雪降る聖夜に祝福を
雪がさんさんと降っていた。
革靴の中に雪が入って来る程の積雪だった。
コートのポケットに右手を突っ込み、背中を丸め足早に家路へと急ぐ。
左手もポケットに入れられればいいのに、と思うが、今日に限ってはそれも幸せに感じる。
左手にはホールのクリスマスケーキが入った袋が揺れている。
そして、右手を入れているポケットの中には四角い箱。
指先で触れ、そこにあることを何度も確認する。
最も、ポケットは深く作られており箱が落ちることはない。しかし、大事なものは何度でも確認したくなるのが人間の性だ。
今日ばかりは由美子が仕事帰りに連絡をしろ、という理由がわかる気がする。
もちろん、今日はこちらから連絡を入れた。仕事も珍しく定時で上がってきた。
ここ一週間は仕事が手につかなかった。
男として、一世一代の決心と誓いを由美子に伝えるのだから、無理もない。
「プロポーズされるなら、クリスマスがいいなあ。だって神様の誕生日の日に一緒になれたら、来世でも一緒に居られる気がしない?」
いつだったか、由美子は酔っぱらいながらそう言っていた。
俺も半分酒に飲まれていたが、なぜかその言葉だけは鮮明に覚えていた。
だから、今日なのだ。神の誕生祭であるクリスマス。
「神様、俺に力を貸してくれよ」
空を見上げると吸い込まれそうな程の黒から無限の雪が降りてきていた。漆黒から舞い降りる天使のようだった。
まるで俺たちの事を祝福してくれているみたいだ、と口元が緩んだ。