第62話:エピローグ
「で。アレが。ソレの。勇者」
「ええ。魔王への対抗手段です」
そこはまぁいいのだが。
「カオスが……」
「ですねー」
「ケタタタ。でよ」
アリスとクラリスも笑い飛ばした。
「何なるや」
と云う話でも有り。
「まぁはた迷惑に相違ないんですけど。アリス様も御寛容くださったのでこの時代を生きてみようかと」
「ていうか傭兵どころか魔術学院でもトップだよ」
なにせオメガ級を呼吸のように使えるのだ。それこそ宮廷魔術師ですら及ばない能力。場合によってはアリス以上に危険人物でもある。今までは聖滅剣グランズベルでスピリットを制していたのだが、その疑暗もなくなったのでまさに勇者絶頂という感じだ。
「蕎麦が美味しい」
ズビビーとアリスが蕎麦を手繰る。天ぷらサクサク。
「魔神よりタチ悪くない?」
「アリス様に殺意が溢れ申して」
「恐っ」
「まぁ精神力でどうにかこうにか」
ピアが人類憎悪を抱えるように、カオスも魔族憎悪を抱えている。そしてその両者にアリスは当てはまる。
「なんとなればスピリットの調整は吾輩もするので」
「キュア?」
「もなんのその」
うんうんとアリスが頷く。実際にその通りだ。
「で、陛下についてはどう思います」
そっちも緊迫した問題だ。ソレも国際。
「母者は。にははー」
「でよ」
「ですよね」
「何が?」
アリスだけ分かっていない。それも何時もの事で。
蕎麦湯を飲む。
「うむ。美味し」
「でよ」
クラリスも飲んでいる。
「とにかく師匠をどうにかしないと」
「どうにかって?」
彼の天然はハンパない。
「えーと」
「恋愛小説を読ませる」
「ハーレクインロマンス?」
「ソレが最も理に適うのでしょうか?」
カオスも訝しげだった。
「だって母者はズルいよ。あの曲線美と起伏は」
「ですね」
「ケタタタ。でよ」
そこは他二人の乙女も同意できる。
「だから師匠」
「はい」
蕎麦湯をチビチビ。
「覚悟なさってください」
「戦うので」
「愛を取り戻せ」
「???」
そんなこともお家芸ではあった。
*
「チィ」
神父は夜逃げの準備に入っていた。およそ焦燥が彼の感情を支配している。こうではなかったはず。こうなるべきではなかった。そんな後悔がよぎる。
「魔王め! 信仰の道にハズレし外道め!」
「で、どこに行くので?」
「無論帝国から――!」
「はあ」
「何者だ!」
唐突に現われた疑問の声に、そこで漸く神父は悟る。この場にいるもう一人に。
「で、魔王を代行ではなく滅するので」
「私の事情もある!」
「でしょうよ」
他者の声はどこまでもどうでもよさげだ。別に暴走した神父をどう取り扱おうとも思っていないらしい。影のある夜の闇に、陰影だけが浮かぶ。
「貴様は何だ。カソックを着ているなら教徒だろう!」
「まぁ」
別に否定も億劫だ。
「さて、では神明裁判を」
「待て! これは教会にも利のあることで!」
「そこは心配してませんよ」
影はそんな風に語る。
「ひ。止めろ! 止め――!」
鈍い音が響いた。
「エイトサクラメント……か」
コレ有るを悟っていたのだろうか。そうならば彼女はあまりにも明晰に過ぎる。そうと知って陰影が戦慄する程度には。
「ま、いいんですけどね」
そこで獣湯の明かりが点く。炯々と人を照らしていた。
「聖族ですか」
そこを根幹に此度の騒動は収斂する。
「あー。お腹減った」
それもまた事実だった。星が三千燦然と輝く。だいたい満天の星空の数だ。夜の空間は宇宙の膨張の証で、星が無数にあるのなら、夜の明かりは計算上昼の三百倍明るいことになる。
「世の中上手く行きませんよね」
陰影の嘆息もまた然りで。
ここに夜の暗さが支配した。
第二話終了です。
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