第二話「はじめてのメール」第5節
避難中の藍と別れた後、佳波はフロアを走り抜け、従業員専用の区画を目指した。
そこから狭い階段を駆け下り、目的の場所へ向かう。
空調がうまく機能しておらず、まとわりつく熱気が不快さを増していく。階段の一番下までたどりついたところで、佳波は汗を吸って重たくなった上着を脱ぎ捨てた。
シャツの乱れを整えながら、大きな息をひとつ吐く。気を抜くと、頭痛を意識しないではいられなかった。昨日から、この施設内にいる時の鈍い頭痛と圧迫感は強くなるばかりだ。佳波は奥歯を噛みしめ、その重い痛みを誤魔化そうとした。
少し遅れて、藍の通う高校の制服姿の金髪少女----マイブリットが追いついてきた。
「アンタ、いつまでついてくるのよ。部外者なんだから、でしゃばらないで避難してなさい」
佳波は荒く告げる。
本来であれば施設を訪れた客の一人なのだから、丁寧に対応するべきかもしれない。だが、藍から紹介された時に感じた妙な違和感とあわせて、汗ひとつかいていない涼し気な顔を見ていると、気が立ってしまった。
「そうもいかない。わたしにも事情がある。それに、キミよりはこの事態について把握しているつもりだ」
「ふーん、この火事騒ぎの原因がわかっているってワケ?」
「この騒動には、ある特殊なエネルギーが関わっている。このあたり一帯でそのエネルギーの流れが乱れていて、電磁波と似た性質の影響で施設の電気設備にも負荷がかかってしまったのだろう」
嫌味を含めた佳波の問いに、マイブリットは事務的な口調で返してきた。
「それって……」
予想外の回答に、佳波は素直に先を待った。強さを増した鈍い痛みをこめかみあたりで感じ、顔を顰める。
「そのエネルギーは人の思念にも影響を与える。個人差はあるが、頭痛やバイオリズムの乱れからくる体調不良、知覚認識の活性化といったところだ。覚えがあるんじゃないか?」
碧い色の瞳には、疑問ではなく確信の光が宿っている。佳波は小さく舌打ちした。
「龍脈のこと知ってるんだ……アンタ、やっぱり一般人じゃないわね」
「龍脈? ああ、ここではそう表現したほうが共有しやすいか。それを知っているのは、お互い様じゃないかな」
「ホント、いらつくわね。……まあいいわ。とりあえず、アタシの邪魔だけはしないでよね」
問い詰めたいことはたくさんあったが、今はのんびりしている余裕がない。佳波は先を急いだ。
分岐のある通路を進み、目的地である金属製のドアの前で立ち止まった。
「ここよ」と、佳波はマイブリットに顎で示し、IDカードを電子ロック機器にかざした。ドアに記された数字はともかく、英語の意味をマイブリットは理解してくれるだろう。マイブリットはタブレット端末で何かを調べているようだった。
「そのようだな。計測値も、かなり強い反応を示してる。早く開けてくれないか」
「わかってるわよっ。でも、カードキーが反応しなくて」
電子ロックの読み取り部分に何度もIDカードを通すが、エラーの表示ばかりで、解除されない。佳波が悪態をつくと、ドアの前へ割りこんできたマイブリットに片手で押しのけられた。
「こじ開ける。少し離れていてくれ」
「はあ? 何言ってんの。ここのドアはぶ厚い鋼鉄製の----」
佳波を無視し、マイブリットは短い気勢とともに蹴りを放つ。動きの少ない単純な前蹴りだったが、ドアは轟音とともに大きく傾き、倒れこんだ。
「……開いた、わね」
呻く佳波。ドアの表面はへこんでおり、金属製の太いロック部分は完全に折れていた。
この細身の金髪少女は気にくわないが、必要以上に神経を逆撫でするのはやめておいたほうがよいかもしれない----佳波は考えを少しだけあらためた。
マイブリットに続いて室内に入った佳波は目を疑い、後退りした。
広い空間に並んでいたキュービクル----受変電設備の群の計器類はどれも不安定な状態を示しており、ランプのいくつかは割れている。そこかしこで火花が発生し、天井の照明には機能していないものもあった。設備自体の発熱か、室内の温度は異常に高くなっており、警報音が響きわたり、赤色灯が激しく明滅を繰り返している。
「ちょっと、なによこれ。」
佳波が動揺を隠せないでいると、マイブリットはキュービクルを一瞥して部屋の中央へと進み出た。
「アンタ、なにやろうとしてんの?」
「わたしにも役割がある。キミは、この設備を制御できないか調べてくれ」
マイブリットは佳波に背を向けたまま、携えていたトートバッグから機械類を取り出していた。学生カバンくらいの容量にしか見えないバッグだったが、出てきた機械類の多さは明らかにつりあっていない。それらの機械類は形状もサイズも様々だが、回路やケーブルが剥き出しのままとなっており、何を目的としたものなのか佳波には見当もつかなかった。
「アタシに命令すんな!」
反発しつつ、佳波は何度か目にした巫女風の少女の姿に気づいた。
これまでは佳波が目をこらすようにした時にかろうじてとらえられていたものが、今は部屋の奥の隅でノイズをまとった映像のように濃くなったり薄くなったりを繰り返している。訴えかけるように悲しそうな表情で口を動かしているが、佳波には何も聞こえない。
佳波は苦いものをこらえるしかなかった。マイブリットにも見えているのではないかと思ったが、そのような素振りは見受けられなかった。
佳波は部屋の隅にある管理用端末へ駆け寄った。管理者用パスワードを入力してから操作を試みるが、端末は正常な反応を示さない。佳波は画面をたたき、非常用として置いてある、ぶ厚い紙のマニュアルのページを繰っていった。
目次や逆索引をあたりつつ、横目で様子をうかがう。マイブリットは機械類を展開した後、タブレット端末を操作していた。機械類の役割はまったく予想がつかないが、工事現場や実験室に置いてある観測系の道具のような印象がある。
「なんなのよ、アイツ……」
藍が友人として紹介したマイブリットをどのように評価すべきか、佳波は困惑していた。初対面の挨拶の時に感じた妙な違和感と、先ほどの話で触れた一般にはあまり広まっていない知識----油断してはならない相手であることは確実だが、敵意はなさそうだ。
今のところは判断材料が少なすぎる。佳波はそう結論づけ、紙のマニュアルに意識を戻した。だが、得られるものはなかった。
「ダメ。管理用の端末は反応しないし、手がかりになるようなものは見つからないわ。そっちは?」
「こちらもお手上げだ。用意してきた装備での許容量をこえている。このままだと、臨界点をこえて爆発を起こしかねないな」
嫌味なほどに淡々とマイブリットが告げる。容認できない警告に、佳波は考えこんだ。無意識のうちに親指の爪を噛みながら、巫女風の少女を横目で見てしまう。何か伝えようとしている少女とせめて言葉がかわせたら、と悔しさがつのる。
「ここは放棄しよう。避難は完了しているはずだから、人的被害だけはゼロにおさえられるはずだ」
「それはダメ。この施設の電気設備は、変電所と特殊な構造でつながってるの。ここでなにか問題が起きたら、変電所にも影響があって、町への電力供給がストップするかも」
このロカーラは災害の際の避難施設となっており、ライフラインの維持だけでなく様々な状況に対応できる設備を備えている。それらの設備に関して、佳波は専門的な部分をすべて把握できているわけではないが、電気関連の担当者からいくつか警告を聞いていた。この予測はそのうちのひとつだ。
町全体を巻きこむ突然の停電など、避けなければならない。
佳波はもう一度、紙のマニュアルを手早くめくっていった。緊急時の対処法ではなく、設備の基本的な構造を示す項目の部分で手が止まる。
難しい部分は斜め読みするしかないが、変電所と町とを結ぶラインから分岐してここのシステムへ電力を供給するケーブルの接続方法が記されている。いくつかの処理を経た状態で、複数の太いケーブルを専用のソケットへ差しこむと、安全レバーが動いてロックされるようだ。これを逆の手順で操作すれば、変電所と町へは影響なくこの施設だけを物理的にカットできるかもしれない。
この思いつきがうまくいくものかどうか佳波が再検討していると、「ひとつだけ、方法がないこともない」とマイブリットに声をかけられた。マイブリットはタブレット端末を操作しながら続ける。
「たまったエネルギーをアースのようにどこかへ飛ばす方法が使えれば、一時的にしのげるはずだ」
「そんなことできるの?!」
「ただ、現状では情報が不足していて、成功する保証がないんだ。だから----」
「なによそれ。もういい、アタシが何とかする」
淡々と告げられ、期待を裏切られて頭に血がのぼった佳波はマイブリットの言葉を遮った。
部屋を横切り、奥にあったひときわ大きな金属製のドアを開ける。中には、マニュアルに示されていたように、数本の太いケーブルが接続されていた。いくつもの計器が不安定な表示を繰り返しており、目立つ位置に大きな安全レバーが二本下がっていた。
ドアの裏側に収納してあった絶縁手袋を身につけ、一度深呼吸する。マイブリットが「待った!」と制する大きな声をあげたが、佳波は無視して二本のレバーを押し上げた。レバーの力でケーブルを強引に排除して、ここのシステムへの電力供給を遮断する----はずだった。
二本のレバーは最上段の手前で、なにかの力で押し戻されるように動かない。
佳波が全身の力をこめて押しこもうとすると、まるで抗うかのように、目の前のパネル全体から激しい火花が散った。危険を感じて離れようとするが、手がレバーに吸いついてしまったかのように、身体が硬直して動かない。
「ちょっと……」
視界いっぱいに熱と閃光を感じて反射的に目をかたく閉じた時、佳波は横から強い衝撃を受けて倒れこんだ。火花が連続して爆ぜる高い音が、佳波の耳に届く。
「いったぁ……なんなのよ、もう」
悪態とともに身を起こした佳波のすぐそばで、マイブリットが片膝をついてしゃがみこんでいた。苦しそうに顔を歪め、腕のいたるところに水泡と赤いみみず腫れが浮き出ている。
「アンタ……」
「話は最後まで聞いてくれ」動揺する佳波を無視し、マイブリットは言葉を続ける。表情こそつらそうなものの、口調は冷静なままだった。
「エネルギーの流れを逃がせそうな場所の情報が不足しているだけなんだ。時間もないから、明星高校へ流す。あのあたりなら力場的に強いし、ここよりはもちこたえるはずだ」
佳波は、頷くことしかできなかった。マイブリットの視線を受け止めることができず、つい彼女の腕のほうへとそらしてしまう。火傷であろうその傷口からは、血が滲み出ていた。集まった血が、赤い筋となって腕を伝い始めている。
急いで治療をしなければと気が焦るが、ここに応急処置の道具はない。早く外へ出て救急車を呼ぶべきだとわかっているが、この場所を放っておくわけにもいかない。
判断しきれずに困惑しきっていた佳波は、「おい、聞いているのか?」マイブリットに大声で尋ねられ、我に返った。
「他に、エネルギーの放流先として使えそうな場所に心当たりはないか? このあたりの龍脈と関係がありそうな地域は?」
「な、なによ。急に言われたってそんなすぐには……」
「いわくのありそうな建物でもいい。古い神社や祠とか」
祠----その言葉を聞いて、佳波の脳裏にひらめくものがあった。反射的に、巫女風の少女の姿を探してしまう。少女は、佳波と目があうと、静かにうなずいた。
何故今まで忘れていたのか。この巫女風の少女は、あの祠と関係があるに違いない。
「あるわ。大きくないし、今は寂しくなっちゃってるけど、歴史のある祠が」
佳波は断言し、明日羽橋のそばにある祠の名前を伝えた。由来は佳波も朧げにしか把握できていないが、このあたりでは最も古い史跡のひとつで、龍神を祀っていたという話もある。佳波は幼い頃に何度か祖母たちと訪れたことがあり、その時に少女と似た装束の女性が何かの役を務めていたような記憶がわずかに残っている。
「その祠の場所ならわかる。信じるぞ。間違いないんだな」
マイブリットが念を押すかのように確認する。その態度に佳波は反発した。
「この状況で疑うっての? そこの巫女さんがここにいて、そう言ってるの!」
直接言ってはいないが、あの反応は認めたと同じことだろう。
「ここに……? キミ、まさか思念体が視えるのか?!」
マイブリットが手を止め、驚きの声をあげる。佳波は内心で舌打ちした。迂闊なことを言ってしまったかもしれないが、もう遅い。今はうやむやに誤魔化すことしかできない。
「今はそんなこと気にしてる場合じゃないでしょ!」
「た、確かに」
狼狽したように見えたのも一瞬で、マイブリットは再び手を動かし始めた。機材のいくつかを床に再配置し、タブレット端末を操作する。機材のそこかしこで小さな光が点滅したり、機械的な構造が複雑な動きを示したりしていた。
マイブリットの迷いのない動きには、ケガの影響は感じられなかった。それどころか、流れていた血もすでに乾きつつあり、水泡や傷の赤みも薄らいでいるようにも見える。
まさかね、と脳裏にうかんだ奇妙な考えを佳波は否定した。周囲で起きる放電現象による視界のちらつきや不安定な赤色灯の明かりによる錯覚だろうと結論づけた。
かばってくれたという負い目もあり、マイブリットの負担を軽くしてやらなければならないと感じた。
「ねえ、アタシに手伝えることがあれば----」
突然、天井の照明がすべて消えた。赤色灯と計器類のランプ、放電による火花たちが、趣味の悪いイルミネーションのように闇の中に浮かび上がる。どこかの配線が破損したのだろうか。
佳波がライト代わりにしようとスマートフォンをポケットから取り出すと、視界が明るさを取り戻した。だが、本来の強さではない。自動的に非常用LEDが役割を果たし始めただけだ。おそらく、施設全体の天井照明が同じ状態だろう。
「避難活動に支障が出てないといいけど」
外の様子が気になる。佳波はスタッフに連絡しようと思ったが、電話はつながらなかった。スマートフォンの画面を確認すると、電波状態が圏外を示している。
この部屋は地下だが、携帯電話用の電波が問題なく届くはずだった。この騒動の中でどこかが壊れてしまったのだろうか。画面を見ながら考えていると、スマートフォンの背面と接している掌に熱が伝わってきた。佳波はスマートフォンの電源をいったん切ってから、再び入れなおした。
「まずいことになった」
唐突にマイブリットが告げる。佳波が顔を上げると、マイブリットが顔を顰めていた。
「アイ一人が避難できていないようだ。意識を失っていて、血中の酸素濃度も危険な領域に近づいている」
「なんでアンタにそんなことがわかるの?」
「説明している時間はない。わたしはここから動けないから、代わりに助けに行ってもらいたい」
マイブリットは佳波の返事を待たずに、藍がいると考えられるおおよその場所を告げる。4階の、隣の棟への連絡通路があるあたりだった。
「代わりにってところが気にくわないけど……アンタだけをここに残して大丈夫なの?」
「責任は果たす。アイに恥をかかせるような真似はしない」
マイブリットの返事は短かった。佳波を見すえる碧い瞳は真剣なものだ。この少女が何者なのかわからないままだが、少なくとも藍の名前を出すことで矜持を守る覚悟はあるようだ。
佳波は軽く息を吐き、少しだけ肩の力を抜いた。
「今だけは信じてあげるわ。アンタにはいろいろ訊かないといけないんだから、失敗したら承知しないわよ」
佳波としては励ましのつもりの言葉に、マイブリットは小さく頷く。佳波は部屋から飛びだす際に足を止め、部屋の奥へ視線を投げた。巫女姿の少女は安心したかのように、微かな笑みを浮かべていた。
「ごめん! 終わったら祠に行くから」
言い捨て、佳波は先を急ぐ。
従業員専用区画の通路と階段も非常灯のみの弱い灯りのため、視界は悪かった。煙が充満しているだけでなく、温度と湿度も上昇している。4階にたどりついた佳波は息を整えつつ、汗で重くなった黒髪をかきあげた。頭痛がさらにひどくなってきていたが、まだ我慢できると自分に言い聞かせる。
テナント区画へつながるドアを開けると、焦げ臭さをはらんだ煙が通路へ流れこみ、佳波はむせてしまった。
「このフロア、特にひどいわね」
十歩先ぐらいまでしか見通せない。おまけに煙が目に染みるせいで、長時間開けていられなかった。佳波は片方の目を交代で使いながら、フロアを進む。フロアの構造と出店テナントの配置を覚えていることが助けとなった。
「藍、聞こえてたら返事して!」
佳波は声を張り上げるが、反応はない。
ふいに、佳波は強い震動を感じた。足元ではなく、周囲の空気全体の震えのようなものだ。過去にも何度か覚えのあるその感覚に、佳波は身を固くした。その直後、施設全体がきしむかのように一度だけ大きく揺れる。佳波がバランスを崩すほどではなかったが、店頭にある不安定な展示品の中には倒れれるものもあった。
近くにあった店先の小さな看板に明かりが戻る。
店内の照明、そして天井灯が次々と回復し、やや青みがかった白い光の中で、たちこめていた煙が勢いよく流れていくのが見えた。
空調が全力で働いている音も聞こえる。じきに、この煙も吐き出されていくだろう。
「なんとかやってくれたみたいね」
心の中でマイブリットに感謝しつつ先を急ぐ佳波は、スマートフォンが震動していることに気づいた。ポケットから取り出すと、電波状態が回復したらしく、たまっていたメールやメッセージがいくつも受信されている。その中に藍からのものを見つけ、まっさきに内容を確認した。それは、佳波を気遣う短いものだった。
「アタシより自分のことを心配しなさいよ」
佳波は走りながら、藍の番号へ電話をかけた。意識を失っているらしい藍に少しでも刺激を与えることができれば、という思いだった。
少し間を置いて、軽いテンポの着信音が佳波の耳に届く。それは、佳波の向かう先からだった。その音を頼りに進んでいくと、隣の棟へつながる通路の閉ざされたシャッターの手前で倒れこんでいる藍の姿を発見した。
佳波は駆け寄り、藍に何度も呼びかける。口元に耳を近づけると、呼吸音は感じられた。最悪の状態ではなさそうだ。安心した途端に佳波の中で張りつめていたものが切れ、全身から力が抜けてしまい、へたりこんでしまった。
佳波はスタッフに電話をかけ、現状の説明と救急隊の派遣を要請した。避難エリアでの混乱や問題はなく、確認できた範囲では物理的な被害は発生していないらしい。
「約束どおり責任は果たしてくれたみたいね。……いったい何なのよ、アイツは」
佳波は藍に問いかけた。もちろん、藍からの反応はない。マイブリットを捕まえて、いろいろと問いたださないといけない。藍の身柄を救急隊に引き渡した後で、佳波はあの部屋へ戻るつもりだった。
佳波は、ここ数日感じていた圧迫感と頭痛がすっかり消えていることに気づいた。確証はまだないが、今回の騒動とも関係があったのだろう。
「龍脈、か……せっかく忘れてたのに」
大きなため息をつき、立ち上がる。少し離れた壁の陰に設置されているパネルを操作すると、シャッターが上がっていった。
煙が薄らいでいく中、救急隊がこの場にたどりついたのは、それからすぐ後のことだった。
--つづく--