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第34話:火焔魔王と正義言語06


「は!」


 ミカエリが眼を覚ますと、そこは白い部屋だった。清潔感の漂う間であり、ついで薬品の匂いがする。


「えーと?」


「お、目覚め申したか」


 文庫本を読んでいたアリスがその視界外から声を振る。


大体メガノ――ッ!」


「やめんさい」


 こんな屋内でメガノ級を使おうとしたミカエリをチョップが止める。クラリスのツッコミだ。カオスとピアもいる。


「言っておくけどアリスにかすり傷でも付けたら亀甲縛りにして星の傷に放置すらから」


「外道ですか」


「相応だと思うでよ」


 素っ気なくクラリスは述べてのけた。


「で」


 半眼のカオス。アルデバラン嬢。


「何故アリス様を狙ったので?」


「魔王だから」


「王国は保護しているはずですが?」


 あの未亡人はアリスを相当に気に入っている。


「教会は認めてない」


「貴女は教会ではないでしょう」


 さもありなん。アリスが呟く。


「でも……某は死にかけた」


 血を吐くようにミカエリはそう云った。


「アリス様は何かしたので?」


「何か……は幾らでもしてるけど」


 人を殺した経験は……転生してから思い付かない。死にかけたと言っているので実際に目の前に五体無事でいて生きているわけだから結果論としては死んでいないわけで。


「うーむ」


 どこかで巻き添えにしかけたか。ちょっと思念で反省しようとすると、


「某は赤貧なんです!」


 ビシッと挙手。


「うん。まぁ。だね」


「だから餓死しかけているんです!」


 チーン……とりんが鳴った。


「魔王との関連性は?」


「いや。教会ですし」


「魔王に殺されかけたのでは?」


「某そんなこと言いましたか」


 ちなみに言ってない。彼女が述べたのは「自分が死にかけた」だけだ。


「では何故アリス様を襲ったので」


「だって魔王なんでしょ?」


「それだけ?」


「私は破邪神聖霊長教会を運営しています」


「はあ」


「でも信徒が一人もいないので収入が無くて」


「あー。読めちゃったな」


 ピアが遠い目をした。


「なら魔王を討伐したという実績があれば教会はウハウハ。信者はいっぱい集まって。某は働かずに食っていけますよね!?」


 要するにそういうことだった。


「なるほど」


「なに納得してますアリス様」


 カオスはかなり怒髪だ。中々にアリスに好意的であるが故に、ミカエリの不条理さはスルーも出来ないのだろう。


「なわけで某の明るい未来計画のために死んでください!」


「どう思います?」


「死刑で良いんじゃない?」


「死んでも誰も悲しまないでよ」


 あまりに物騒な星乙女だった。


「主はいませり!」


 スピリットが練り上がる。ピタッとかしまし娘が腕をミカエリに伸ばした。照準だ。そのまま魔術の撃ち合いになれば一対三でミカエリが圧倒的に不利になる。ギガラ級も使えるのだが、それは別に彼女だけの専売特許でもない。


「魔王の肩を持つのですか?」


「ええ」


「だよ」


「でよ」


 かしまし娘に躊躇は無かった。


「では某はどうすれば」


「餓死なさい」


 一寸の躊躇もなくカオスは言い切った。


「そんなことのためにアリス様を殺されてはたまったものではありません」


「だよねー」


「でよねー」


「うーん。でも信者増えないんですよね」


 そこはコンサルタントの領域だ。


「なわけで」


 と更に論じようとして、ミカエリの腹が鳴る。


「ぅぅぅ」


「お腹減ってるので?」


「塩しか食べていません」


 それを食べていると言えるのか?


 ちょっと分からなかったが、アリスはとりあえず提起した。


「食事奢ろうか?」


「いいので!?」


 彼女が眼をキラキラさせた。望外の幸運だったらしい。


「あ、でも魔王に……」


 そして逡巡する。


「いや遠慮するなら別に無理にとは」


「食べる!」


「いいので?」


 むしろかしまし娘が首を傾げていた。




    *




「はあぁぁ」


 目の前に置かれた食事にミカエリは眼をキラキラさせていた。


「これ食べて良いんですか?」


「そりゃまぁ」


 というか食べて貰わなければ困る塩梅。


「では!」


 早速ミカエリは取りかかっていた。


「よろしかったので?」


「餓死されても困るし」


「そうではなく……」


「?」


「ミカエリ様、可愛いですよね?」


「そうだね」


「むぅ」


 カオスが頬を膨らませる。


「何か思うところでも?」


「無いとも言えない乙女心」


「?」


 まだその辺りの機微は彼には覚れない。


「アリス様はそうでしょうね」


 ツンとそっぽを向いた。


「師匠はその辺がだよ」


「何かしまして?」


「してないから問題というか」


「ピアはたまにわかんない」


「まぁピアもピアがわかんないし」


「クラリスは?」


「どうでよー」


 こっちは普通に食事をしていた。レストランのパスタだ。ちなみに一般人も入れる敷居のものである。


「魔術は使えるみたいだし、そこそこ人材としては有益でないでよ?」


「虚無使えるしね」


 そこはたしかにあった。


 アリスも冷製パスタをアグリと食べる。


「人間らしい食事なんて久しぶりです!」


「それもどうよ?」


 その赤貧具合は彼にとっても心配になるレベルで。


「だから今日の処は見逃して差し上げます!」


「あ、狙うのね」


「信者を増やすためにも実績は要りますし」


「だよねー」


「殺していいですか?」


「落ち着いてカオス」


 なにかと物騒なカオスだった。


「でもアリス様を……」


「ミカエリくらいなら吾輩でも対処できるから」


「万一後れを取ったら?」


「その時は満を持してミカエリを殺せばいいと思うよ?」


「ではその通りに」


「失うより先に討つべきだと思うけどなー」


「でよ。うっちもピアに賛成」


 他二人もアリスを大切には思っているらしい。


「では某が魔王を討伐すると星乙女が報復に来ると?」


「そう」


「あい」


「なるでよ」


「うーむ」


 肉のフライを囓りつつ、ミカエリは疑念に頭を捏ねる。


「じゃあ教会はどうなので」


「もともと学院とは水と油ですし」


「殺した奴は生まれたことを後悔させるんだよ」


「ていうか色々と破産?」


 威力的なかしまし娘だった。


「教会的には見逃せないわけで」


「だからやるなら覚悟を持ってください」


「はあ」


 ガジッと肉を囓る。


「ちなみにあなた方はどうして魔王に?」


「まぁ色々と」


「色々だねー」


「色々でよ」


「魔王は?」


「吾輩に聞かれても。それこそスピリットは人以上ですけど」


 実際に魔術の才幹で言えば彼はクラリスと並んで異常事態だ。学院というか、そのスポンサーたる王国と帝国を敵に回して戦える存在。それこそ大貴族ゴッドフリートですらニトログリセリンの扱いになるほどの腫れ物でもあった。


「人望在るんですね」


「吾輩の人徳かね?」


 そこはちょっと分からない彼で。でもたしかに魔王は今こうして此処に居る。


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