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森の王と力の秘密

魔力酔いで高熱を繰り返す日々。どうして、こんなに苦しいのだろう、辛い、悲しい、痛い、そう叫ぶ体と心。子供だったから、我慢が出来なくて泣き喚くしか能がなかった私は、私以上に苦しい顔をするお父様やお母様、兄様達に謝り続ける。

だって聞いてしまったの、魔力酔いにこれ程苦しむ子供は見たことがない、何か良くないモノの呪いに違いない。

家族を特にお母様を責める親戚が嫌い。

夢の中で私は、ひたすらに神に祈っていた。


私が苦しむとお母様もお父様も兄様達も悲しむの。

家族には笑って欲しいのに。

魔術が上手く使えない子供だから、体を破って出てこようとする魔力に体が抗えない。

苦しいよ、悲しいよ……。


ある日、とても体の調子が良い日に屋敷の裏の森に入った。お母様の好きなベリーの群生地をリドが教えてくれたから。

沢山とって、お母様に喜んでもらうの。

お母様の作るベリーのタルトは絶品なのよ、なんて仔犬のリドに話してたから、見つけてくれたんだと嬉しかった。

木漏れ日がベリーの木を照らしていた。

私は、その場で傷付いた小鳥を見付けた。

「あなた、怪我をしてるの?怖がらないで、私は、ファティマ、ファティマ・ロイエンタールよ、」

逃げようとする小鳥。でも翼の根元から血が流れていた。

「お母様がね、私は、よく転ぶからって、傷薬を持たせてくれているのよ、お母様のお薬はとっても効果があるのよ」

お母様の魔力が練り込まれた特製の傷薬。

「あなた、とっても綺麗ね。」

見た目は真っ黒で怪我をして汚れてるけど、木漏れ日が照らす所は七色に輝いている。

「お日様に当たるとキラキラしてるわ、雨上がりの虹みたい!」

幼い私は、小鳥の手当てをしながら、自分の家族のこと、魔力酔いのことを話した。

にしても、なかなか治らないな……。魔石持ってきてたら、軽い治癒魔術使えたのに。

額に汗が滲む。

治れ、治れ、と唱えていると小鳥が心配そうな目を向けていた。

「私に魔術が使えたら、こんな傷、直ぐ治ったのにごめんね、」

情けなくて泣けてきた。

感情の蓋が外れたようで汗に涙に鼻水に顔はぐちゃぐちゃだろう。何だか霞む視界にキラキラとした光の粒が降りてきた。雨?

目眩のする頭を上げて空を見ると、木漏れ日から虹色の光が降りてきた。

「綺麗な虹。虹って、お空から降ってくるの?……綺麗ね…こんな虹が出せるようになったら、お母様やお父様も笑顔になるかな?」

ふと呟いた言葉に返事が返ってきた。

『虹は、空くじらの好物だ。』

「傷、治った?嬉しいっ!お母様の薬は凄いわ!……空くじらってなに?」

小鳥は掌の中で姿勢を正した。

『空くじらは南の精霊王の乗り物だ。空くじらに乗った父上が、私を探しているのだろう。』

空を見上げても”くじら“は見えなかった。

「まぁ、じゃあ、あなたは精霊の王子様?じゃあ、お迎えが来たのね?」

心から良かったと思った。

『また、会いたいか?』

なんかふわふわする。

「うん、……だって、あなた、綺麗だもの。私の灰色の髪とは違って。」

『じゃあ、空くじらを呼ぶ魔法を使えるようになればいい。』

首を傾げた。

「魔法?」

『あぁ、その魔法を使えるようになれば、君は魔力酔いなんて起こさなくなる。』

「本当!?お母様やお父様を悲しませなくてすむ?」

傷が癒えたのだろう小鳥は羽ばたいた。

『父上が満たした力は、虹魔法だ。大人になった誕生の日に魔法を使え、空くじらで迎えに行く。』

小鳥は舞い上がる。

「小鳥さん、あなたの名前は?!」


私は、甦った記憶に震えながら、駆け出した。

中庭に続く扉を開ける。

外は、雨の匂いがした。

霧雨は降り続いているけど、暖かく、優しい虹色の光が上空を覆い尽くしている。

真上には、大きな魚。

「…空くじら?」

天に手を伸ばし、広げた。

ふわりと優しい何かに包まれた。

「ファティマ……。」

優しくも淡く香る花と雨の匂い。ポロポロと溢れる涙と霧雨が混ざる。

暫くそうしているとサイモンの煩い声がした。

「な、なんだ!その男は!お前こそ、不貞を!」

しかし、サイモンの顔を確認する間もなく、どよめく周囲の喧騒が聞こえたけど、抱き締められていて分からない。


一時間の休廷の後、私は、彼に伴われて入廷した。

彼は、自分の瞳の色である青のドレスに着替えた私に満足そうだ。サイモンも侯爵様も10歳くらい年をとったみたいな顔をしていた。

向こうの弁護士は苦笑いしか浮かべていない。

「では、南の森の王よ、ファティマ嬢の力についてはあなたの関与があると?」

質問したのは裁判長だった。

「私は、幼い頃、南の森で悪しき魔獣に傷を負わされ傷付いていた。その時に現れたのがファティマだった。彼女は、母君から貰った傷薬を塗ってくれたが、悪しき魔獣からの傷は、治らなかった。彼女はその事に気付いたのか、無意識に治そうと自身の魔力を指先に込めて私に注いでくれた。」

記憶が蘇る。

「私の受けた傷は、命を削る程のものだった。仲間を守るために負った傷だ、死をも覚悟していたが、彼女は無意識に自身の魔力を空にするまで使い傷を治した。このままでは、彼女の魔力が尽きた体は機能を停止し、消えてしまうと言うところで父上の迎えが来て、彼女の空になった魔力を精霊の持つ魔力で埋めることで命を繋いだ。父上からすれば、純粋に私を助けようとした彼女の気持ちを汲み取ったのだろう、その称賛に値する行為に対してな。しかし、体の中にあった魔力の質が変わってしまった彼女は、お前達の使う魔術が読めなくなってしまった。精霊の魔力は、魔石や魔術陣などを媒体に通すことで使用できるが、ファティマが成人するまでは力が安定しない。人の体に精霊の力が根付くまで私は、彼女が眠っている間しか会えなかった。」

えっ?寝てる間?

「ファティマ、君の寝顔は可愛かった。」

ちょ、ちょっと、恥ずかしいっ!


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