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テイマーの才能

「やはり、君との婚約はなかったことにしてくれないか?」

目の前でそう言ったのは、サイモン・オーランド侯爵令息。嫡男ではない。流れる金髪と少し垂れ目な茶色の瞳は、さながら何処かの王子様だ。彼の直ぐ隣には、隣国からやって来た留学生、たしか、馬丁科の女生徒だったな。


我がロイエンタール辺境領は、王国の南に広がる広大な森と険しい山を有しており、土地柄か森に住む魔獣と共に暮らす狩猟民族を起源としている。領地に住む民はテイマーの才能に恵まれた者が多く、建国の際にレッドドラゴンをテイムした一人の狩人が国王から爵位を賜ったのが辺境伯家の始まりだったりする。魔獣の頂点とも言えるレッドドラゴンは、南に聳える火山に今も鎮座し我々ロイエンタール領の民を見守ってくれていると言われている。

さて、そんな経緯もあり、ロイエンタール辺境領に、自然と魔獣を育成するための知識が集まってくるのは必然だった。

また、王都の北に空いた異空の穴から強大で凶悪な魔獣が現れるようになってから、国防を担う騎士には馬ではなく、魔獣に騎乗する方が生存率が高いと言う事実が判明した。ロイエンタール辺境伯領から魔獣の討伐に派遣された騎士達の殆どが魔獣に騎乗し活躍して生き残った。何代か前の国王は戦いの結果を考察し、騎士の騎乗する馬は、その魔力、実力から魔獣とせよと王命が降りた。そして、魔獣、魔獣の世話を担う者の確保及び育成も必要となり、ロイエンタール辺境伯に白羽の矢が立った。以後、ロイエンタール辺境伯領は、魔獣に関するスペシャリストの聖地となった。

私、ファティマ・ロイエンタールは、名門ロイエンタール辺境伯家の令嬢である。

現辺境伯当主は、私の祖父だ。嫡男である父は次期辺境伯なのだが、現職を気に入り中々辺境伯を継ごうとしない。辺境騎士隊の隊長で荒くれ共からも信頼の篤い、王立騎士団隊のエリートとは、毛色の違う男だ。しかも、騎乗はフェンリルと言う大型の狼の魔獣である。普段は父に合わせた大きさで大地を空を駆ける。みんなの憧れである。ファティマの兄も弟も妹もテイマーとしての才能に溢れ、嫁いできた母までも辺境領に来てからテイマーの素質が開花した。

環境による才能の開花は、以前から言われていたが、私はいつまでたってもテイマーの才能が開花しなかった。

動物や魔獣には好かれるのにどの動物も魔獣も私とテイムの契約を結んでくれなかった。魔獣達に尋ねても理由を教えてくれず、辺境領の学園に入学したものの獣騎士科から馬丁科に編入させられた落ちこぼれだ。

獣騎士科がエリートと言われるのは王立騎士団への入隊権利が得られるから。また、他の教育課程を受けながらもテイマーの才能に開花していると、動物、魔獣関連の就職がある程度有利となるそうだ。つまり、卒業までに何らかの魔獣と契約を結べたら将来ホクホクと言うことだ。しかも、在学中に契約を結べたらその時点で卒業試験を受けられる利点もある。もちろん、最終課程まで学ぶことも自由で、私の妹は学園入学前にテイマーの才能を開花させていたために、ある程度の座学と実技の試験に合格すれば卒業できた。しかし、一般教養を身に付けるために親から卒業を認められていない。

全てのテイマーにランクがあるように魔獣にもランクがあり、テイム出来る能力に差が出来る。ロイエンタール辺境一家の多くは騎乗出来るほどの大きさや力を持つ魔獣をテイム出来る才能を開花させることが多いが、妹が開花させたのは大人が腕に抱えることが出来る大きさの魔獣への才能。その事実を知った時、妹はホッとしたと言った。

「大きいのは趣味じゃないもん。」

趣味と言い切れる妹が羨ましい。そう言い切った彼女の夢はシルクシープと言う小型魔獣をテイムすること。羊のような見た目をした魔獣だ。妹はその毛を用いて最高級の生地を生み出し製品化することが目標らしい。ロイエンタール辺境領の火山の麓にのみ生息するシルクシープは草食の魔獣であるが、魔力保有量も多く、繁殖期にしか群れず気性が荒い。草食魔獣の中では珍しくテイムされることはほぼない。しかし、その体毛から紡がれる糸はシルクの手触りのある希少なものだった。

「蚕の作るシルクより丈夫で、通気性に優れているシルクシープの生地は魔獣以外のロイエンタール辺境領の特産として売れるはず!私は、卒業したら、野生のシルクシープと契約してみせる。」

ホントに妹はしっかりしている。学園には、獣騎士科以外に、馬丁科、獣医科、愛玩科、一般教養科などがある。どの課程にもテイマーの才能を開花させた者がいる。開花させようがさせまいが、人を差別してはいけないと校訓では掲げられているけれど、実際問題として、差はあるわけで、私の場合は、先に述べたように生まれから、憐れみと蔑みの目を受けることが多い。その上、私は、魔術が下手くそだ。本の通り長い詠唱が読めないのだから仕方ない。魔力保有量が多いにも拘らずだ。それ故に宝の持ち腐れ、落ちこぼれなどと言われている。



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― 新着の感想 ―
おもしろそうなんだけど、字下げして欲しかった。
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