未熟者故」
「やはりアルデバラン嬢は只者ではござらんかった!」
ニッチモがグッと拳を握る。アリスは魔界の地面を踏みしめて歩く。この空間もある意味でアリスと同格だ。その本質を知る知性はあまりないが、此処で言うことでも無い。
「二振りの聖剣を握る勇者! しかもオメガ級を使うと来る! 最強ジャマイカ!」
「しかし可憐さではシリウス嬢なんだな」
「なにをぅ!」
「あの天真爛漫さ。まさに神が地上に遣わした天使なんだな」
「カオス嬢の虹色の瞳見てもソレ言えんの?」
「あの宝石のようなシリウス嬢の碧眼が良いんじゃないか!」
「待つんだお」
ドーニモが口を挟む。
「なによりアンタレス嬢の愛嬌こそ我の癒しだお」
「ふ」
「は」
「こと現代魔術では二、三先を行っている。つまりアンタレス嬢こそ最強だお」
「勇者に勝てるのでござるか?」
「勝てるだお!」
「無理なんだな」
「ではシリウス嬢は?」
「可愛さでは勝ってる」
「だったら艶やかさではアンタレス嬢が一位だお」
「いや、アルデバラン嬢の乙女性が一番でござる」
「フシャー!」
「グワァー!」
「ヒキャー!」
それぞれに相手を威嚇していた。
「アリス氏はどう思う?」
「吾輩はまぁそれぞれに魅力が在るかと」
「ラブコメ主人公並みのヘタレ具合」
「あー、そうなりますか」
彼もそこら辺は少しずつ学んでいた。
「でも実際仲良いですし」
「裏山」
「けしからん」
「だお」
「何もしておりませんよ」
「その自己申告を信じろと」
「処女ですので」
「貴殿は?」
「童貞です」
というかまず二次性徴が。
「ところで」
アリスが話題を変える。
「――――――――」
不吉の吠え声。
「魔人も現われるんですね」
「魔界にいると表理世界より魔に浸蝕されるんでござる」
「それは聞いていますけどね。それにしても最近魔人が多いなぁ」
「魔族や魔物は普通なんだな」
「では魔人だけ?」
「だお」
「あー。ヤな予感」
とか言いつつアリスは何も考えてはいなかった。
「大羅・妖精・火焔」
妖精の呪文を唱える。それもギガラ級。ボッと炎が点る。それも無数に。総じて四十は超える鬼火がそのまま空中で大気を燃やしていた。蜃気楼が映る。
「いけ」
アリスに指示に従って炎は魔人に襲いかかる。
「――――――――」
魔人もまた魔術を使う。だが多勢に無勢だ。数と質がそのまま実力差を顕現させる。水の壁を展開する魔人だったが、炎はソレを意思持つように避けて魔人の側面に回り込む。人の身を焼くに熱量は十分だった。むしろ過剰なほどだ。
「火葬送」
爆裂音が破砕する。魔人は苦悶と共に塵に変じた。
「ふぅ」
「一件落着だお」
「にしても貴殿のスピリットはどうなってるんだな?」
「不思議にござるな」
「そーかなー? 吾輩そんなに変で?」
まぁ違うかと言われれば否定が難しい程度には変ではあるのだが。




