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裁判って、精神的にくる

ロイエンタール辺境伯に王立裁判所から私の出廷を命じる書が届いた。

「『自分の無能を棚に上げて、婚約解消の原因を、サイモン・オーランド侯爵子息の不貞に掏り替えようとした名誉毀損』ですか。」

文章を読み上げて感じたのは、呆れ。家族の纏う空気が険悪なものに変わった。

「そんなに違約金払うのが嫌なのかしら。学園卒業まで後一年、其までに何らかの才能の開花がなければ、婚約は白紙となり、婚約違約金も発生しないものとする。ってわざわざ明記したと言うのに……、一体どういうつもりかしら?解消を申し込んできたのも向こうが先なのに。」

お母様の言葉に首を傾げた。

「私からの訴えの方が先だと思いました。」

「ほぼ同時だが、あちらの書簡の方が先に届いた。まったく、我が辺境領を馬鹿にしている。」

お父様が低い声で婚約締結の折りに交わした契約書の文言を先に反故にしたのはオーランド家であると言った。

「サイモン様もユーコ様も、来月卒業ですから、私の卒業を待てなかったのでしょうか。」

1学年上の2人の卒業の翌日は私の誕生日だ。裁判の日でもある。侯爵家は爵位は高いが、其ほど資産がない。学園の特待生だったら学費も完全免除だけど、サイモンは特待生ではない。獣騎士科は色々出費がかさむから……、うちに借金もしてたはず。

「裁判の場で、ファティマと自分のどちらが今後のオーヴェル国に必要かを示して、訴えの是非を問うのだと。」

大きなため息を吐いたのは、大兄様。

「王立騎士団の入隊申し込み期限がファティマの誕生日の一週間後だからな、焦ってんだろ。もちっとマシな男だと思ってたけどな。」

と、ちい兄様。2人の兄は王立騎士団の中でも獣騎士として2年働き辺境に戻ってきた。

「あちらに責があることは明白です。学園の何人もの生徒からの証言に加え、お2人がイチャイチャしてる現場を魔道具が押さえてます。日付もバッチリ、魔道具の性能については学園に黙って設置していた方が証言してくださるわ。」

青筋立てて言うお母様、怖いです。って、学園に魔道具仕掛けるって、何処に?

音を録音出来る魔石よりも高価な映像を保存できる魔石を学園に?

「犯罪者は、捕まえてます。罪を償うためにも証言台に上がってもらいましょう。」

詳しくは教えてくれなかった。お母様と叔母様の笑顔が怖い。


裁判所は王城の南西に建っている。荘厳な雰囲気の入口の前には天秤を持った女神像。案内された部屋は中庭の見える静かな部屋だった。

裁判が始まるとサイモン側の訴えが続いた、いかに私が落ちこぼれかを語る。魔術が使えない、テイマーの一族に生まれながら、才能に恵まれず、学園でのあだ名は“ロイエンタールのみそっかす”であり、学園のエリートである獣騎士科を落とされ馬丁科へ移されたが、それも私が落ちこぼれだからだとサイモン側が主張した。

「ご自身の無能を棚に上げて、有りもしない侯爵御子息の不貞をでっち上げるとは、笑止千万!証拠としての証言も学園の理事、経営しているロイエンタール辺境伯が後ろにいると思えば、捏造も当然でしょう!」

声高らかに熱弁する弁護士にお母様の扇が折れる音がした。あー、怖いわ。

「裁判長、では、反論させてもらいます。」

ロイエンタール辺境領の弁護士が一人の男を証人として連れてきた。掌大の箱を持ってきた。

「この男は、2ヶ月前、学園に忍び込み、この魔道具を設置していました。この魔道具はこの魔石周囲の光景を記憶するものです。半年前に魔術省魔道具部門の方々が心血を注いで開発した魔道具を一般品として売り出して直ぐ、この男は購入したようです、購入理由は防犯。しかし、この男がしていたことは、盗撮です。」

ざわつく邸内。

弁護士は、壁に魔道具が記憶した映像を映し出すと言った。そして、男にいつ頃の映像なのかを問うと、満足そうな笑みを浮かべた。

「この映像を何故残していたのですか?」

そう尋ねた弁護士に男は述べた。

「半年前に従兄弟が学園の倉庫で如何わしい行為をしている男女がいる、誰に見られるか分からんのによくやると言っていたのを聞いた。倉庫で乳繰りあってたのが侯爵家の令息で婚約者もいるって聞いたから、屋敷に付けてた視聴魔石で現場を録画したら脅せる、金が入ると思った。」

「それで?」

「実際に強請ったら、思った以上に安い金しか取れなかったから侯爵家について調べた。調べてみたら、侯爵家とは名ばかりの経済状況で息子の学費も辺境伯に借金してるって分かった。」

侯爵家の内状が暴露され、傍聴席の侯爵一家に注目がいく。弁護士は、男の正体について犯人が財務省納税課勤務で貴族の内状を調べやすい部署にいたと話した。弁護士の指示で盗撮魔が法廷に立った。見た目は真面目そうな感じだった。

「視聴魔石を処分したって嘘を吐いた。金のない侯爵家より、坊っちゃんの婚約者の辺境伯の里から金を取れるんじゃないかって思って残してた。こっちの仕事が忙しくて、回収が出来なかった。貴族は名誉を大切にするから……で、視聴魔石を押収されて、取り調べを受け……ました。」

弁護士は優雅に微笑む。

視線の先には真っ青なサイモンとユーコの顔があった。

「さて、証拠物品第2号として、この魔石が保存していた映像を今から流しますが、無修正のものですので、未成年のお嬢様方、並びに男性諸君は顔を伏せ、耳を塞ぐように。なんなら、法廷から一度出た方がよいでしょう。」

サイモンが小さく止めろと声を出しているが、人々のざわめきは消えない。

裁判官が木槌を打つ。

「弁護士に聞くが、そんなにも衝撃を受ける内容か?」

「えぇ、それは、もう……私の秘書が私を部屋から出そうとするのを忘れて見入ってましたからね……。若い人には刺激が強いでしょう。不可視化の魔術と遠隔操作の魔術を魔道具に施していたようです。ですから、局部の近影もあります。出来ればファティマ様にも法廷から一度外に出てほしいくらいです。」

裁判官は、こめかみを押さえ、妙齢の夫人、令嬢に一時退廷を命じ、傍聴人の男性には退廷か否かを選択させた。もちろん、見ると言う選択もあるとした。

「因みに映し出されている場所は魔道具倉庫第5。お2人にとっては、思い出の場所でしょうか。」

ガタリと立ち上がったのはユーコだった。


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