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これは、なんの拷問ですか?!

御令嬢、御婦人方が退廷した。前もって弁護士から聞いていてお母様や叔母様は、裁判所に私の一時退廷の許可を貰いましょうと言ってくれたが、当事者なため許可はでなかったし、私も覚悟を決めた。退廷していくお母様の目が不安そうだった。

なんか、本当に迷惑だと思った。

中庭側にあるガラス窓に雨粒が当たり出していた。そう言えば、今日は雨が降るとレインバードが嬉しそうに歌っていたなぁと現実逃避。

男性諸君の中には夫人に付き添い退廷するものもいたが、好奇心には勝てなかったようだ。

「ねぇ、サイモン、どういうこと?何なの?」

立ち上がったユーコは、我に返ったのか、再び席に座り、呆然とするサイモンをゆさぶっている。

「では、開始します。」

映し出されたのはイチャイチャする2人の姿と声。

楽しそうにじゃれ合う2人は服を脱ぎ、キスを交わし……(自主規制)

私は、なんと言うか当事者なので、退廷は叶わなかったが途中から下を向き耳をふさいだ。

「おおっ!」

と言う男達のどよめきが塞いだ耳の隙間から聞こえて、なお一層力を込めた。途中、ユーコの悲鳴とサイモンの叫びが上がり映像は消された。

静まる法廷。

退廷していた人達が戻ってきた。法廷内の様子に動揺が走る。ユーコは蹲って泣いているし。

「こ、こんな、ユーコと私を貶めて楽しいかっ!」

サイモンの叫び。

父であるオーランド侯爵は今にも倒れそうだ。

「楽しい?んな訳あるか!自分達の不貞をさっさと認めてれば、ここまでするつもりはなかったんだよ!」

弁護士の喝に法廷が震える。

再び木槌がなった。

「失礼、さて、お気付きの方もおられるでしょうが、学園の木々が桃色に色付いております。今は秋の始め、つまり、随分前から侯爵御子息は、ファティマ嬢に対して不誠実極まりなかったと言うことです。強請の金を出し渋るから、いや、魔石の処分なんて嘘を信じるから、いやいや、神聖な学園の倉庫で変なことをするから、こういう目に遭うのです。ま、この視聴魔道具は、学園の優秀な魔獣が学園未登録の魔道具の気配を察知し見つけたのでございます。あんた達、痛い目に遭ってるのに、懲りずにその後も乳繰り合ってたんでしょ」

ユーコが倒れた。運ばれていく。全く、こっちも倒れそうだよ。

真っ青な顔をしたサイモンを余所に侯爵側の弁護士は大きなため息を吐いた。

「これは、もう……言い逃れはできませんが、………ファティマ嬢が無能であることは確かだとのこちらの意見に対してのそちらの考えをお聞かせ頂きたい。」

少しでも違約金の減額をもぎ取る方針へ変えたのだろう。呆然としていたサイモンが急に言葉を荒らげた。

「そ、そうだ!そいつは、魔石なしでは、魔術が使えない!ロイエンタール辺境伯家の娘でありながら、テイマーにもなれない!落ちこぼれだ!しょ、将来王立獣騎士団を目指す俺には、不釣り合いなんだよ!」

息を切らし叫ぶサイモンの声。裁判長が“静粛に!”を連呼し木槌を打つ。

サイモンの荒い息遣いに向こうの弁護士のため息が重なった。

「失礼、法廷を騒がせ申し訳ない。で、ファティマ嬢、貴女の力を見せていただきたい。」

裁判長が再び木槌を打つ。

「ファティマ・ロイエンタール辺境伯令嬢、前へ。」

事務官に促されて法廷の真ん中に立たされた。チラリと見たサイモンの目は血走り、口角が弧の形に歪んでいる。

ここまで、性格が悪かったとは。魔術が使えなくても私は、恥じるようなことはしていない。私は、今日と言う日にロイエンタール家に生まれた。サイモンにはショボいと二度と見せるなと言われた虹を見せてやる!

意気込んで掌を上にして裁判長の方へ腕を伸ばした。

虹よ、と願った私の両掌から虹が立ち上った。

サイモンの映像が流れた時とは違うどよめきが上がる。

あれ?久しぶりに虹、出したけど、こんな威力………。

虹は天井や壁に当たり屈折し跳ね返る。

法廷内に悲鳴が上がる。

私の掌から出た虹は法廷を飛び出し中庭へ。不思議とガラスは割れてない。傍聴人の視線も外へ。

静まる法廷。けれど、裁判長も弁護士達も傍聴人も荒れ狂う嵐の中にいたようにボロボロだ。あれ?お母様や叔母様……私の身内は乱れずに綺麗。あ、サイモンも、尻餅を付いている。

「虹とは、空気中の水分に光が当たりみせる屈折の芸術。確かにこの法廷内にも空気中に水分は存在するでしょう。しかし、皆様が先程体験した虹の嵐を、魔石も魔術陣も何らかの詠唱も行わずに出せるファティマ嬢が無能?彼女は確かにテイマーの才能に恵まれなかった。しかし、学園の教師、並びに生徒の多くから、誰よりも動物、魔獣の気持ちを理解している生徒だとの評価も高い。」

思わず傍聴席にいる友人、先生の顔を見た。

何か心がほわほわしていた。

その時、にわかに中庭側の傍聴人が騒ぎだした。どうしたのかと目線を向けると私が放った虹が去り、暗くなっていたはずの中庭にキラキラとした光が降っていた。

中庭にある外廊下にいた人が空を指差し何かを叫んでいた。


光が……降りてくる。


誰かが叫んだ。

「そ、空にでっかい魚がいる!」

「なんだ!あれは!」

逃げる人々が、建物の中に入っていく。

でっかい魚?

もう裁判どころの騒ぎではなかった。

「い、一時、休廷!建物の奥へ避難を!」

裁判長が叫び法廷は騒然とした。

『ファティマ……。』

誰かの声、懐かしいと思う声が頭に響いた。

行かなきゃ!

私は、中庭へと向かった。


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