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第86話:火焔魔王と恋のお勉強07


 水の中に入れた砂鉄をスピリットでかき混ぜる。それは魔術師には出来て当然の思案事でもある。実際にそうやってスピリットの体内調整を模範とするのが魔術の第一歩なのだから。その意味に於いて呪文とは別の意味でスピリットの運用は独立独歩する必要がある。


 殊更何を求めるでも無く。


「まぁ影装はこんなところかなー」


 グルグルと彼はスピリットで砂鉄と水をかき回していた。


「うーん。やっぱり見れば見るほど意味不明だよ。にははー」


 そしてピアが唾を飲んでいた。


 古典魔術クラシック


 そう呼ばれる分野の魔術だ。今は失われた魔王の技。とはいえ妖精ほど破格というわけでも無いのだが。


 彼の持つ力の一端が此処にある。元々呪文構成に於いては古典魔術の方が現代魔術より洗練されてる。とはいえ魔導文明の立脚の意味では現代魔術に分が在るものの。そこら辺を語るとアリスの好きな魔列車の話と相成る。


「む? う?」


 複数のらせん状に渦巻く砂鉄を見つつ、ソレを再現しようと試みるピア。碧眼は穴が空くほど水槽を眺めている。


「にはは。どんな練り方をしているので?」


「何を覚えるでも無いなぁ」


 彼には出来て当然の技術だ。呼吸と親戚のように可能な領域とも言える。実際にさほど難しいとは彼自身感じていない。


「にはははー」


 それを追いかける彼女には不条理と言うだけで。


「別に使えなくてもいいのでは?」


「うにゃー。うんにゃ」


「圧縮は出来るのでしょう?」


「火焔発勁は無理だけど」


 それはアリス独自の無刀だ。出来る方がどうかしている。


「水面に映えて冴え渡り」


「何それ?」


「なんでもござらん」


「でさ。カオスもアレできるの?」


「勇者ですしね」


「ズルいなぁ」


「ピア嬢も魔神でしょう」


「そーだけどー」


 実際にスピリットの質と量だけで言えばカオスにも匹敵しうる。それに並ぶクラリスが何者為るやと云う話でもあっても。


「にははー。こうなると全属性制覇しているカオスとクラリスってズルいよね」


「分かります。本当に」


 火属性しか使えない二人だった。


「せめてそれくらいは勝ちたいんだけど」


「無茶を言う」


「にははー」


 で、また砂鉄をグルグル。


「実際に影装って役に立つでしょう?」


「立つ場面が来ないのが一番良いんですけど……」


「そこはまぁ観念として」


 ピアが砂鉄を回す。


「師匠って記憶的にどんな感じ? 魔王の意識をフルコピーって」


「どうですかね。記憶的には地続きですよ。起源前って言われても吾輩にしてみればさっきのことですし」


「他にも魔王って居たんでしょう」


「それはまぁソレなりに」


「仲良かった?」


「ソレなりに」


「にはー。逢いたいと思う?」


「滅亡していないなら。まぁおよそ人間に対する天敵なので、向こうがどう思うかは知らないんですけどね」


「魔族って何だろね」


「そこが分かれば色々と楽なんですけど」


 スピリットを練ってグルグルと砂鉄をかき回す。


「で」


 今度は直にスピリットを練る。


影装シャドー火焔フレイヤ


 装甲を左手に展開する。


「おー。にははー」


「こんな感じです」


「出来れば素敵よね」


「変身ヒーローですね」


「別個錬成が難しいんだけどねー」


 にははー、と彼女の笑う。


「外は天気が良いのに」


 履修室から外を見やる。今は魔術の実践論がやられていた。結界外からも見える位置にあるのは珍しい。そこまで過激な魔術を行使しないのだろう。運動も含めた講義内容だった。


「ぶっちゃけ師匠なら此処を敵に回せるのでは?」


「そりゃ滅ぼそうと思えば出来ますけど。それはピア嬢も同じでしょう」


「まぁピアは魔神だし」


「人の業の創りしは……」


「ぶっちゃけ師匠が良いなら殲滅するけど?」


「断じて認めません」


「優しくないでしょ。人間って」


「優しい人もいますよ」


「誰?」


「ピア嬢」


「え? フラグ?」


「フラグ?」


「あー。師匠だ。間違いない」


「何故か呆れられた気がするのは気のせいで?」


「気のせいじゃ無いから大丈夫。師匠ってふとデレるよね。いきなりだと焦るんだけど……まぁ天然って意味でならラブコメ的には美味しいというか」


「何を言ってらっしゃるので?」


「好きってこと」


「それは重畳」


「そゆとこが師匠だね」


 スピリットで水を混ぜる。


「で、ここの螺旋なんだけど」


「何か疑問でも?」


「疑問しかないんだけど」


「何故に?」


「だからそゆところが師匠は魔王なんだよぅ。色々とアレな感じで」


 もっとも古典魔術クラシックの第一人者はまぁそんなもんで。


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