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第27話:エピローグ


「退院おめでとうございます」


「ええ。お世話になりました」


 春の退院日和。花の咲く頃にアリスは面倒を見て貰っていたナースさんに一礼した。


「さてそれでは」


 病院を出ると、


「大丈夫? 師匠?」


「御苦労様です」


「ケタタタ。めでたいでよ」


 かしまし娘が花束を持って立っていた。


「君たちも律儀ですね」


「それなりにですね」


「ていうか師匠は無事なの?」


「後遺症も残らないみたいで。さすがにマテリアルに関してはスピリットと違って門外漢ですからねぇ」


「火焔魔王……グランギニョル」


「いやさ隠したわけでもないんですけど精神的な健康を鑑みて言い出せませんでした」


 今では知れ渡っている。神話の時代の魔族だ。無論人類にとって面白いわけもない。


「さすがに居られませんかね?」


「その場合ピアも居られないんだよ」


 春風のそよぐ中、穏やかに少女が述べた。白金色の髪が揺れる。


「無茶苦茶やりましたしね」


「だねー」


 ソレについてはお互い様で。


「アリス様はよろしいので?」


「んー。微妙。人間の風情については今もよく分かってはいませんし」


「中々に難儀な人ですね」


「だからピアは師匠を嫌いになれないよ?」


 スピリットの問題で言えば、彼は人類の総意に荷担していない。


「だからって懐くのもどうかと」


「師匠にはもっといっぱい教えてもらわないと」


「たとえば?」


「オメガ級とか」


「吾輩の二の舞になりますよ」


 そのオメガ級を使ってマギバイオリズムを失調したのが今回の入院の原因だ。


「なんにせよアリスっちが無事でようござったでよ」


「学院にも迷惑掛けました」


「そっちはまぁ大丈夫でよ~」


「うーん」


 南無三。


「魔王様的には今回の件はどう思うの?」


「人間ってややこしいですね」


「それはまぁ」


 ああ、聞くんじゃなかった……とピアが脱力した。


「で、貴君らにとっても距離を取らなくてよろしいので?」


「別段気にすることでもないよー」


「ですね」


「うっちはまぁでよ」


「剛毅な御方……」


 彼としても嘆息くらいはする。花束を受け取って、学生寮まで歩いた。かしまし娘もついてくる。


「おい」「あれ」「星乙女が」「魔王だって」


「衆人環視がうるさいんだよ」


「むしろあっちの方が妥当な反応なんですけど」


「師匠はピアを助けてくれたよ?」


「それはまぁピア嬢ですから」


 別に慈善事業のつもりもない。


「カオス嬢とクラリス嬢も同意見で?」


「周りの空気よりは好意的ですよ」


「なにせ面白そうでよ~」


 こっちも中々だった。


「ではこれからも仲良くしてくださって?」


「それはもう」


「んー。火と従属性に関しては学ぶこともあるんですけど」


「魔王だしね~。ケタタタ!」


「思想的に大丈夫なんでしょうか?」


「魔導文明的には活力になることを概算されているようで」


「然程の存在でもないんですけどね」


「じゃあ何か魔術使って!」


「退院即時にソレを言いますか貴方」


 マギバイオリズムそのものは回復もしているが。


「よくもまぁこんなポンコツな性能で魔術を使おうとしますよね」


「便利だから」


「というか即物的ですし」


「ついでに便利でよ」


「うーむ。無念」


 市場通りでリンゴを一個買う。シャクリと囓った。甘味が口内に浸透する。みずみずしさはいっそ幸福だ。


「こういうところは人間の醍醐味なんですけどね」


「じゃあアップルパイ焼いてあげる」


「ほほう」


 ピアの意外な特技。


「だから魔術を教えて?」


「別に利を示さなくても教えるんですけど」


「そこは師匠が好きだから!」


「吾輩も好きですよ」


「にはは。照れる」


 アリスがどういう意味で好意を示しているのかは、さすがに一緒に居るので覚えている。そんなつもりじゃないことを悟っても、その言葉の強みは有り難かった。しばらくあーだこーだと議論を重ねつつ都市を歩いていると、


「魔王グランギニョル!」


 鋭い声が掛けられた。もちろん魂名だ。ソッチには一人の魔術師。ついでに男。


「何か?」


「貴様を討伐する!」


「理由は聞かせて貰えるので?」


「魔族と言うだけで万死に値する!」


「あー」


「師匠は魔族じゃないよ」


 しっかりとマテリアルも持っている。だから魔術にも制限が掛かるのだが。


「シリウス嬢! 騙されてはなりません! 彼の者は偽らざる邪悪! その存在そのものが許されないのです!」


「どう思う?」


「滅殺」


「即殺」


「刑殺」


「他に無いんですか。あなた方」


 ことさら場を荒らそうとは思えないアリスだった。むしろ少女らの方が突発的な魔術師の難癖に思うところが在るらしい。それをどう止めるべきかを考えつつ、一応スピリットを練る。呪文構築は構えて、けれども心はフランクに。


「かしまし娘に嫌われたくなければ矛を収めた方が宜しいのでは?」


「貴様がソレを言うか!」


「吾輩だから言うんですけど」


 彼女らに大切にされているのは悟る様子だ。だからアリスの方も彼女らに好意的であれるのだから。


「いくぞ」


「カマン」


 中略。


「だいたいあんな感じなんですか?」


「一部の人間はですね」


「学院にもイデオロギーはあります由」


「魔族肯定派だったり否定派だったり。ネオレジェンド主義や唯一神教だったり」


「人間らしいですね」


 アリスは苦笑した。どちらかと云えば困ったと言うより、子どもの無知さに毒気を抜かれたような表情で。魔術に関しては魔王の方が人類より大人なのも違いは無いのだが。


「で、まぁ広告費としてアリス様に突っかかる商売もありまして」


「さっきの顛末と」


「ウザったいならうっちから言うでよ?」


「困ってはいないから大丈夫ですよ」


「でも師匠、人類はあまり好きじゃないって……」


「いえ。恨み辛みの話では無く。こう自己完結的に。それに」


 白金色の髪を撫でる。


「それに?」


「例外もありますし」


 魔神にも言ったこと。


「えへー」


「ですね」


「でよでよ~」


 人類の種としての好悪はあれども、個人となればまた別の話だ。そうじゃなければストレリチア陛下への義理立ても意味がないことになってしまう。


「だから嫌でなければ一緒に居て欲しいんですけど……」


 シャクリとリンゴを食む。星乙女らは穏やかに微笑んだ。


「「「もちろん」」」


 仮に魔王が此処に居たとしても。


第一話終了です。

ここまで読んでくださってありがとうございます。


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