未来の就職先
12/2加筆訂正。
テイマーの才能が開花しても魔獣契約が結べない者は、とりあえず卒業し、騎士団入隊試験を受けるか、冒険者ギルドに登録して依頼をこなしながら、相棒を探すのが一般的だ。もちろん、全く関係ない職に付く者も多い。私は、幼い頃から家族の魔獣や飼っている動物と接してきたからか、テイマーの才能はないものの、動物や魔獣とは仲良く、心を通わせることが得意で、下手したらテイマーの才能を開花した者よりも彼等の心情を察知できる。それが良くなかった。このままでは、獣騎士科の生徒の嫉妬心ばかりが私に向けられると考えた学園の教師、そして、親から習得課程の変更を勧められ今に至った。
「どうして、契約までに至らないのかしら。」
これは、常にある疑問。家族も首を傾げるほどだった。
学園に入っても私のようにテイマーの才に恵まれない者は多くいて、学園の生徒の4/5の数にのぼる。テイマーの才能を開花させた者の方が圧倒的マイノリティなのだ。
その中に何人のオーヴェル国民がいるのか、獣騎士科に所属しているのが何人なのか。それを考えると獣騎士科の生徒は誰もがエリート候補生なのだ。マジョリティにあたる私を含めた者達の就職先は、本当に多岐に渡り、階級社会なので、ある程度はそれに左右される。また、何らかの才能に目覚め、さらに魔術をどれだけ使いこなせるかも重要事項と言えた。
子供の頃からの友人のモモは、昔から小動物が好きで愛玩動物の手入れなんかを担うトリマーを目指しているが、別にテイマーの資格はいらないらしい。幼馴染みのエリックもテイマーの才能はないが、獣医師を目指すほど頭がよいし、実際、彼が入ったのは獣医科だ。モモには、一緒にお店をやろうと誘われている。
私もモモのようにテイマーの才能、資格がなくてもいいと思っている。しかし、私の家がロイエンタール辺境伯爵家だったことが、いつも私の心に重くのし掛かる。テイマーの件を除けば成績は常にトップなのだが、なんの才能も開花しないわたしは、周囲から落ちこぼれと言われていた。
彼、サイモンは、幼い時に結ばれた婚約の相手だ。見た目は、人の好みは其々だが、いい方だろう。剣の試験では常に上位に入っているが、座学が苦手な脳筋だ。侯爵家の者としてプライドが高く、王立騎士団への入隊試験を受けるため獣騎士科に入ったらしい。王立騎士団への入隊にはテイマーである必要は必ずしもないが、エリートと言われる王立魔獣騎士団への入隊には、魔獣への騎乗が必須だ。彼は、エリート中のエリートとなって、嫡男であるお兄様を追い抜きたいのだ。王立魔獣騎士団は、王弟閣下が指揮を執る精鋭部隊で、入るのは楽ではない、人格すら審査されるのだ。で、テイマーの資格を持つ馬丁がパートナーとして存在していると試験に有利であると言う都市伝説がある。サイモンの父親は才能ある彼に将来を見越して、私に婚約の申し入れをしてきた。ロイエンタール辺境領の潤沢な財政にも目を付けたのだろうけど。
しかし、いつまで経ってもテイマーの才能を開花させない私に彼の不満が爆発した。彼の隣にいる彼女は馬丁科に所属しているがテイマーの才能を開花させていることでも有名だった。
「君がテイマーの才能を持ってさえいれば。ユーコは隣国出身だが、我が国の王立騎士団の馬丁を目指している志の高い人だ。俺は彼女をパートナーとして選ぶよ。」
「分かりました。」
サイモンと彼女が友達以上の距離で過ごしていることは、何処からともなく聞いていた。婚約解消、もしくは破棄をいつか言われると思っていたからお父様には、此方から侯爵家に申し入れをしてくれと頼んでいた。オーランド侯爵は良い返答をしてくれなかったけれど、サイモンに甘い方だから婚約は解消されるだろう。
「それに、君は魔術の扱いも下手だからね、君と結婚だなんて恥ずかしいよ。」
魔力保有量の割りに魔術の扱いが下手だと恥ずかしいとされる世界だ。私は、その典型だと言えるだろう。
魔力保有量の多い、少ないは生まれた時に予言精霊が突然現れて告げることで判明する。
「わー、この子、魔力が多いねー!大変だー!」
「魔力少ないねー、でも、幸せになれるの!」
「わー、魔力ふつー、そこそこ頑張れー!」
意味不明であるが、全ての赤ん坊の誕生に現れ、こんなことを述べるので皆信じている。精霊の言うことを信じると、魔力保有量の多い者は大変らしいので、皆、其々の解釈で子供の将来に思いを馳せる。しかし、貴族階級の者は魔力保有量に拘る傾向にあり、実際、魔力保有量が多く、魔術の行使に長けた者は将来への選択肢が広がるのだ。私は、魔力保有量が桁違いらしいけど、得意な条件下でのみ簡単な生活魔術しか使えない。
子供の体には不釣り合いな魔力は私の肉体を蝕み魔力酔いを度々起こした。魔力の多い子はちゃんと成長するのかが第一の課題となる。
そう言えば、見舞いに来たサイモンに“情けないやつ”って言われたのを覚えている。
幼い頃の私は、沢山家族に迷惑をかけていたから、心苦しい思いをした。だから、祈った。
この体の辛さと家族の憂いをとってほしいって。
あの時、小さな光の珠が現れて何かしてくれた夢を見た。
あれっ?
ううん、違う、私……、森に入った。でも、何を?リドが家の護衛騎士を呼んでくれて、家に運ばれた!でも、高熱が出て、また、お母様を心配させたんだ。
翌日に私の熱は下がり、魔力保有量は変わらないものの、今までのように魔術を使って発散しなくても魔力酔いを起こさないようになった。あの熱が出るまで拙いながらも魔術を使えていたのに……。
「虹を出すしか能がないなんてな。」
吐き捨てるように彼は言って去っていった。