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第100話:火焔魔王と幸せの粉08


「変態変態変態だよー!」


 バン! とピアが寮部屋の扉をバンと開いた。


「ん?」


「はー」


「~~~」


 今日は学院は休みだ。アリスはカオスとチェスをしていた。クラリスは寝ている。


「で、何が変態なの?」


「師匠が!」


「あの。いきなりでアレなんですけど何故に吾輩がその十字架を?」


 たしかに彼は何もしていない。まぁ魔術に関しては確かに変態な処はあるが、この部屋にいる人間はだいたいそうだ。アリスだけがその称号を独占するのは無理がある。


「教会が来てるの!」


「教会……」


「師匠を引き渡せって!」


「ああ。大変ですね」


 要するに言い間違えだ。大変だと言いたかったらしいが、焦りのあまり変態になったらしい。そんなことはどうでもよくて。


「吾輩が? 教会に? 霊長教会ですよね?」


「だよー」


「何かしたので? アリス様」


「仮に真実でもこの場合は何もしてないって言うと思うけど」


「ですよね」


 そこはカオスも分かっているらしい。


「で。出頭しろと?」


「うん」


 ピアの目は泳いでいた。


「いいんですけどね」


 アリスにしてみれば別に後ろ暗いことも無い。信仰厚い信者とは口が裂けても言えないが、だからといって教会に不利益をもたらしている自覚も無かった。


「私もいきましょうか?」


「ピアも!」


「大丈夫ですよ。戦争するでもあるまいに」


 そんなわけでアリスは教会に出頭した。






「たまに思うんですけど」


 そんなわけで学院都市の都市側にある大聖堂にアリスは招かれた。


「スラム街でひもじい思いをしている信者と大聖堂で悠々自適に暮らしている教徒ってなんで殺し合わないんでしょうね?」


 精密な建築と豪奢な装飾。大聖堂は其処に居るだけで萎縮するほどの威厳に満ちていた。


「それが愛ですから」


 とは、とある教徒の言葉だった。ホットミルクを飲みつつ、アリスは拝謁の部屋へと誘導される。そこには教皇代理がおり、こっちを睨んでいた。王国と帝国の中間地点。要するに緩衝地帯だ。当然その政治配慮は宗教が最も無理が無い。


「貴様が火焔魔王グランギニョルか?」


「お人違いですね。アリストテレス=アスターと申します」


「そう聞いている。何故魔王が現し身を得た?」


「実は吾輩もそれが謎でして」


「何を企んでいる?」


「世界征服?」


 すっ惚けるように答えると、


「――――」「――――」「――――」


 周りの教徒が殺意を漲らせた。


「ジョークです」


 囲まれ、椅子に座らされ、素っ気ないテーブルにミルクの入ったカップを置く。


「麻薬を流しているらしいな。それも人が魔に堕ちる……」


 これは代理ではなく教徒の言葉。


「何を根拠に」


「神託機関が告げた。魔王が復活し、この都市に大災害を起こすと」


「たしかにやって出来ないではないですけどね」


「やはりそうではないか!」


「ところでその神託機関って何よ? 信頼できるので?」


 カップを傾けつつ教会批判。


「神託機関は未来を読み解く御座です。その奇蹟はときに人類の光明となる」


「神秘なので?」


「ええ」


現代魔術モダン?」


「失敬な!」


「でもじゃあ魔に依らない奇蹟って何よって話で」


「ぐ」


 教徒が呻いた。


「その神託機関が未来を予知して吾輩が暴れると?」


「だろう。火焔魔王グランギニョル」


 武装司祭が十字架型のハンマーを取り出した。教会の持つ神性武装だ。魔を打ち破るという魔を顕現するのだが、政治的には聖なる力で魔を滅するとされている。


「あの。暴れる気は無いんですけど自衛行動の結果なら責任取りませんよ?」


「つまりこっちから攻撃しなければ暴れないと?」


 教皇代理が確認する。


「吾輩とて今更人類愛を否定したりしませんよぅ。何せ両親が居ますし。たしかに火焔魔王が人に滅ぼされたのは事実ですけど、それを恨んでいると吾輩一言でも言いましたか?」


「むぅ」


「なわけで審問するなら付き合いますけど戦争するなら手加減はしませんよ」


「代行殿! 殺しましょう!」


「そうです! 魔王など!」


「……………………」


 アリスは何も反論せずにホットミルクを飲んでいた。


「いや。此処では駄目だ。大聖堂内での流血は許可できぬ」


「そんな理由」


 別の場所なら良いのか……とは思ってもしまうモノで。


「魔王。貴殿を信じても良いのかね?」


「いえ。まぁ。神託が正しいのなら正当不当問わずにやるんでしょうけど」


「つまり貴殿が暴れるとしたらやむにやまれぬ状況……」


「そうなりますね。こっちから仕掛けることは……絶対とは言えませんけど霊長教会にケンカ売るほどヒマでも無いので」


「だが蛇はタマゴの内に殺せという」


「危機だと思ったら排斥して良いですよ。ただしカウンターについては常にリスクを計算をしてもらいましょうか。別に殺しを肯定するわけではありませんけど、自分が生き残るためなら大抵の威力は相応持ちますから」


「此処で死ね!」


 司祭が叫ぶ。


「だから死にたくないんですって」


 アリスはカップを傾ける。


「で、結局神明裁判に掛けるので? 一応吾輩、今は何もしてないんですけど」


「それは……」


 教皇代理にもどうすればいいのか分からないらしい。というか此処で襲っても返り討ち。かといって放置すれば大災害。どうすれば良いかより責任の帰結の問題だろう。


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