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第8話

 先程までのどかな田園風景を映していた窓は、今見ると暗くなっていた。

 天気が急変したわけではなく、地下に入っていたようだ。


 一部地下鉄のローカル線なんて珍しいんじゃないかな。

 電車には詳しくないから確信は持てないけれど、都市の中心に出たとき以外で地下鉄なんて乗ったこともない。

 

 と、降りなきゃ。

 空いているので、荷物が多くても通るのには苦労しない。


 僕はホームに降り立って、電車を見送る。

 地下にあるのだから大きい駅に思えるけれど、降りたのは僕一人だけだった。

 電車の乗客からも不審げな目線を向けられていた気がしたが、自意識過剰というものだろう。


 緊張して若干ナーバスになっているのかもしれない。

 緊張とナーバスって意味一緒か。


 さらに珍しいことに、改札の脇には駅員が一人控えていた。

 黒服だけど駅員だよね?

 まさかテロ組織に乗っ取られたなんて……。

 妄想を膨らましてしまうのも、僕のよくないところ。


 ただ、いの一番にテロ組織という言葉が出てくるほど、その黒服は異様な雰囲気を放っていた。

 テロ組織メンバーでなければ、ヤのつく職業の方だろう。

 いや、知らないけど。


 黒服はこちらに鋭い一瞥をくれたものの、何も言わなかった。

 僕は若干怯えつつも、改札を通り抜ける。


「櫻小路家へようこそ!」

 出迎えてくれたのは、櫻小路さん。

 

 彼女の私服を見たのは、初めてだろう。

 もちろん数えていたわけじゃないけど、私服の彼女の可愛さは人智を超えた――さすがに言いすぎかな? でもそれくらい言いたい――レベルで、これまで見たことがないと、確信できる。

 至福のひとときだな。私服だけに。


 ………………と、返事をしなきゃ。

 くだらないギャグなんて考えてる場合じゃない。


 ん?

 僕は返事をしようと口を開きかけて、櫻小路さんのセリフのおかしさを感じる。

 櫻小路家へようこそ? 

 まるですでに櫻小路家の中であるかのような口ぶりだ。

 まだ、改札から数歩歩いただけなのに。

 

 そう指摘すると、櫻小路さんは可愛らしく首を傾げた。

 か、可愛い……!

 ……っと僕、しっかりするんだ。

 僕が彼女に惚れたりしたら、櫻小路さんは裏切られたように感じるだろう。


 可愛いと感じてしまうのはこの際もう仕方ないけど、見惚れないようにしないとな。

 正直これからの生活で、この決心を全うできるのか非常に不安だけれど。


「櫻小路駅は、櫻小路家の敷地内だよ?」

「え?」


 冗談を言っている雰囲気じゃない。

 たしかに私鉄だけれど、それでも駅が私有地の中にあるはずない……のかな?


 櫻小路さんの顔を見ていたら、正直自信がなくなってきた。

 そんな事例を(漫画でなら)見たことがある。


 金持ちというのは得てして世間の想像を超えていくものだし、本当かもしれない。

 ただ、言われるまま信じ込む気にもならない。

 僕は、現実主義というほどじゃないけれど、常識は大事にしているのだ。


「本当に?」

「うん」


 何が疑問なのかわからない、といった櫻小路さんの表情に、僕はひとまずそれが真実であることを認めることにした。

 そう考えれば、櫻小路駅のホームに立つ僕に、他の乗客たちが不審げな目線を向けてきたのも納得である。

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