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第110話:火焔魔王とソフィアの在処04


 上から一撃。


 交差させる形で受け止められる。


 そこから削るように刃が飛ぶ。


 一度。二度。三度。三方向から三結末まで。


「弑!」


「疾!」


 打ち合われる剣がそのまま風となった。打擲のような音をしながら剣が飛ぶ。飛燕の如き剣筋が、この場では雄弁に言葉だった。


「乱塊」


 軸回転したのは片方の得手。カオス=マクスウェルだ。


 切る気は無い。其処は汲み取れた。けれども打たれる剣撃はシャレになっていない。


「ちぃ!」


 もう片方……ガブリッチが剣を立てて受け止め、交代する。


 ズザッと砂利を擦る音が足下から響いた。


「ふむ」


「よし」


 カオスとガブリッチ。どちらも剣を良しとする存在だ。定義的に人間と呼んでいいのかも怪しい二人だが、剣士としてなら確かに一級品。


「では」


 そのカオスが語った。


「もうちょっと早く行きますよ」


 スッと前傾姿勢になる。そこから間合いは一歩だ。あまりに早い速力は、その一歩だけであらゆる距離を踏破してしまう。


「ッ?」


 ガブリッチが感じ取ったのは剣呑さにも似た不穏。けれども対処は反射で、ついでに理に適う。


「――――――――」


 首筋を狙った剣を、聖剣で叩き落とす。さらに襲い来る剣が四方から一瞬で。その間一髪分の齟齬を時間に指定して流し込む。


「――――ッ」


 都合四つの斬撃が、攻撃を全て相対させた。


「何て速さ」


「まだ上がるんですけどね」


 そう声が聞こえたときには、ガブリッチは背後を向いていた。一対一のはずなのに、容易く背後に回るカオスの速度を何と評すべきか。


渇途カット


 ゾクリ。


 ガブリッチの背筋に冷や汗が垂れる……より早く、言葉にもならない予感が彼女を突き動かす。


「――――――――」


 下段からの切り上げ。


 ――防いだ。


 そう思った瞬間に、慣性無視の一撃が頭上から降ってくる。もはやどう剣を扱っているのかも疑わしい一撃なのに、それがまた理を持つというのだから度し難い。


「く――」


「受けますか」


 そして感心したようにカオスがつぶやいた。上段の一撃を受け流してガブリッチは間合いを取っている。


「さすがは勇者ですね。人類のセレクトボタン」


「まぁ剣に関してはそうなんですけど。あまり殺人の剣を自慢できるモノでは有りませんよ。とはいえ他に得意も無いものですけど」


「勉強になります」


「言っておきますけどアリス様はこの数段上にいますからね?」


「剣では勝てるのでは?」


 魔術は互角。剣ではカオスがやや有利。それがアリスとカオスの関係のはずだ。


「命懸けならそりゃ勝てますよ。コレでも勇者ですし。魔王に対するアドバンテージはコレを確保することにある」


「では?」


「こっちにも不条理が在るように、アリス様にも奥の手が在るんですよ」


「奥の手」


「というか本気の一手ですね。別に切り札と言うほど出し渋るモノでもありませんし」


「それは一体?」


過足加速オーバーヒート


「オーバー……ヒート……」


「元々は酸素の過剰供給による人間の肉体強化みたいなモノなんですけど。アリス様は魔法として熱を操り、これをマテリアルに供給できるんですよ。要するに酸素も無いまま身体を熱して最高潮まで持っていく」


「出来ますか?」


「火焔魔王ですから」


 そこは確かにその通りでもあれど。


「剣の理は本来人間のモノです。その意味で剣を扱う技術に関してはおそらくガブリッチ様でもアリス様に勝てますよ。ただ基礎能力の点で、人間は火焔魔王に劣っている」


「勇者……カオスお姉様も?」


「私は例外です」


 ヒュンと手にした剣をふる。既にガタガタだ。それこそ刀匠レベルにならないと彼女の扱う剣を造れない。


「ところで何故ソレをわたくしに?」


「いえ。まぁ監視ですね」


「監視……」


「アリス様曰く、貴方はちょっと危うい立場です」


「何故に?」


「そもそも自分が何処から来たのか説明できます? どこで生まれここに来るまでに何をしていたのか?」


「えーと?」


「まぁ聖族なんて人類の思考の海が生んだ泡みたいなモノなんですけど」


「それもどうかと」


「なので」


 殺気無く剣を振るう。ピタリと剣先がガブリッチを指し示した。ほぼ寸先で。


「――――――――」


「マススピリット関連で言えば、貴方は錬金魔王グラジエルに繋がっている可能性がある……とのことで」


「ミカエリお姉様を慕うわたくしが?」


「いったい向こうも何考えているんでしょうね」


 そこはカオスにも分からなかった。


 とりあえず錬金魔王の暗躍に於いてもっとも必要なのはその行動目的だった。ガブリッチがその根幹に近いというなら、手放すのも手では無い。


「ところでミカエリお姉様は?」


「寮で食事取ってるんじゃないですか?」


 実際にその通りだった。


 ここでは食事も無制限に食べられる。


「何故に貴方はミカエリ様に惹かれたので?」


「輝かしいから」


「ふむ」


 思案気な表情。けれどもわからないわけではない。ミカエリは不死身だ。それもマテリアルごと。その根幹が那辺にあるかはよく分からないとしても、普通にアリスたちと付き合ってると五回か六回は死んでいる。それをしぶとく息をしているというのだから、「何故よ?」と云う話にもなり。


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