お休みなさい
それでいいんじゃない?
私がやっと吐き出した言葉に、あなたはさらりと答えてくれた。
興味のなさそうな、乾いた声音にムッとして、あなたを見る。
目の前に、小さくて精一杯開かれた瞳があった。たじろぐ私をじぃっとのぞき込んで、次の言葉を待っていた。
「だって、私はもう疲れたんだよ」
たじろぎながら絞り出した私の言葉に、あなたは私から目を離さないまま静かにうなずく。
そっか。無理しないで。
そっけない言葉を返すあなた。
私はまたムッとして、悲しくなった。
でも、あなたの瞳は私をとらえたままだった。私の一挙手一投足を見逃してたまるものか、そんな気迫さえ感じる眼差しに、私はまたたじろいだ。
私はあなたの瞳から、ふい、と目をそらして空を見た。
小さな雲がのんびりと泳ぐ、抜けるような青い空。昨日までの雨が嘘のよう。その空を見ていると、ふわりとあくびが出て、心地よい眠気に瞼が重くなった。
疲れて、どうしようもなく疲れて、倒れるように眠る日が続いた。
眠っても眠っても、眠たくて仕方なかった。
すっきりと目が覚める、その感覚を、もう私の体は忘れてしまった。眠らなくてもいい体になってしまえばいいのにと幾度考えたことだろう。
私はまたあくびをした。
「眠いから、寝るよ」
私がそんな言葉を漏らすと、あなたは私を抱きしめて、温もりで包んでくれた。
ん、わかった。
あなたはやっぱりそっけない言葉で答えた。
ムッとして、悲しくなって、そして諦めた気持ちになり、このまま目が覚めなくてもいいや、と考えた。
そんな私を、あなたはしっかりと抱きしめてくれた。
…………
「……ああ、そうか」
半分閉じた瞼の向こうに、あなたの顔が見えた。
まっすぐに私を見て、しっかりと私を抱きしめた、あなたの顔がすぐそばに見えた。
さっさと寝たら?
そっけない言葉が耳を打つ。
だけど、あなたは私の手を握った。ぎゅっと、痛いぐらいに強く、しっかりと。
……うん。
もういい。
もういいよ、と私はそっとあなたの手を握り返した。
「お休みなさい」
眠りに落ちる直前、少しだけ震えているあなたの声が私の耳に届いた。
ありがとう、と私は心の中で答えた。
このまま身を任せたら、次はすっきりと目覚められる。
私はそう感じて、安心して眠りに落ちた。